グランドサークル新婚旅行記 vol.1 セドナ周辺

新婚旅行、はじまりの朝

2018年4月某日。今日から約2週間の新婚旅行が始まる。旅先は僕の第二の故郷ともいえるアメリカ西部のグランドサークルだ。リュックと帽子も新調し、なにもかもが最高の日!そう、僕が病院のベッドで天井を見つめていること以外はね。

というのも、出発日の体調は最悪。熱はないものの、体が重くて非常にだるい状態が一週間前から続いていた。原因として思い当たるのは、およそ一か月前から始めた急ピッチの新婚旅行計画、それぞれの両親の顔合わせ、さらには職場の異動が重なり、疲労がピークに達していたことだ。

当日の朝、近くの病院に行き「なにをしてもいいから体調をよくしてください!」と懇願した。その結果、人生初の点滴を打たれながらベッドに横たわり、黄ばんだ天井を見つめているという訳だ。
「こんなことで、新婚旅行を台無しにするわけには行かないんだ……」大量の薬を手土産に、僕らは空港へ向かう。

フェニックス

到着したのはアリゾナ州最大都市のフェニックスの空港。普段はラスベガス空港を利用することが多く、この空港の利用は初めてだ。スロットマシンの代わりにサボテンが出迎えてくれるのは新鮮で心が躍る。

妻が空港のトイレから戻ると「個室のドアの上下の隙間が広すぎる!」と衝撃を受けていた。アメリカのトイレそれは、用を足しているの人の膝まで見えるほどにドアの隙間が空いているのだ(防犯のためだそう。)。僕が初めてアメリカを訪れたときと全く同じ衝撃であり、当時を思い出して懐かしくも嬉しくもあった。

昼には宿に到着したものの、この日の予定はない。一人旅なら次の目的地のセドナまで移動していたところだが、新婚旅行なので余裕のある計画にした。もちろんキャンプもしないが、ご想像されるような熱い夜はない。グランドサークルの旅は睡眠時間を確保し、体力を回復させることが最優先だからである。

デザートボタニカルガーデン

妻は重度のカクタマニアである。アリゾナでは、サボテン(カクタス)に愛情をそそぐ人(マニア)をそう呼ぶらしい。妻のカクタマニアは僕と出会う前からのことであるが、年々サボテンに対する愛が増しており、2022年現在も、我が家にはサボテングッズが増殖中である。

そんな妻が期待を寄せる場所がここ、デザートボタニカルガーデンである。サボテンや多肉植物など、砂漠に生きる様々な植物を見ることができる植物園だ。フェニックスの空港から車で約10分とアクセスも抜群に良いため、まったり観光をするなら立ち寄りたい。

ここには大小様々なサボテンが植えられているが、特に目を引くのが身長の3〜4倍の高さがあろうかという巨大なサワロサボテンである。青空の下、背景のレッドロックも相まって、グリーンのサボテンが非常に映える。妻が普段より元気になっていて良かったのだが、どこか複雑でもあった。

サボテンの他に僕が気に入ったのは、アガベ・レジーナという多肉植物。日本名は「笹の雪」というらしい。膝丈もない大きさだが、その肉付きと球体の美しさに惹かれた。我が家でも育てたいと思い、2022年現在も探しているのだが、理想の形のものは見つかっていない(しかも高額!)。

植物以外で異彩を放っていたのが、人の顔をかたどった巨大なアート作品の数々。植物たちだけで十分魅力的なのに、それだけで勝負するのが怖かったのだろうか。

夕方、観光を終えようとする僕らを最悪の悲劇が襲う。なんと、妻の一眼カメラが落下して壊れてしまったのだ。この旅のために奮発して買ったカメラが、早々に使用不能になるというハプニング。泣きそうな僕の隣で妻は気丈に振る舞っていた。

レンズさえ交換できればなんとかなる。そう思ってフェニックスの電気屋を巡ってみたが、妻のカメラに合うものは見つからなかった(営業していない店が多い。)。
レンズ一つも手に入らないだと……?これがアリゾナ州最大の都市とは、笑わせやがるぜ!!

