じっくりと話をしたことは無いが、そこそこ人となりを知る人物がいる。田口昇平である。高松にまた新しいブリュワリー出来るのだと思った矢先に亡くなられてしまった。訃報を聞いたのは、ボランティアで一関のビールまつりに参加していた時で、顔なじみのブリュワリーの方からであった。そんな彼の話を今回の帰省時に彼を思い出すことになるとは思わなかった。

毎年、実家である香川県高松市に帰省するといくつか必ず寄るお店がある。その1つが琴平鉄道高松築港駅内のStation Pubである。そこには、香川県産の小麦を使ったことちゃんエールがあり、このお店のハウスエールである。先日の帰省した時、店番をされていたのがPubのマスターの奥さんであった。2杯ほどことちゃんエールの樽生を飲みながら話していた中で、ことちゃんエールのレシピは田口さんが遺されたモノと聞き、松田優作氏の言葉が頭に浮かんだ。

『人間は二度死ぬ。肉体が滅びた時と、みんなに忘れ去られた時だ。』

田口さんと私は恐らく何度かイベントかなにかで会話をしているはずである。しかしながら、記憶に残るものではなかったが、琴ちゃんエールを通して強く心に響くものがあった。クラフトビールは生産者の顔の見えるビールである。誰がレシピを書いたのか等、「作り手」と「飲み手」の距離が近い。だからこそ名前が強烈に印象に残る。

それと一緒に思い出した話がある。ヒューガルデンホワイトというベルジャンホワイトエールがある。このビールは既に作られなくなったヒューガルデン村のレシピをピエール・セリス氏が復活させたものだ。死後に作品が評価される芸術家のように、レシピが残っっていればいつか復活することもあるのかもしれない。それは1000年、2000年後なのかもしれないが。それでもそれは蘇りなのだと思う。

日本でクラフトビールを醸造しているファーストランナーの方々が還暦近くになってきた。これまでに鬼籍に入られた方もいるし、まだまだ元気な方もいる。それでも死というやつは突然やってくるからこそ、今飲めるビールを感謝して飲まないといけない。過去を思い、今を楽しみ、未来に馳せる。そんな飲み方が出来るように修行していかなくてはならないと感じた今回の帰省であった。それを感じさせて頂いた縁に感謝したい。

またこの投稿を書く際に下記の記事も見つかった。次回の帰省時にはのみもの屋に寄ってみようと思う。

https://www.jbja.jp/archives/27180

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