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ホオノキのこと


わが家の庭には大きなホオノキがある。
高さはざっとみても25mくらいはあるだろうか。
樹齢は一体何年くらいなんだろう。

この土地に私たちが越してくる前からこの木はあった。

家が立つ前は、かなり鬱蒼とした森で、針葉樹と広葉樹が入りまじり、雑然としながらも何か豊かな感じのする土地だった。

なるべく木を切りたくない思いでいたので、どの木を残し、どの木を切るのかを決める作業はなかなか悩ましく、一本の木を切る決断をするのにいちいちと時間がかかってしまうのだった。

ホオノキは葉っぱも大きく(大きいのものは40cmくらいある)、落ち葉の管理がなかなか手間なので、切ることを勧められたが、私たちはこの大きな木をどうしても切る気にはなれず、むしろシンボリックなものとして大切にしようと決めたのだ。


毎秋、何百枚もとめどなく降ってくる大きな葉に苦労する。

葉の表はこげ茶、うす茶、黄茶などの色がさまざまな模様となり、ひとつひとつ表情がとても美しいのだが、裏面は妙に白っぽく、べたっと単調で、裏返って落ちている姿は美しいとはいえない。

だからひたすら拾っている。拾ったそばからまた降ってきて、ふと見上げると、次の落下を待っている葉っぱ達がワサワサとしている。

なかなか終わりの見えない作業にため息が出ている。腰も痛くなってくる。

せめてこれがお札だったら嬉々として拾うのにとか、幼稚園の子供たちが通り掛かってくれたら遊びながら喜んで拾ってくれるだろうかと考える。

最近は修行僧になった気持ちで無心で拾うことにしている。


そんなこんなで、そのうち毎秋のこの恒例行事も終わりを迎える。

落ちる葉もすっかりなくなり裸になったホオノキ。

なにやらさっぱりしたよといった感じで、すくっとたっている。

葉が落ちると、色白の木肌がより冴えて見える。
美しく凛とした大木。
毎年落ち葉の季節は手間がかかるけど、やっぱり私はこの木が好きだなと思う。

ホオノキは、「朴の木」と書いて、素朴のボクなのだ。白洲正子さんの著書「木 まなえ・かたち・たくみ」によると「『朴』という字の旧字は『撲』という字で、自然のままで、素直なこと、外観を飾らぬことという意味がある」とのこと。

そんなホオノキも、5月末ごろだろうか、それは見事な大輪の花を咲かせる。

鷺の羽のような真白く大きな花。

空高く咲くその花は、「素朴」というイメージとは掛けはなれ、力強くとても華やかなのだ。近くで見ることができないというのもまた憎らしい。

毎日見上げるホオノキ。

この大木から私たちの日々はどう見えているのだろうか。


ホオノキ モクレン科 細工がしやすい。飛騨の「有道杓子」、朴葉味噌が有名

出典 
木 なまえ・かたち・たくみ|白洲正子|住まいの図書館出版局










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