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前略、岸の上より


2023/10/29

玄関先でクモが歩いていた。
それを見た瞬間、コモリグモとは違う雰囲気、違和感を感じる。



その正体は、3年前に全く同じ場所で出会ったクモと同じ種類、キシノウエトタテグモのオスだった。

キシノウエトタテグモ ♂
Latouchia typica


本種は地中に穴を掘って営巣し、入り口に扉状の蓋を作る。そして近くを通る獲物を待ち伏せして捕食するという生態が有名だ。

その際は営巣した位置からほとんど移動せずに一生を過ごすが、例外も存在する。
例外の一つとして、本種のオスは秋になるとメスの巣穴を探して交尾を行うため、自身の巣穴から出て徘徊をする習性がある。
今回発見したオスも、メスを探している最中だったのだろう。

いくつかの段差がある玄関先、その中段で複数回にわたってキシノウエトタテグモを発見したという事は、その両脇にあるツツジの植え込みが生息場所となっている可能性が非常に高い。
というよりほぼ確実だ。
裏山から拡散した個体の一部がこの場所に定着しているものと思われる。
以前から予想していた事とはいえ、様々な生物を追いかけていたら庭の本種に関する情報を煮詰めるのにいつのまにか3年もかかってしまった。

生息場所と思われる植え込み





性成熟し徘徊を行うようになったキシノウエトタテグモのオスは交尾を行った後、その年のうちに亡くなってしまうという。
しかし、交尾を行わなかった場合は生き永らえる事ができるのだろうか。個人的には、オスにそのような体力は残されていないように思える。
メスは長命、オスは短命という傾向はタランチュラ等でよく聞く話なので、本種にもそうした傾向があるのかもしれない。今冬に調べておきたい。

ちなみにタランチュラは種類にもよると思うが、メスは10年以上生きる事もあるのに対して、オスは2.3年程度で寿命を迎えてしまう場合も多いという。
購入したタランチュラの幼体が成長してオスだと判明した際に落胆する飼育者を何人も見てきた。

Twitterで『タランチュラ オス』と検索するだけで散々な言われようを目にする。
オスをハズレだと言い切る者さえ存在するし、『オス化』というワードが存在する事もその歓迎されなさを象徴している。

それに対して「生物に対する敬意が足りない」と感じる気持ちは自分の中に多少なりともあるが、所詮外野の感情論に過ぎないだろう。
むしろ、飼育者の落胆と絶望の方をありありと想像できる。
「海外産の生物をわざわざ購入したが繁殖に失敗してしまう」という事を幼少期から恐れ、避け続けた結果が、庭や市内の生物ばかりを飼うようになった現在の自分だ。尚更に落胆と絶望が想像できる。

歓迎されるのはオスがいる事でペアが揃うような状況くらいだろうか。

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