流れ星の海夜
夜の浜辺にぽつりぽつりリクライニングチェアが置いてあって、みんな夜空を見ながらシーシャを吸っていた。闇の中で夜空の光に照らされながら白い煙が所々、ゆらゆら昇っていた。
海の波は心地よく音を反復して鳴らし、時々、大きく押し寄せた。
夜空の星は見たことがないほどの、まるで宇宙でも見ているかのような星の数であった。
君たちはシーシャはやらないのかい?
と白い眼ををギラっとさせて、エジプト人が僕たちに声をかけてきた。そうここは、エジプトのダハブだ。夜は深まっていき、一層暗く、静寂のなかで音もなくシーシャの煙が所々で立ち昇り、みんなこの夜の中に消えてしまったかのように音を立てない。
いらないわ。
ちょうど、ダハブに来るバスの中で出会ったチャコが答えた。チャコは東京の中野という町から一人で来たらしい。
どういう経緯で二人でここにいるのか考えてみたがわからなかった。バスの中でも話さなかったし(目が合って軽く会釈した程度。同じ日本人ってことで。)、ここに来るまでも、一緒に来たというわけではなかった。
でもなぜか今ここに二人でいる。
私ね、覚悟を決めにここへ来たのよ。
声はとても透き通っていた。チャコの横顔が星びかりで薄っすらと見えた。
あっ、また流れ星。
とチャコが言った。
たしかに頻繁に星々が弧を描きながら流れていた。
星々は流れている途中で消えたり、空の淵までいって消えたりしていた。
宇宙の中、闇の中へ吸い込まれていくとき、シュッという、花火が打ちあがるときに鳴る音が聞こえるような気がしていた。
チャコはとくに美人というわけではなかったが、うっとりするような魅力があった。握った手はしっとりとして、時々、ぎゅっと力が入った。
チャコの目はキラキラ輝いていた。
それは星々の光によるものだけではなく、目の向こうに何か幸せな世界があるからのようだった。