オサムシ類の交尾行動誘発条件の観察例と考察
ここ1週間近く、更新する全ての記事にセアカオサムシが登場する。
自力開拓セアカオサムシの話題は筆が乗る…というよりも、生態観察記録を行った後、忘れない内にメモを残そうとして書いており、日記を書く時とは違う脳の部位が使用されているような感覚がある。
前置きはこの辺にしておいて、本題に入る。
先日捕獲したセアカオサムシに2度目の給餌を行った際、今までメスに対して一切の反応を示さなかったオスが突如として交尾行動を開始した。
セアカオサムシは同一のプラケースでオスが3匹、メスが2匹の合計5匹を飼育しており、プラケース内で交尾を確認したのはこれが初めてだ。
捕食を行うメスに対して3センチほどの距離までオスが近づいた瞬間、オスの触角が機敏に動き始め、それを5秒ほど行った後、真っ先にメスの背中に向かって走り出してそのまま交尾に至った。
オスは2日ほど餌を食べていない状態で腹部の膨らみを確認できなかったが、触角で周辺の匂いを把握して真っ先に目指したのは餌ではなくメスに対してだった。
また、野外においても捕食を行うメスの上に乗り、交尾を行うオスを確認した。
一部のオサムシ飼育者の間では飼育下でよく見られる既知の生態であるように思われるが、セアカオサムシにおいてその行動が発生する瞬間をこの目で初めて確認した。
自分は飼育下においてマイマイカブリ複数亜種、アオオサムシ、アカガネオサムシ、クロナガオサムシ、ツシマカブリモドキにてその生態を確認しており、特に専食する餌を捕食している最中に発生する事が多かったように思えた。
オサムシのオスがメスに対して最優先で交尾を迫る条件はいくつかあると考えられるが、現在自分が把握しているものは「長期間メスと接触を行っていない状態でメスの匂いを嗅ぎつけた時」と「餌を捕食している最中のメスを捕捉した時」の2つだ。
特に後者は常にメスと接触を行っていた多頭飼育状況下でも頻繁に確認される。
・ツシマカブリモドキの交尾
交尾を行う際、メスは激しい抵抗を行うために交尾が成立しない例も時折観察される。
また、オスは交尾の際に腹部を屈折させて鞘翅の下の軟弱な部位や膨張させた交尾器を外部に晒す事となり、その際に抵抗するメスの鋭利な後脚棘が脅威となる。
オス側もその対策として交尾の際に自身の後脚をメスの後脚の内側に入れて、後脚による抵抗を阻害する行動が見られる。この生態は交尾を観察したオサムシ全てに共通していた。
・アオオサムシの交尾
・アオオサムシ、セアカオサムシの交尾
冒頭で述べた、採餌中の無防備なメスの発見が起因となって優先的に交尾行動を開始するオスの生態も、交尾の成功率を上げる事に有利に働いているものと考えられる。
「専食対象を捕食するメス」と「それ以外の餌を捕食するメス」に対するオスの反応の違いに有意差が示せる実験をあまり行えていないが、仮に前者に対して顕著に反応するようであれば、オスは受精卵の成熟及び繁殖の可能性が高い選択を行なっている事になる。
当noteでは何度か記述しているが、オサムシ飼育において確実な繁殖を目的とした飼育を行う際は、基本的に雌雄を隔離した方が都合が良いと考えている。
それは多頭飼育による産卵行動の妨害や、脆弱な卵と成虫の接触及び捕食を防ぐ目的もあるが、隔離した期間が長い分だけ、再び雌雄を接触させた際に高確率で即座に交尾行動が発生するために受精の把握を行いやすいというメリットがある。
また、常に交尾が行える状況ではオスの消耗が激しくなるため、雌雄隔離飼育によって交尾を抑制しつつ栄養補給を行う事はオスの成虫寿命を伸ばす事にも繋がる。
交尾をさせる際は雌雄共に同じケースに入れるだけでも良いが、成功率を上げるためには記事内で言及したようにメスに餌の捕食を行わせつつ、オスが離れた場所からメスを自発的に発見できるようにする事を推奨する。
その際に与える餌は何でも良いが、メスが捕食に専念する可能性が高い各種専食対象の餌を与える事が好ましい。
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