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『海街ダイアリー』

市井の女性の人生は、いくつもの時代で彩られている。
不本意の時代、翻弄の時代。
しかし、というか、だからというか、女性の多くは柔軟で自由な精神を持ち合わせている気がする。大志を抱けと言われて少年時代を過ごし、社会に出る頃には安定を求められて従順を身に付けていく男性こそ、窮屈な生き物だ。

鎌倉の古い一軒家に暮らす3姉妹長女さち、次女よしの、三女ちかのもとに、15年前に離婚して出て行った父の再婚相手との娘中学1年生のすずが、父の死をきっかけに越してきた。
異母妹を迎えて4人となった香田家の四季を中心に置いて、周辺の人たちとの間に起こるエピソードを綴る。
ストーリーに大きな展開がないことでむしろ、幸せな時間を感じることができたのかもしれない。スクリーンいっぱいに映ったすずの、何とも言えず瑞々しく美しい横顔に涙腺が緩む。登場人物の誰ひとりとして悪役がいない、皆魅力的で良い人。

離婚後に3姉妹を置いてやはり出て行った実母から「家は売ってマンションにでも越したらいい」と言われた長女さちは「この家は私が守ります」と言い切る。姉妹の背丈を刻んだ柱、茶の間も、ふすまも、廊下も、縁側も、現在進行形で歴史を刻み続ける。

我が家のささやかな縁側と前の小さな庭をもう少しキレイにしなきゃ。そんなことを思いながら映画館を出た。

2015年是枝裕和監督作品。

※2015年6月

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