概念型探究の肝となる「3次元のカリキュラム設計」の考え方
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。今回のテーマは「学びの設計」です。
私がIB校(教室での授業)や教育関係者に向けて学びのデザインをする時に、軸にしているのが「概念に基づくカリキュラムと指導(Concept-Based Curriculum and Instruction)」と 呼ばれるカリキュラム設計論を提唱しているエリクソンの考え方です。「学びの設計」がいかに重要であるかは、エリクソンも次のように述べています。
「なかなか、学校で学習したことが社会とどのように繋がっているのかわからない。」という問題は、カリキュラムが「事実的な知識」と「技能(スキル)」をいかに学習者にわかりやすく教える/習得できるのかで終わっていることが原因だと考えています。これは二次元のカリキュラム設計と言われています。
さて、今回のテーマでもある「3次元のカリキュラム設計」の重要性についてここからは私自身のしくじり事例から考えていきます。
私は、大学5年生の時に、「一人一人に合った学びを公教育で実現する」というテーマで、日本の教育をよりよくしていく糸口を見つけるためにフィンランドの学校現場で半年間のインターンを行いました。滞在期間に約30校の学校を訪れ、「一人一人に合った学びを公教育で実現する」を支えているフィンランドの教育システムについての情報を現地でたくさん得ることができました。
ここでいう情報というものは、DIKWモデル(Date→Information→Knowledge→Wisdom)に基づいています。
そして、ここでは海外で得た(英語での情報なので、日本語に置き換える際に個人の解釈も入る)情報ですが、実際に現地で見聞きしたものを情報と定義してまとめていきます。例えば、こんな情報を得ました。
私は、フィンランドで得た情報を日本に持ち帰り、色々な場所で報告会を行い、フィンランドの教育についてSNS等で発信する活動を行っていました。そして、私の留学の奨学金を出してくださった鹿児島県の企業の方に留学での学びをプレゼンする機会があり、その時のフィードバックが今でも記憶に残っています。
という言葉でした。このフィードバックがどういうことを意味しているのか、このnoteを最後まで読むと理解できると思います。
さらに、教員採用試験の自己PR書に留学経験を踏まえ、公立の教職員に採用されたときに実現したいことを言葉にしました。
この自己PR書を読んだ後に、面接官に言われた言葉を今でも忘れません。
結果は二次試験の面接で不採用となりました。
私のしくじりはまだまだ続きます。その1年後に再びフィンランドで働くことを決め、まちづくりの文脈で「フィンランドではコミュニティの中で子どもたちをどのように育んでいくのか」をテーマに短期移住(6ヶ月)を行いました。そして、現地で働きながら様々な情報を得ました。
私は、この仕組みを日本でも実践できないかと思い、今度は地域おこし協力隊として移住を行います。結果的に、3年間島で暮らす中で、島の方と良い関係を築くことができ、実際に子どもたちの居場所を行政と助成団体と協定を結ぶことで立ち上げることもでき、具体的なアクションを一歩踏み出すことができました。
島の学校現場勤務でも、せっかく自然なカタチで複式学級のサポートをする立場(5年生の副担任のような立場)で入れたのに、教室でイヤーマフを取り入れたり、リラックスして学べる環境を子どもたちと選んで学ぶ環境を変えてみたり、板書をしなかったり、日本の公教育の文脈を色々と考慮せず活動したことで、学校現場との関係性も築けない等たくさん失敗しました。今思えばもっと上手くできたと思います。
さて、私のしくじりはたくさんあるのですが、私に何が足りなかったんだろうということを今なら複数の原因を挙げられますが、今回は情報の伝え方に課題があったように思いました。
もちろん、現地で経験した情報をそのまま伝えることにも価値はあると思うのですが、日本の文脈に合わせて伝えることで相手の受け取り方も変わったのかなと思いました。
「では、フィンランドで得た情報を異なる文脈である日本で教育実践をしている人たちに届く言葉で伝えるには、どのように情報を整理していくと良いのでしょうか?
その1つが現地で得た情報をそのまま伝えるのではなく、情報と情報の間にある繋がりや関連性を見つけて、自分なりの理解を一般化したものを伝える方法があるのではないかと思います。ここでは「(情報から知識/概念的理解に引き上げる)知識の構造に基づく3次元のカリキュラム設計」と「(フィンランドの社会から日本の社会への)文脈の転移」の繋がりについてまとめていけたらと思います。これについてまとめた図が以下の図になります。
私が運営しているフィンランドで教育を探究し、実践するプログラム(フィンランドGTP)では、主に「個人のテーマ探究」と「フィンランドのナショナルカリキュラムを紐解きながら授業設計をし、現地で授業実践する」パートに分かれています。今回は「個人のテーマ探究」にフォーカスしてまとめていきます。
個人の探究テーマの例としては、インクルーシブ教育、こどもの権利、英語教育、キャリア教育、生涯教育、多様性を認める教育、精神SISU、探究的な学びの設計などが挙げられました。
現地に渡航する前に、フィンランドの教育に関する本を読んだり、自分の探究テーマを決めて、まずはインターネットなどを用いて、事前に情報収集を通して問いを見つけて、現地に渡航しました。
現地では、現地にいるからこそできる情報収集を中心に行います。町の人にフィールドワークでアンケート調査やインタビュー調査を行ったり、学校現場で現地の先生や学生にインタビューをしたりディスカッションを通して情報を集めていきます。
ここで終わってしまうと、事実レベルの情報で終わってしまいます。現地で得た情報を日本に持ち帰っても、日本の社会のシステムや考え方の違いで、そもそもフィンランドで学んだことが別の世界の情報で、日々生活する中で忘れていくことになってしまったり。現地で得た情報を日本で活動をする人にそのまま伝えると「フィンランドの教育は面白い。」「ここは日本だからね。」「予算がそもそもないよね。」「政策から変えないとダメだね。」というように、聞いた人も「フィンランドだからできるよね。」という感想だけで終わってしまいがちです。
「では、実際に現地に渡航した人(海外の教育を取り入れたいと思って渡航した人)や、経験談を聞いた人が感想で終わりではなく、そのアイデアを実際に自分の置かれた状況に取り入れる(応用できる状態)にするにはどうしたらいいのでしょうか?」
ここで、用いる手段が、エリクソンが提唱しているカリキュラム設計論です。情報を情報のまま終わらせるのではなく、情報と情報のつながりを概念を通して整理することで、一般化(自分なりの理解)をつくりあげていきます。
事実(現地で得た情報)から概念的理解に引き上げる実践として、フィンランドGTPでは「概念型探究のフェーズ」を元に研修設計をしています。
現地渡航までは、上の図で言うと調べるフェーズまできました。一般的に調べたことをまとめて発表する授業や研修は多いのではないでしょうか?ここからは、情報を整理して、一般化をつくり上げて、具体的に日本で実践できるアイデアまで考えていきます。
事後研修が始まり、いよいよ情報を整理するフェーズに入っていきました。この研修で学んだことを報告する場を設けるので楽しみにしていただけたらと思います。
今回のnoteでは「なぜ、学びの設計が重要なのか?」「二次元のカリキュラム設計から三次元のカリキュラム設計に引き上げる意味」についてまとめていきました。
いつも読んでいただきありがとうございます。
moimoi!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?