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音楽と言葉

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クラシックの音楽家たちによるエッセイ集。#音楽と言葉 ライター: 齋藤友亨(トランペット奏者) 副田真之介(オーボエ奏者) 馬場武蔵(指揮者) 出口大地(指揮者) 山口奏(チェロ…
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#エッセイ

クラシックの音楽家によるエッセイをまとめた共同マガジン「音楽と言葉」

身近にクラシック音楽を生業にしている人はそういないだろう。 ・食べていけるとは思えない ・なぜなろうと思ったのか ・どんな人たちが「クラシックで食っていこう」などと思うのか 全てが理解不能だし想像もつかないだろう。アンケートサイトで職業の選択をするときはほぼ「その他」になるし、ひどいときは「その他・無職」と一括りにされる。一度だけ「アーティスト」という欄があるのを見たが随分感動したものだ。 音楽を職業にする人たち音楽を職業にする人たちは変わった人が多い。「音楽で食べ

命日、スメタナを想う 2

前回に引き続き、スメタナの人生に思いを馳せたい。 今回の鍵となるのは弦楽四重奏曲第2番ニ短調、最晩年の作品である。 私はこの題材を心に留めた時、とてもしっくりと来た事がある。昨今のコロナ騒動で疲弊している今、スメタナの音楽が私をはっとさせたのだ。 今回はその事について、大切に書いていきたい。 ・・・ 命が尽きるまで、彼を突き動かしたもの 弦楽四重奏曲第二番を書き上げたのは、1882年から1883年の間。すでに聴力は完全に失われ、医師からは作曲を辞めるように言われて

いっぱしの呑兵衛に赤ワインは作れるか

「酒を、作りたい」  世の呑兵衛なら、誰しもが一度は見る夢。  時には仲間と楽しく盛り上がるお供として、時には仕事のストレスを一人慰める夜のお供として、また時には気になるあの子とお近づきになるお供として。いつでも酒は我々呑兵衛のそばに寄り添い、素敵な時間を生み出してくれる。  そして我々は日々酒に愛情を注ぎ愛でるように飲むうち、また愛ですぎてお財布が寂しくなっていくうちに、一つの発想にたどり着くのである。 「これ、自分で作ったら安上がりでない?」  以下で述べるのは

絶対に笑ってはいけない盲腸24時前編

 今回は、知ってる人は知っているあの話、です。4年前盲腸になった時の体験記。 月曜朝 もし駆け出しの指揮者が盲腸になったら 太陽が昇る少し前、私はあまりの痛みに目が覚めた。この痛み、身に覚えがあるぞ…ベッドの上をのたうち回りながら記憶を巡らせる。  右下腹部を中心とした刺すような激痛。今まで幾度となく同じようにのたうち回り、その都度医者に急性腸炎と診断された、持病とも言える痛みだった。  またあいつか…悪友の登場にやれやれとため息をつきつつ置き時計に目をやる。病院の診察

絶対に笑ってはいけない盲腸24時後編

~前回のあらすじ~  盲腸の診断を受け、手術台で一瞬にして眠りに落ちた。  あーよいしょよいしょ…… 月曜夜 罪と罰と罰と罰 私は夢を見ていた。なんだか心地の良い夢だった気がする。薄まばゆい光の向こうから、こうもりの美しい旋律が聴こえてくる……。  ドゥイドゥー……ドゥイドゥー……あーよいしょよいしょ…… 「出口さーん、出口さーん」  誰かに呼ばれている、起きねば……。合宿で明け方まで飲んでたのに朝食のため叩き起こされたような感覚で、私はゆっくり目を開いた。  そ