セドナ① アップタウン

セドナ

セドナはフェニックスから車で約2時間ほど北上したところにあるアリゾナ州の町。超自然的なエネルギーが噴き出す場所、ボルテックス(日本語ではパワースポット)が有名だ。しかし、このような目に見えない力に頼らなくとも、その目に焼き付く「絶景」以外の言葉はいらない美しい町である。レッドロックと緑色の木々、それと調和した町並みを眺めていると、誰もが心穏やかに過ごすことができるだろう。

アップタウン

セドナの中心地はアップタウンと呼ばれている。ビジターセンターやレストランなども充実しており、ショッピングやグルメを楽しむならここだ。建物は景観に溶け込んでいて、非常に雰囲気がいい。また、町の随所に遊び心のあるオブジェや楽器が置かれており、散歩するだけでも気持ちの良いところである。

セドナ② 4大ボルテックス

セドナのボルテックスの中でも、吹き出すエネルギーが強力な4つの場所があり、それらは4大ボルテックスと呼ばれている。その4つとは、カセドラルロック、ボイントンキャニオン、ベルロック、エアポートメサである。ただ、夫婦ともスピリチュアルなものに全く興味がないため、ボルテックスを求めてではなく、景勝地又は気持ちの良いトレッキングコースとして訪れる。まずはカセドラルロックのトレッキングから始めるのだが、体調が万全ではないことは忘れないで欲しい。

カセドラルロック

カセドラルロックのトレッキングは初心者向きである。荷物を何も持たず、普段着でトレッキングしている観光客も多いが、さすがに水分を持たずに登るのは危険だと思う。ところどころに急斜面もあるため、トレッキングシューズを推奨する。普段全く運動をしていない妻が、音を上げることなく登り切ったことには感心した。
このトレッキングではカセドラルロックの頂上までは行けない。というか、頂上に登ることは一般人には不可能のようである。トレイル終点は崖になっており、正面の見晴らしはいいが、左右に大きな岩壁があるため、360度の絶景とはいかない。また、スペースがないため、ゆっくり大休止するにはやや窮屈である。僕らが登ったときには、非常に騒々しい集団がいたため、とてもイライラした。絶景の前では静寂であれ!!

ボイントンキャニオン

ボイントンキャニオンを訪れると、カセドラルロックと比較して観光客は激減していた。遠めに見てもあまり特徴を感じられず、その他の岩山の一つといった感じである(気持ちの問題か。)。トレッキングにも挑戦しかけたのだが、時間と労力の割に合わないと思ったので、途中で引き返した。ふと妻に目をやると、エネルギーがゼロになっていた(おい、ボルテックスのやつ出てこい!)。

ベルロック

疲れ果てた妻を連れてベルロックを訪れた。なるほど、これは名前と形状が一致している。ベルといっても、レストラン等で店員さんを呼ぶときに「チーン」と鳴らす呼び鈴だ。ここも観光客は少なかった。遅い時間だったからかもしれない。

エアポートメサからの夕景

セドナで夕日を観るならエアポートメサが良いというので訪れる。ここでは大勢の人が日の入を待っており、夕方に他の場所が閑散としていたのは、観光客が皆ここに集まっていたからかもしれない。この日は雲が多く、日が落ちる瞬間ははっきりと見ることができなかった。セドナの町を見下ろせる良い風景だった。

セドナ③ ブロークンアロートレイル

ブロークンアロートレイル

ブロークンアロートレイルはアップタウンから車で10分弱のところにトレイルヘッドがある。己の足でトレッキングすることもできるが、今回はジープで爆走するするツアーに参加した。アップタウンに事務所を構えるピンクジープツアーという会社の主催で、かわいげの無いピンクの豚のオブジェが目印だ。受付を済ませた後、併設のカフェでしばしの休息。そのカフェからの眺めが素晴らしく、僕らが秘境の中の町にいることを実感する。規模は違うが、まるで砂漠の中の楽園、ラスベガスと似た感覚だった。

カフェでドリンクをがぶ飲みしたからか、直後に腹痛に襲われる。トイレに籠もっている間に、30人程のツアー参加者が集められ、乗り込むジープのグループ分けがされていた。待たせてしまった気まずさを感じながら、僕はツアーに合流する。

ドライブは舗装されていないオフロード。道とは言えない砂地や岩石の上を、上下左右に大きく揺られながらダイナミックに走り抜ける。ドライバーさんは敢えて急ハンドルを切ったり、恐怖心を煽るルートを選んだりと、楽しいサービスもしてくれる。ジープには窓がないから開放的で爽快。砂埃まみれになるのもご愛敬だ。

