師を連れてフィールドを歩く:中編
前回
トモロウをアオヘリアオゴミムシという幻の昆虫に巡り合わせてくれた師を連れ、自力開拓ポイント2箇所を案内する。
そして無事、彼に当県産アオヘリアオ2箇所分を届ける事ができた。
彼は虫や環境、採集者に敬意を払うタイプであるため、採集個体を全て持ち帰るという事はしなかった。
採集者(特に研究者)は、この敬意を敏感に察知して自身の情報をどこまで開示するか決定する傾向がある。
同時刻、SNSにおいてはアオヘリアオを含む希少種乱獲おじさんが顔本にて登場して炎上していたらしい。雲泥の差だ。
しかしこういった『長年染み付いてしまった、趣味人の中での存在証明の仕方』、『乱獲仕草』は直そうにも直しにくい。
少なくとも我が師は案内をしてくれた相手の目の前で乱獲などはせず、そもそも大量に採れたとて「いや、そもそも捌ききれませんからね」と言って大半をリリースするだろう。
開発や環境の変化で簡単に数を減らす可能性が高い生物が確実にその地に生息していた記録を残しておく事は大切だが、夥しい数を採ったとして我々はそれを全て標本にできるほどの暇が存在しない。
特に他の希少種に関する研究を日夜進めている彼は、尚更か。
本当に最低限の匹数を持ち帰った。
師によると、こちらの県(または今回案内したポイント)においては、他県に比べて湿地帯の羽虫の量が段違いで多いらしい。
湿地帯採集者は夜な夜な瞼の裏にウンカを挟みながら、もしくは吸い込んだウンカとユスリカの喉越しの違いを感じながら、汗ばんだ顔に幾つもの羽虫を貼り付けながら、そうしてフィールドを歩く事が基本なのだと考えていたが、あまりそうでもないのか。
また、アオヘリアオ生息地においては『希少種を含む多種多様なゴミムシが歩いている』というパターンと『アオヘリアオ以外のゴミムシをあまり見かけない』というような環境である事が多いが、今回は2箇所とも後者の環境であった。
アオヘリアオ、次いでスナハラ。この絶滅危惧2種が最もよく見られ、稀にオオキベリアオゴミムシが顔を出す程度だった。
そして、9月に入るとスナハラゴミムシの数が明らかに多くなる。
特に減水した水域においては夥しい数のタニシが取り残されているため、それを狙って集まるスナハラがやたらと目に付く。
どのフィールドにおいても梅雨〜盛夏にかけて繁殖したゴミムシを視認する場面が大幅に減る時期なので、相対的に上記希少種を認識しやすくなっているだけかもしれない。
アオヘリアオやスナハラは旧成虫と新成虫が入り混じる頃だ。
昨年は9月の上旬にアオヘリアオ及びスナハラの『腹が赤い新成虫』をよく見かけた。
スナハラは、本当にかつて『生態写真が全く存在しない幻のゴミムシ』だったのか?と思えるほどに遭遇する。タニシを食いまくっている。
そもそもゴミムシのマイナーさに加えて、掲載されている図鑑の乏しさによって「その辺にいる黒くて大きなゴミムシ類」といった雑な認識をされ続けていたのだろうか。
少なくとも、手に取りやすい図鑑等書籍ではゴミムシの詳細な同定は難しいため、ここがハードルとなってマイナーに留まり続けている印象がある。
そのおかげでフィールドにおいても競合相手がほとんどいないというメリットはあるが。
次回
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