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「今は 積極財政一択」の理論(3.財政ファイナンス・MMTとの違い)      加筆修正 2024.11

MMTについて詳しめに修正します。(2024.11)


本シリーズの積極財政と、財政ファイナンス・MMTとの違いを整理します。

財政ファイナンスとの違い

財政ファイナンスは「国(政府)の発行した国債等を中央銀行が直接引き受けること」であり、日本銀行は国債を大量に買い入れることで、これを疑似的に行ってきました。その買い入れ減額を2年ほどかけて徐々に行っていくこと(2026年1~3月期で2.9兆円(0にするわけではない))を、日本銀行は決めています。

「The Case for Monetary Finance - An Essentially Political Issue (Adair Turner)」によると、財政ファイナンスは金利が0近辺(以下)の状況下で有効な政策として提唱されています。このように財政ファイナンスが有効である時期は限定されていることに注意が必要です。

日本の10年国債利回りはまだ1%弱ですが、0%から徐々に乖離してきているため、財政ファイナンスからのフェードアウトを意味する「国債の買い入れ減額を徐々に行っていく」という日本銀行の判断は妥当と考えます。

本シリーズの積極財政は、財政ファイナンスを前提としていません。財政ファイナンスが有効な時期であれば用いるのが望ましいというスタンスです。

MMTとの違い

MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)

MMTでは通貨を発行する権限のある政府(正確には中央銀行を含む統合政府)は財政再建(緊縮財政)を行う必要はないとされると要約されることがあります。

このシリーズでの考え方とは、”経済の真理に近い部分では共通点はあるものの、重要な点での違いもある”という言い方になります。
MMTについて詳しく見ながら説明します。

(A)MMTは、自国通貨を発行することができる政府について主に以下のように説明する。
(1)徴税や国債の発行による財源を確保する必要なしに、支出することができる。
(2)自国通貨建ての債務で債務不履行を強制されることはない
(3)経済の実物的な資源(労働、資本、資源)の利用が限界に達した場合に発生する、インフレ率の上昇が財政の制約である。
(4)徴税貨幣を経済から取り除くことで、ディマンドプルインフレーションの抑制が可能である(ただし、それを実行する政治的意思が常にあるとは限らない)。
(5)国債の発行が民間部門の資金を締め出すことはない(クラウディングアウトは起こらない)。

Wikipediaから抜粋

YouTubeなどの説明では、まずは(1)(2)をやたらと強調して、しばらくしてから「”では、いくらでも国債を発行してもよいのか”と聞かれるが」と前置きをしてから(3)の話を出して、「それは当然でしょ」と言う。いやいや、先に言ってくれ。

(1)~(3)を組み合わせて、「自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建て国債の額面金額について債務不履行になることはない。ただし、資源制約の生じない、インフレの生じない範囲での国債発行を前提としている。」と最初に言ってもらえれば、これ自体は突拍子もないことではないと思います。

自国通貨を発行できることが条件となっていますが、金などとの兌換が定められているものや、他通貨との固定相場となっているものは、この条件に該当しないとのことです。そのため、金本位制時代のことや、ユーロや、ドルペッグ制の通貨(緩やかながら人民元も)なども対象外です。
また変動相場制でも発展途上国については、国際資本移動の影響が大きく適用できないとの指摘もあります。
その中で、日本はアメリカと共に、この自国通貨発行の条件を満たしていることになります。

MMTでは完全雇用状態を目指すということなので、「資源制約のない範囲」というのは、完全雇用が達成されるまでの緩やかなインフレ状態になるまでの範囲のこととなります。
本シリーズでは、2%超の継続的な賃金上昇率達成まで積極財政を行うことを推奨しているので、指標は違えど似ていることにはなります。

(4)に関連して、財政支出をアクセル、徴税をブレーキとして、経済を調整することを意味します。財政政策重視です。

(5)は、国債の発行で預金も増加するので、資金不足によるクラウディングアウトは生じないという理屈のようです。一般的な経済学とは異なりますが、言われてみると否定しづらい点です。
このこともあり、低金利維持は可能としており、金融政策は軽視されています。(国債発行が事実上の金融政策と考えられているようです。)
本シリーズでは、長期金利が3%になるまで積極財政を行うことを推奨しているので、前提が異なることにはなります。

クラウディングアウト
行政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されること

Wikipediaより抜粋

事実解釈

(B)MMTは以下のような事実解釈に基づいている。
(1)略
(2)略
(3)貯蓄が政府の赤字をファイナンスするのではない。政府の赤字が貯蓄を創造するのである。
(4)略
(5)銀行は、集めた預金、金庫の中の現金、あるいは中央銀行に保有している準備預金を元手に貸出を行っているのではない。それどころか、貸出が預金を創造するのである。

Wikipediaから抜粋

解釈の仕方なので、(1)(2)(4)は省略しています。

(3)については、
(貯蓄-投資)+(租税-政府支出)=(輸出-輸入)
という投資貯蓄バランス(ISバランス)の恒等式と対応しています。結果的にはそうなっているのですが、因果関係のような表現が妥当なのか。

(5)は、(A)(5)の根拠ともなっています。

ポスト・ケインズ派経済学

MMTはポスト・ケインズ派経済学から生まれたとのこと。

(C)ポスト・ケインズ派経済学は、独特の理論的発展が進められてきた。
(1)(2)略
(3)財政赤字の大きさ(対GDP比政府債務残高)などは、財政危機とは無関係である。
(4)(5)略

Wikipediaから抜粋

略した箇所は既述の内容とほぼ同様です。
(3)は、国債の借換えをいずれは行うことを想定した場合、借換え時に高金利になっていて利払費が大きく、全体としてインフレを起こさせるほど過大になる可能性もあるのではないかと、やや不安を感じます。(国債ではなく政府紙幣のように利子のかからないものならば大丈夫かとは思いますが。)
(A)の(5)から低金利を維持できるという想定や、費用がかかっても国債発行で賄えるという考えからかと思われます。
なお、日銀が保有する分については、利払された利益分は、最終的に国庫に納付されるため、考慮する必要はないとも考えられます。

対GDP比国債残高が発散しないことが重要、また、より小さい方が無難ということから、本シリーズでは対GDP比国債残高を増加させないことを重視しています。

まとめ

本シリーズでは「対GDP比国債残高」が増加しない範囲で、「金利<名目経済成長率」であることを源泉として積極財政を行うこととしており、財政ファイナンスやMMTを前提としたものではありません。
そのため、緊縮財政派が、財政ファイナンスやMMTが現在有効でないことをもって、積極財政を非難するのであれば、それはお門違いです。そのような非難をさせないためにも、財政ファイナンスやMMTを前提とした積極財政の提言は控えた方が無難なように思います。
特にMMTは体系自体が独特のため、それ自体への同意を前提とすると、積極財政の合意まで達しにくいのではないでしょうか。

そのため、
(貯蓄-投資)+(租税-政府支出)=(輸出-輸入)
という反対のしようにない恒等式や、上で記載した
「自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建て国債の額面金額について債務不履行になることはない。ただし、資源制約の生じない、インフレの生じない範囲での国債発行を前提としている。」という反対しにくい事項を基に、
「対GDP比国債残高」をできるだけ増加させないということを重視することを主張するのが、現状「金利<名目GDP成長率」により財政赤字を一定程度許容しても対GDP比国債残高を低減できることもあり、緊縮財政派との無用の対立を軽減するのではないかと考えます。

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