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車検員のメンタルを考える

20/12/21 おかざき(twitter :@_okazaki_tomoya)

 この記事は学生フォーミュラの現役学生、OB、審査委員などの関係者によって12/1から25日まで一日一記事づつリレーしていくアドベントカレンダーの12/21ぶんである。
昨日の記事はよしの兄貴の国内各社HEVの話なので、読もう!

以下の内容は車検で苦労することなどない中堅以上のチームには全く実のない内容であることをあらかじめ断っておく。めんどくさいから写真もわかりやすい図もつけてないし、前置きが長いので時間が惜しい人は「3」だけ読めばいいと思う。

0.まえおき

 私のことは某弱小チームで4年を過ごしそのまま某自動車メーカーの開発に入ったしがない学生フォーミュラ OBの一人である、とだけ覚えてもらえれば問題ない。
 趣味はゲームか運転かネットサーフィンか、くらいのつまらない人間なので面白いことが書けるわけもなく、カレンダーに名前を入れたことをすでに後悔している。とはいえつまらない人間なりにも4年もメーカーに勤めていれば多少は後輩たちの役に立ちそうな知識は得られるもので、今日はその中でも車検についてコツと思われるものを伝授しようと思う。

1.車検ってうぜーよなぁ? ※非常に重要な審査です

 学生フォーミュラという競技において新興チーム、下位チームの前に立ちはだかる大きな壁、それが車検である。もしかしたら一年生も読むかもしれないから一応説明しておこう。
 車検とは学生フォーミュラの全国大会において車両を走行競技に参加させるにあたり安全上の問題がないことを車検員の目で決められた規則に沿って、あるいはフィーリングによってチェックし、やれ燃えましただのタイヤが飛びましただのドライバーが感電しましただのアクセルが戻らなくなりましただの事故をやらかしそうな車をふるいにかけるイベントである。
 二年生以上の諸氏は御存知の通りこの規則とフィーリングというものが厄介で、規則も読み方によっては幅が生まれるしフィーリングなんてそれこそ車検員の当たり外れによるところが大きい。
 なぜ彼らは鬼の首でも取ったかのように細かいことを大騒ぎするのか?規則に書いていない「それはお前の感覚だろw」と言いたくなるような指摘を繰り返すのか?
車検で苦労しているチームはこう感じることが多いだろう。
 大抵の場合、学生側が理不尽に車検で引っかかったと思う場合も「僕らも合格にしてあげたいんだけどこれも安全のためだから」の一言で片付けられることが多く、これまで私の知る限りでは車検員と学生の間の考え方、意識の差が埋められるような取り組みはなかった。
 そこで今回は自動車メーカーからボランティアとして派遣されてきている彼ら車検員の思考回路について考察し、現役メンバー諸氏に伝えてみようと思う。
キーワードは「不具合への恐怖」である。

2.市場不具合という悪夢

 多くの車検員が勤めている自動車メーカーの開発現場にとって最も大事なことはなにか?
 それは「不具合を出さないこと」である。いくらクソつまらん魅力に欠ける車だろうがカッコいいけど不具合を出す車よりエラいのだ。
 不具合と言っても大小様々あり、「なんか走ってると内装の一部がカタカタ鳴るんだけど。」というムカつくだけのものから「走行中突然発火する恐れ」「渋滞中排ガスが車内に充満し、一酸化炭素中毒を引き起こす恐れ」等乗員の命に関わるものまである。しかしどんな不具合にも共通しているのは「不具合はお客様に迷惑を掛ける」ということである。不具合を出すことは会社にとってリコールや無償修理、果ては損害賠償等で負担となるだけでなくお客様の信用を失うことに直結し、ひいては車が売れなくなって会社が潰れました、ということになりかねない絶対悪なのだ。
 とはいえ1台あたり2万点を超える部品から構成され高度に電子化された自動車という商品を月に数十万台も作っている以上、不具合をゼロにすることはなかなか難しいのが現状である。
 そのため自動車メーカーは不具合が起きた際に開発基準の想定外の事態なのか、サプライヤーがやらかしたのか、設計者がチョンボしたのか徹底的に調査し、時に開発基準をアップデートし、時にチェック体制を強化する、等二度と過ちを繰り返すまいと日々心血を注いでいる。
 ちなみに不具合を起こすと自分が悪かろうが悪くなかろうが上司ともどもメッチャクチャ怒られるし、タダでさえ忙しいのに再発防止の資料を作らされるし、偉い人の前でそれを報告しなきゃならんしまた怒られるし、残業まみれになって精神的にも肉体的にもすり減るので良いことが何一つ無い。(僕はまだ不具合を起こしたことはありません。)

