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通貨の割安割高を相互間の為替相場から判定する


複数通貨間の為替相場変動から導く指標(EI)

円安円高を判断するのに対ドル相場を参照することが多いと思いますが、それが妥当でしょうか。ここでは複数相互間の為替相場変動から、長期的に見てその通貨が割高か割安かを判断する指標を提案します。

外貨預金を想定したとき、その外国の高い金利を得ること、自国通貨価値の下落リスクに備えること等が目的でしょう。
金利は見たらわかりますが、それが高くても、預金期間中にその通貨が下落してしまえば、かえって損してしまいます。

もし長期的に見て割高か割安か判断できれば、そうした損を避けることができると考えます。そこで、為替相場だけの情報を元に、次のようなオリジナル指標(以下、EI(為替インデックス))を作成しました。

2通貨のEIの比の推移は、それらの実際の為替相場の推移に比例しており、各通貨のE I の全期間での平均は100となっています。
日本円、米ドル、英ポンド、ユーロ、豪ドルについて算出し、その値が高いほど割高、低いほど割安であることを示します。

 

このEIが回帰的な動き(上や下に離れてもいずれ中央に戻ってくる)を信じるならば、外貨預金におおいて、以下のような戦略が考えられます。
日本円が割高な時期は、割安な通貨の預金を始める(回帰的動きで利益)
日本円が割安な時期は、割高な通貨の預金を解約する
日本円の状況に関わらず、割高な通貨の預金を解約して、割安な通貨の預金に回すことも考えられます。

過去のEI指標を見てどのような行動を採ることが考えられるか見てみましょう。

2009年


2009年3月までのデータで作成

短期間でしたが、日本円が割高で、英ポンド(130円:1月)、豪ドル(60円:2月)が割安のため、割安の2通貨の外貨預金を始めるのに好都合でした。(実際、この頃外貨預金を始めました。)
※円表示は1通貨単位当たりの「月」平均円相場

2012年

2012年3月までのデータで作成

日本円・豪ドルが割高で、米ドル(80円)・英ポンド(126円)・ユーロ(103円)が割安のため、米ドル、ユーロの外貨預金も始めました。
※円表示は1通貨単位当たりの「年」平均円相場(以下同様)がなかったことを意味します。

2015年、2016年

2017年3月までのデータで作成

2015年
米ドル(121円)がやや割高で、日本円が割安。
ここで、米ドルをやめたり、減らしたりすることが考えられました。
(外貨預金を持ち続けたかったので、減らしたのは僅かでした。以降でもほとんど減らしていません。)

2016年
日本円が割高なのは一時的だったため、外貨預金の増加はさせにくいですが、割高の米ドル(112円)を減らして、英ポンド(145円)を増やすことも考えられました。(実際には動かさず)

2020年、2022年

2022年9月までのデータで作成

2020年
日本円・米ドルが割高で、豪ドル(74円)・英ポンド(137円)が割安のため、豪ドル・英ポンドを増やすことが考えられました。(実際には動かさず)

2022年
日本円が割安な領域に入ってきました。また、米ドル高が突出しています。
外貨預金は一部だけ解約しましたが、結果的には先走ってしまったことになります。

現状

2024年3月までのデータで作成
2024年3月までの円ドル相場

直近の状況は、米ドルは相変わらず割高です。また日本円は非常に割安で、2007年並みになっています。2007年は米ドルも割安のため、円ドル相場では1ドル110円台でした。EIを用いることで、2通貨間だけでは見えてこない割安割高が見えてくるということです。
ただ割安割高と言っても長期的な水準との比較であり、現在は日米間の金利差により円安ドル高になっているという背景があり、円高ドル安方向にすぐに戻ることを意味するものではありません。
一方で、EIが過去においてどの通貨でも80~120で推移していることからすると、1ドル170円や200円とまでなることはかなりの異常事態であり、可能性は低いのではないかと考える次第です。

実効為替レートと比較

実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です。具体的には、対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出します。(日本銀行)

BISのホームページから、名目と実質それぞれの実効為替レートを取得し、2002年4月以降の各通貨の平均値が100になるように標準化したものが以下のグラフです。

名目実効為替レート(~2023.12)

名目実効為替レートでは各国の貿易相手国との貿易額が考慮され、実質実効為替レートでは更にインフレ分が考慮されます。
EIは、貿易額については全く考慮していませんが、為替相場だけである程度似た形状になっています。

実質実効為替レート(~2023.12)

実質実効為替レートを見ると、名目実効為替レートと比べても、日本円の水準が大きく低下しています。
現在の日本円は国内での購買力はさほど低下していない(欧米と比べインフレは低い)にも関わらず、他国通貨との比較で過小評価されていると解釈できると思います。

ビッグマック指数と比較

世界で売られているビッグマックで、各国の消費者物価を把握しようとの試みがありますが、2023年のEⅠの対象とした国については以下のようになっています。

  • ユーロ圏    827円

  • アメリカ    793円

  • イギリス    766円

  • オーストラリア 713円

  • 日本      450円

日本だけが飛びぬけて安いですが、アメリカと同価格となるには、2023年で1ドル142円とすると、142円×(450円/793円)=80.6円 すなわち1ドル80円ほどの購買力を日本円は持っていることになります。ですので、日本円は現在過小評価されていて、いずれ円高方向に調整される可能性を秘めていると解釈することができます。ただ、それがいつのことなのかはっきりしないのが悩ましいところです。
(もし今、日本でビッグマックが、アメリカでの円換算価格と同じ金額で売られていたなら、現在の為替相場1ドル150円が長期的に見ても割高ではないということになっていました。)

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