所々でジープを降りて周囲を散策する時間もある。まずはサブマリンロックという巨岩の上を歩くことに。周囲は緑の木々に囲まれて、その奥をさらにレッドロックが囲んでいる。ガイドさんが「サブマリン」を何とか僕ら日本人に分かるよう説明しようとしてくれていた。僕は理解し、潜望鏡のジェスチャーで応えると「それそれ!」と、意思疎通ができたのが嬉しかった。やっぱりジェスチャーが最強の言葉なのだと思う。ガイドさんは写真撮影もたくさんしてくれる。特に遠近法を使ったトリッキーな写真やパノラマ写真など、他では撮影できないような写真を残すことができるだろう。

セドナ④ ホーリークロスチャペル

ホーリークロスチャペル

レッドロックの崖っぷちに佇む、いや、埋め込まれた協会がホーリークロスチャペルだ。プレイステーションを縦置きしたような外観で、崖側から見ると、大きなガラス窓にクロスが刻まれている。この協会は、自然と人工物が見事に調和していて美しく、セドナで一番の絶景だと思う。人工物より自然を好む僕でも、第一位にせざるを得ないくらい素晴らしい風景だ。

チャペルの駐車場は争奪戦。仮にチャペルから遠いスペースになっても、運が良ければ無料のカートが迎えに来てくれるので、乗ってみるのも楽しいだろう。入口はガラス窓の反対側にあるため、回り込んで中に入る。

崖側から見ると縦長だったのに対して、入口側から見るとほぼ正方形に見えるため、チャペルの半分くらいが埋まっていることが分かる。入口側から見る協会も美しいのだが、眼を見張るのは背後に広がる大地だ。正面にカセドラルロックも見える。

ここからはチャペル内部へ潜入。入口はガラス張りではあるが、強烈な黒のスモークがかかっていて、外から中の様子は伺えない。恐る恐る入ってみると、まず目に飛び込んでくるのは、一際高い天井付近で、十字架に磔にされた人の像。赤々と燃える無数のロウソク。そして、その前で祈る人々だった。今までの観光気分は息を潜め、厳粛な雰囲気が支配している。

ふと左に目をやると、地下に続く階段があり、降りた先はお土産屋さんであった。俗っぽさを感じて少しホッとした。

スライドロック州立公園

スライドロック州立公園

セドナから車で北上すること約10分。スライドロック州立公園にやってきた。ここを大々的に勧めているガイドブックなどは見当たらないので、観光地としてはマイナーだろう。

今まで乾燥した砂漠や岩山にいたが、ここは川が流れるみずみずしい峡谷。旅のアクセントとして積極的に寄りたい。

リンゴの木と、大きな鉄の農具の脇を通り抜けると、レッドロックの中を流れる川が現れる。水は透明で冷たく、所々にちょっとした急流がある。その急流を、まるでウォータースライダーかのように滑って遊ぶ大人や子供たちで賑わっていた。僕自身も滑る気満々で来ていたので、木陰で水着に着替える。更衣室はないので、泳ぎたいなら服の下に水着を着てくることを推奨する。妻は恥ずかしがって水着にはならず、川でパーカーを洗濯していた。

スライダーはとても気持ちが良かった。

レッドロック州立公園

レッドロック州立公園で食べたサンドウィッチ

一度セドナに戻ってから、レッドロック州立公園に向かう。一帯がレッドロックなのだから、このネーミングはいただけない。この公園、そもそも行くつもりはなかった。本来は、カセドラルロックとオーククリーク(川)が交差した絶景「レッドロック・クロシング」に行く予定だったのだが、場所を間違えた。
正直、特徴の無い公園であり、景色がくすんで見えた。場所を間違ったことによる悲しみフィルターのせいかもしれない。
絶景を眺めながら食べるつもりのサンドイッチ入りの紙袋を抱えて、30分以上トレッキング。当然、目的地を発見できず、公園の入口にあったベンチでサンドイッチを頬張った。が!これがめちゃくちゃ美味しいくて疲れが吹き飛んだ!

その夜、妻の希望でセドナでマッサージを受けた。たぶん気持ち良かったと思うが、そんな感覚は残っていない。とはいえ、新婚旅行ならではのイベントなので楽しめた。


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