連続テレビ小説「瞳」の一本木家の家族の確執について補足

連続テレビ小説「瞳」は祖父・勝太郎と共に里親として里子を育てながら
ダンスに打ち込むヒロイン・瞳が描かれた一方で、勝太郎と瞳の母・百子が元夫で瞳の父・長瀬渡を巡る家族の確執が背景にある物語でした。

そこにドラマが踏み込むのは終盤になって長瀬渡本人が登場してからになります。また、瞳が成人して1年半程が描かれるドラマの中で過去に関する情報は台詞で示されたぐらいで、具体的描写に欠けています。

そこで、限られた台詞などを頼りに、過去に何があったのかを時系列に整理しながら真相を探りたいと思います。

時は2008年から20年程前、百子が短大を卒業する前後ぐらいに遡ります。

百子は分からず屋の父・古臭い月島から自分を解放してくれる人として、都会の合コンで長瀬に出会い、自分からアプローチしました。広告会社の営業マンという、月島育ちの父が嫌うタイプの人と分かっていても父が好きな祭りの期間中に紹介したのは、百子にとって希望の人だったからなのでしょう。神輿を担げなかったことで勝太郎に反対されても駆け落ちした
(もんじゃ焼き屋の中根兄弟の紙芝居によると、百子が長瀬を引きずっていった様子)のは百子の気の強さを伺わせます。

そんな百子に振り回された長瀬は思ったのでしょう。父との折り合いが悪い百子の幸せのために、自分は百子が好く「都会で成功している男」でないといけない、そこから外れてはいけないと。こうして仕事が上手くいかなくなった時、百子にそれを言えなくなってしまったのでしょう(長瀬が脱サラしたのはこの辺りでしょうか)。借金があることを隠したのがその心情を示してますね。

馴れ初めの段階から2人は対等の関係ではなく、だからこそ夫婦は何でも話せる関係を作る努力が必要だった。しかし百子は百子で、父や月島という地では得られない自分の幸せを求める余り長瀬の心情に気づかず、自分達が
いびつな関係の夫婦であることに気づかなかった。これが当時の2人の問題だったのでしょう。

そんな夫婦の間柄が自分達の間で明らかになり、勝太郎に露呈しそうになったのが、瞳が3歳になって初めて勝太郎と会った祭りの日に起きた「家を売ってくれ」騒動ですね。

借金の存在をここで初めて知った百子は夫から信頼されてないと感じつつ、長瀬と共に頭を下げたため父からは縁切り宣言。長瀬に合わせて咄嗟に頭を下げたのは、反対を押し切り結婚した長瀬との仲が悪くなっていることを
悟られないためなのは明らかですね。この後で互いに歩み寄ることがなかったのが夫婦の崩壊を招いたのだと思います。ここは勝太郎にとっても、百子にとっても酷い日になってしまった。

札幌に行った後も、百子は「なぜ夫はあの時になるまで一言相談してくれなかったのか」「なぜこんなことになってしまったのか」という気持ち一色。長瀬は自分の仕事が上手くいかず、妻に向き合うこともできない。
詳しい描写がないので憶測ですが、必要な時以外は喋らない硬直した夫婦だったのだと思います。そんな夫婦が夫婦、いや家族である唯一の希望が瞳だったのでしょう。瞳が百子に話した5歳の誕生日のエピソードがそれを表しています。
夕ご飯の後、今日も帰りが遅くなるだろうから先に食べようと言ったケーキを、瞳はお父さんがいないからと拒否。その後すぐ、息を切らした父が帰ってきた。プレゼントを手にして…

しかし、長瀬は百子と勝太郎の仲を損ねてしまったことが辛く、自分のせいで仲良くなれないのだと思い妻と子供を残して去っていってしまった。妻と向き合うことから逃げ、子供を置いてけぼりにするのも止むを得ないと考え逃げてしまった。

ここまでがドラマで描かれた期間外の出来事になります。

そして時が流れ2008年6月。東京・月島で成人した瞳と偶然再会した時、長瀬は百子と勝太郎の仲が依然回復してないこと、回復する前に勝太郎の妻・節子が亡くなってしまった事実を知る。そんな長瀬の謝罪と、かつてのように自分の失敗や家族から逃げることはもうしないとの覚悟。

長瀬を見て、自分もかつて百子に父親として向き合うことができず里親になってから家族は作るものだと気づいたと話す勝太郎。

勝太郎も勝太郎で、父親として百子に向き合わなかったせいで百子を「自分の幸せのために結婚相手に対し求めすぎるモンスター」にしてしまい、その後の娘夫婦のありとあらゆる不幸に繋がってしまったと気づいたのでしょう。
「家を売ってくれ」発言や妻と子供の元を去ったのは行為としては許されざるものですが、その根底にある長瀬が百子に借金を相談できなかった背景には百子が長瀬を求めすぎたことが原因にあり、当時の百子の背景には勝太郎が百子に向き合わなかった姿勢がある。長瀬一人だけが悪いのじゃないと思ったのでしょう。「ごめんな百子」には幸せを追い求めていただけなのに、幸せになり切れなかった百子への悔恨がありますね。長瀬に対しては行為としての重い罪、しかし行為を招いたのは自分達親子の方にも瑕疵があると受け止めたのでしょう。

親の問題に翻弄される子供がいる。
親の問題にはそのまた親の問題が隠れている。
「瞳」で描かれたヒロインの家族には、親子3代に影響を及ぼした家族に纏わる物語がありました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?