 要するに自動車メーカーで勤める者は例外なく「不具合を起こさないこと」を最重要視し、親の仇の如く不具合を恐れる。そして常に物事をリスク側に考え、疑わしきは罰する思考が染み付いている。
 「理不尽な車検員」の正体はコレだ。 

3.車検通過の近道 

 次は「理不尽な車検員対策」について考察しよう。
 結論から言えば「ぱっと見キレイで壊れなさそうに車を作ること」
 これが車検対策の最も手軽かつ最強の対策である。
 そして一見壊れそうな部品に対しては問題ない旨をエビデンスで示すことである。
 
文字にしてしまえば古来より言われてきたカビ臭いものであるが結局はこれしか無いのだ。
 前章で書いたように車検員とは前提として疑り深い生き物なので疑わせないような車を、要するに小綺麗で丈夫そうな車を作って黙らせるしかない。口でいくら今まで試走しても大丈夫だったので大丈夫ですと言っても貧弱なブラケットやらヤキソバハーネスやらムダに長い出量がバラバラなボルトを使っているようではムダである。一事が万事でどーせダメダメなんだろと思われるのがオチだ。
 どうしてもパッと見あやしい部品を使いたい、怪しい設計を採用したいなら耐久試験するなり熱実験するなり実験車を一台作って耐久走行試験するなりの「結果」をもって性能を保証することだ。(いずれもハードルが高い)
 ただでさえ車検員から見た現役諸氏の安全意識なんぞ市販車開発の現場における膨大な量のチェックを経験してしまえばコケ以下であるのに見た目にすら気を配れないやつの大丈夫ですをエビデンスなしにどうして信じられようか。
 次に技術面について。
 おそらくメーカーの人間が普段の業務と同じ目で学生フォーミュラ車両を見たら気になりだしてキリがない。

こいつらはこのブラケットが走行中に折れたらどうなるかまで考えてるのかな?熱を持つ部品が樹脂の近くに居るんだけど?これ排気漏れ起こしたら燃料系にガス当たるよね?これ上からオイル漏れたら排気系に垂れるよね?スロットルペダルの動きが渋いんだけど?ブレーキホースと駆動系が近すぎるんだが?ECMハーネスとフレームが強干渉してんだけど?etc……。

とはいえ学生フォーミュラはクローズドコースを走るのでタイヤがもげようがちょっとハーネスがブチブチになろうがDNFで終わりなので市販車レベルで安全を気にする必要はないし、時間的にも知識的にも現実的とは言えない。
 よって、せめて重大事故につながる「燃えない」「制御不能にならない」「なにか折れても部品を飛ばさない」の最低3点については厳に注意して欲しい。
  私が車検員ならこの3点に不安があると感じたら絶対に通さない。自分の通した車両が競技中に燃えて偉い人に怒られるのは嫌だからだ。
 まぁ怒られるだけで済まないことはうし兄貴がすでに書いてくれているので、読もう!

4.まとめ

 長々と身も蓋もない話を書いてきたが私も現役時代に辛酸を舐めてきたし、なにが車検だよくだらねーと思っていたことは否定しない。
 しかし現実問題としてそのくだらねー車検を通過しないことには文字通りスタートラインにも立てないので諦めよう。「理不尽な車検員」も現役諸氏が憎くて嫌がらせであれこれ指摘しているわけではなく、事故ってからじゃ遅いので面倒なことをネチネチ言っている。(繰り返すがうし兄貴の記事を、読もう!)
 そして現役諸氏には車検員の思考回路も読みつつ、一発で車検シールを貰える車を作って欲しいというのが私の、そして車検員をされる方全員の嘘偽らざる想いである。
 今年は幸か不幸か設計も制作も詰める時間がたっぷりあるしね。
 最後に私が学生フォーミュラOBとして、曲がりなりにも社会人として、一つの真理を伝えて終わろうと思う。

「立場が変われば言うことは変わる」

以上。

なんか聞きたいことあれば気軽にツイッターで聞いてね。
ここに書いてない車検テクニックも沢山あるのでそういうのでもいいよ。

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