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家計に例えて自治体財政を見る

≪おごおりト−ク31≫

今年度、部内で入庁から5年以内の職員を対象に「自治体財政」をテーマにした「自治体財政ミニ講話(全7回)」を実施しました。

新たな試みとして始めた「自治体財政ミニ講話」ですが、残念ながら私は財政マスターではありません(笑)…なので、このミニ講話は財政のプロ職員を育てることを目的としたものではなく、あくまで自治体職員として必要となる自治体財政を「見る目」「読み解く力」を身に付けるために、まずは基礎的な知識を習得しましょうという趣旨でやってみました。

今回はそのミニ講話の中から、「財政健全化について」ご紹介したいと思います。

自治体財政を読み解く力

自治体財政を見るときに、皆さんが一番知りたいことは何ですか?いろんな視点があると思いますが、ざっくり言ってしまえば「財政状況が良いのか、悪いのか?」「そもそもお金は足りているの?」ということでしょうか。

家計の状況が良いか悪いかを判断するときに、支出ばかりをいくら眺めて見てもわからないのと同じで、まずは毎月定例的に入ってくる収入を把握して、どの範囲まで支出が可能かを考える必要があります。
これは自治体財政も同様です。自治体の予算は「何にいくら使うのか」という支出の計画であると同時に収入の計画でもあるので、まずは定例的に入ってくる歳入がどれだけあるのかを把握したうえで歳出を考えることが必要です。

また、予算・決算を通じて財政状況の良し悪しを見る場合は「その年度に必要な支出の財源が、同じ年度内の収入で賄うことができているかどうか」という視点で見ることが必要になります。これは家計の状況を判断するときに、「その月に必要な支出が、同じ月内の収入で賄うことができているか」を見るのと同じです。

自治体職員として「行政運営リテラシー」を高めるためには、まずは私たち自身が自治体の財政状況を正しく読み解き、理解する力を備えることが必要だと思います。さらには、市民に対して自治体の財政状況をわかりやすく伝えることが、市民の「行政運営リテラシー」を高めることにつながると思うのです。

財政健全化の目的とは

財政健全化というと「予算の無駄を省き、経費を削減すること」と考える方も多いと思いますが、それが財政健全化だとすると、それは誤りです。

そもそも財政健全化とは、事業の必要性や重要度に応じた優先順位付けによって事業効果の低いものや必要性の薄れている事業を見直し、そこで捻出した財源をより必要性の高い事業や新たな政策推進に充てることを目的としたものです。
つまり、「ビルド&スクラップ」により、新たな政策の推進(ビルド)のためにより優先順位の低いものを削減(スクラップ)するというトレードオフの考え方に立つものです。
また、予算編成における「枠配分予算」も、単なる予算削減のための手法ではなく、限られた財源の中で、これからの新たな行政需要に対応した政策推進を実現する財源(臨時経費や投資的経費に充当する財源)を生み出すための手段なのです。

今後も少子高齢化による社会保障関連経費の増大や公共施設の老朽化による更新改修費の増加、治水対策事業、自治体DX事業、子ども家庭支援事業など新たな行政需要はますます増大していくことが見込まれます。一方で、歳入一般財源の根幹である市税収入は人口減少の影響により減少が見込まれるなど、依然厳しい財政状況が続くことが予測されることから、この財政健全化は自治体運営の底流に位置付けていくべき取り組みだといえます。

つまり、緊急財政対策計画における目標値が達成できたからといって財政健全化が不要になるものではなく、実質単年度収支や経常収支比率などの財政指標に問題がないからといって財政健全化に取り組まなくていい理由にはならないのです。

市民にとって良い予算とは

これまで、自治体の「財政状況の良し悪し」を見てきましたが、財政状況が良いからといってそれが市民にとって良い予算なのかというと必ずしもそうではなく、「財政状況の良し悪し」と「市民にとって良い予算かどうか」は全く別の問題だといえます。

「市民にとって良い予算」をあえて歳出面から考えてみると、「市民ニーズに基づいて行政サービスの充実に向けた事業費(支出)がしっかり盛り込まれた予算」ということになると思います。少なくとも市民の代表が市長であり市民ニーズが反映された計画が総合計画であるとすれば、「市長の施政方針や総合振興計画の実現に向けた事業費が積極的に計上されている予算」が同じく市民の代表である議会で議決されること、それが「市民にとって良い予算」の必要条件ということになると思います。

しかし、だからといって無制限に事業費を予算計上できるわけではなく、それには裏付けとなる財源が必要となることから、限られた歳入財源の中では全ての市民ニーズを実現することは不可能です。
自治体の財政悪化の主な要因が経常的経費の増加にあるとすれば、少なくとも新たな市民サービスの充実に向けた新規事業は行わず、既存事業を粛々と継続するだけであれば財政状況が悪化するような事態は生じないということになりますが、それでは今まで以上に市民満足度を高めることはできません。現実的には、新たな住民ニーズや地域課題の解決、社会変化に適応した様々な行政サービスの充実・強化が求められます。

使えるお金には限りがあり、やりたいことの全てを実現できない状況の中で市民満足度を高める予算を実現するためには、それぞれの所管課において市民ニーズや地域課題を熟知している職員自らが、事業の必要性や重要度に応じた優先順位付けによって既存事業を見直し、新たな政策推進のための財源を生み出す不断の努力、つまりは財政健全化に取り組んでいくことが必然となります。
つまり、私たち職員にとって財政健全化とは、単に無駄を省き、経費を削減するだけではなく、限られた財源の中で、より市民満足度を向上する予算を実現するための手段だといえるでしょう。

打ち出の小槌とお金のなる木

自分の家計なら当たり前のことも、自治体財政になるとそれが分からなくなるのは何故なのでしょうか。

自分の家計の話なら「要るものは要る」「これ以上の削減はできない」「経費削減は生活の質を下げることになる」などといったことは出てこないはずなのに、こと自治体財政になると現場からそんな声が上がるのは何故でしょうか。この摩訶不思議ともいえる現象がいたる所で起きています。
家計であろうと、自治体財政であろうと、収入が限られた中で新たな支出に対応していくためには、既存の支出を見直して、そこで捻出した財源を優先度に応じて配分していくしかないことは道理です。
家計なら理解できることが、自治体財政になったとたん分からなくなるのは、どこかに「打ち出の小槌」や「お金のなる木」があると信じ込んでいるとしか思えないのです。

これまで自治体財政について、会計年度独立の原則に基づいて「その年度に必要な支出の財源が、同じ年度内の収入で賄うことができているかどうか」という視点で見てきましたが、これは家計において「その月に必要な支出が、同じ月内の収入で賄うことができているか」を見るのと同じです。また、自分の安定的な生活水準を維持するために常に家計を健全な状態に保つことは、自治体財政における財政健全化の取り組みとまったく同様なのです。

今回の「自治体財政ミニ講話」では、市税は≪給料≫、地方交付税は≪仕送り≫、地方債は≪借金≫、財政調整基金は≪貯金≫など自治体財政を家計に例えて話をしてきました。
「家計に例えて自治体財政を見る」それが自治体財政を理解するための一番の近道で確実な方法だと思うのです。
(2023.8.3)

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