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幻の生物の残り香
私有水田でトラップの確認をした後、今季に一度は見ておきたかった近所の湿地帯に訪れる。
子供の頃に何度か訪れた場所だ。
すると、車から降りてすぐにジムグリの幼蛇と出会った。
故郷において、人生で初めてのジムグリと遭遇する。
まさかこの地に生息していたとは…。
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ジムグリは出会う事が少々難しいとされるヘビの一つで、主にネズミやモグラ等の小型哺乳類を専食する。
基本的にはそれらの潜む地中や物陰を活動の場としており、本種の活発な捕食行動自体も小型哺乳類の繁殖期である春と秋に限定されていると聞く。
それ故に『意外とあちこちに生息はしているけど発見しにくい』といった側面があるのだろう。
ミミズ食でより地中棲傾向が強いタカチホヘビも、もしかしたらこの地に生き残っているのかもしれない。
ちなみに、森林及び山地棲と言われるジムグリだが、モグラを食べる事もあって畑や水田付近での発見例も多い。
実際、今回発見した個体はその例の一つだ。
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この個体は成長に伴って少しずつ模様が消えているが
さらに小さい個体はより毒蛇に近い派手な色彩となる。
素早く動くため、しっかりとした撮影は行えなかったが、折角ゴム手袋を装着していて汚れる心配がないのだからと『防衛のために総排出腔から分泌される悪臭』を嗅いでみる。
結果は臭すぎ。一瞬、鼻腔を軽く突かれたような刺激を感じる。
ナミヘビ系統は大抵何らかの匂いを出して外敵から身を守ろうとするが、少なくとも動物質、タンパク質系の臭気を感じるヒバカリとは異なる系統の匂いだった。
しかし例えようがない。身近にあるもので例えられないような気もする。
ジムグリを見て、頭の片隅にあったとある昆虫の知識が蘇る。
…いや、このポイント及びこの県全てのフィールドにはその虫の可能性を感じて訪れている。
自分の住む県では、かつて全国的に普通種とされていたはずが突如一斉に消滅してしまった『幻の昆虫』の生息が数十年前に記録されている。
記録地には何度か訪れた事があるが…残念ながら、現時点では影も形もない。
それでも「いや、しかしもしかしたら…」との気持ちで訪れ続けている。
その虫はジムグリのように夏には活動が低下する生態を持つ。
本種に関しては近縁種の生態から考えて夏眠と言い切っていいだろう。
ジムグリの出現によって、かつてはこの場所にも生息していたかもしれない『幻の昆虫』の残り香のようなものを感じた。
しかしフィールドにおいてはこのような予感は大抵、幻影のまま消えてしまう。要は思い過ごしや気のせいで終わる。もう何度思い過ごした事か。
それが『幻の昆虫』ともなれば尚更だ。
しかしそんな気配や予感の中で、「このフィールドは他とは全く違う」と感じる瞬間もある。『確信』に近いかもしれない。
後述する書籍ではそれを『妖気』と呼んでいた。
ジムグリを観察した後、同地点では、その虫の色彩に似た2種のゴミムシを確認した。
片方は良好な湿地帯にしか生息しないオオサカアオゴミムシ。
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もう片方は何処にでも蔓延るTHE・ゴミムシ、セアカヒラタゴミムシ。庭にも多く出現する。
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特に後者は『幻の昆虫』が好んだであろう環境に似たような色彩でワラワラと出現するので、一瞬のぬか喜びを量産する。
前胸が明るい赤色となっているため、同じく『ゴミムシ御三家』の一種であり、同じく『幻の昆虫』であるアオヘリアオゴミムシと見間違えてしまう瞬間も多々あるし、そもそも同所生息している場合も多い。
そして高速で逃げ回りつつ両種はサイズ感も似ているので、結構な頻度で"一瞬の同定"を要求される。
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しかしセアカヒラタゴミムシも中々に良い虫で、数年以内には繁殖に挑戦してみたいと思っている。
セアカヒラタは秋季繁殖、幼虫越冬を経て春季に羽化をするとされる。
ちょうどこれからの時期に手軽に飼育繁殖に挑戦できる虫だ…と言い切るには経験が無さすぎるので、「そう思う」と言い淀んでしまう。
ちなみに、『幻の昆虫』に関しては『学研の図鑑LIVE 新版昆虫』その中の(ゴミムシのなかま① )や『怪虫ざんまい 昆虫学者は今日も挙動不審』を参照していただきたい。
(アフィリエイトは非使用)
前者書籍は我が師が紆余曲折の末に辿り着いた生体の画像が、後者はその虫に出会うために人生を懸けている研究者の道中や苦楽、さらには怨嗟が記録されている。
特に後者は何度か紹介しているように、自分にとっては「一つの章(特にゴミムシ関連)を読むのに映画を一つ見るのと同じだけの体力を消耗する」ような熱がある。
著者との面識は全くないが、一方的に背中を追いかける日々が続いている。
尚、『幻の昆虫』に関しては当noteの以下記事でも種名を出さないようにちょっぴりだけ触れている。
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