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「海よりもまだ深く」

ほとんどの生徒にとって校則は窮屈で、思い出せば不思議なくらい馬鹿馬鹿しいものもあった。
卒業して、服装も髪型も、朝寝坊しようが、泥酔しようが、咎める周囲はいても罰則はない。身近な罰則は交通違反ぐらいだろう。

大人になって少しずつ分かってくるのは、目に見えないルールが自分を守ってくれているということ。そのおかげで案外心地よかったり、少し踏み込んだ表現をすれば、ルールがあるから「戻るところがある幸せ」がある。

家族って家族を大切にしようという想いの集まりだということを映画は思い起こさせてくれた。

ひとり暮らしでは脱ぎっぱなしの洗濯物も実家に帰れば洗濯機に入れる。
朝のシャワーで十分だが、「寝る前に入りなさい」と母に言われれば実家では、入る。

よそではどうでもいいと思っていても、家族の一員ならば従う。
そんな小さなことが積み重なっていているのが家族で、ある種のルールの上に微妙なバランスで成立しているものだと思う。

夫に先立たれた淑子(樹木希林)が住む団地。どこか懐かしく感じる日常の風景や臭い、たとえばおばあちゃんの家のそれとか。
淑子を訪ねた息子良多(阿部寛)と、その別れた妻響子(真木よう子)と11歳になる息子が、台風のせいで帰れなくなって団地でひと晩を共に過ごす。良多に愛想を尽かした響子からすれば仕方なく訪問することになった元義母の家。
淑子は「川の字で寝たらいいじゃない」と3人の布団を敷くのだが・・・。

「硬すぎて食べられないよ」と言いながら、良多が淑子手作りのカルピスのアイスをスプーンで突っつく場面で僕は実家の台所を想い出した。

(2016年是枝裕和監督)

※2016年5月

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