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【詩】最期の一冊


母に先立たれたものたちは
少しばかりの埃をかぶって
まだここにいる

ふと、部屋の隅を探る
鞄、ティッシュ、帽子、ウィッグ
2年前の予定が新鮮なままの手帳

遺された物の一つ
「余命10年」
藁のカゴより出土
栞の所在は27ページ


「病院のコンビニにあったから」
たしかそう言っていた
残されていた時間の短さに
母指を重ねる
診察までの時間にめくったページ
その痕跡を辿って、通り過ぎて


包まった布団の中で
夜を間借りして生まれた朝
母が閉じた物語を咀嚼しながら
いまここにいる






一昨年の末に亡くなった私の母が
最後に選び、読んでいた本が
小坂流加さんの「余命10年」でした。

病院の待合室で読んでいたのだろうと思います。
「コンビニにあったからに買った」と言っていたような気がします。

この本をどんな思いで手に取ったのか。
どんなふうに読み始めたのか。
わずか27ページまでしか読んだ跡がない。

いつか読んでみたいと思いつつ、
なかなか読めなかったこの本。

亡くなってから1年半経った今
やっと読めました。

一気に読みました。



そんな時の詩で久しぶりに
神戸新聞文芸の特選をいただきました。

母について書いた大切な詩で
母と目指していた特選をいただけて嬉しいです。

また読み返して、また立ち止まって
「ここにいる」ことを確かめながら
生きていきたい。

2023年6月 いまの私はここにいる。

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