シェアハウス 来訪者のそばにトイレあり

「初めまして、2階に住んでいるものです」
私は1階のリビングにいた同居人の来訪者2人に挨拶をした。3人で麻雀をしていた。普段はリビングのテーブルとなっている雀卓だったが今日は本来の役目を果たしている。

挨拶を軽めに済ませ、急いでトイレへと向かった。
そう、私にも来訪者が来ているのだ。
茶色い来訪者が。

その来訪者は、もうすぐ行くねーと早めに伝えてくれることもあれば、来ちゃったーとほぼアポ無しで来ることもある、自分勝手なヤツだ。
たまに私の方から、ふんばって今から会えないかと声をかけたこともあるが、来てくれなかったら、来てくれたりで気分屋なヤツでもある。
そして、いつも会うたび違う素顔を見せる、少しミステリアスなヤツでもある。
そんなヤツがおれは嫌いじゃない。
会うといつもスッキリするからだ。
そんなヤツがもうすぐそこまで来ている。
ちなみに今日は、近くまで来たから今から行くねパターンだ。

トイレの扉を開け、無駄のないフォームでお尻を便器につける。ふぅー、間に合った。
ヤツももうすぐ来るだろう。
しかし心配事が1つあった。トイレがリビングに近すぎるのだ。リビングの声がはっきりと聞こえる。ということは、私とヤツが会ってる声も彼らに聞こえてしまうのだ。しょうがない、今日は少し静かにヤツには来てもらおう。

そう思って待っているとヤツが近づきながらとんでもないひと言を放った

「ゆるふわパーマかけてきちゃった〜」

ゲリだ。
また違った素顔を見せてきたなぁと思いつつも、
そんなにゆるふわパーマをかけられては、静かにしてもらうなんて無理だ。話が弾みかなり騒がしくなってしまうだろう。
私はどうしたらリビングにいる彼らにバレずにヤツと会えるんだ、考えろ、考えろ、人間は考える葦だろ、考えるんだ、とにかく考えた。

そうだ、彼らが盛り上がった瞬間にこっそりヤツに来てもらおう。彼らは麻雀をしている。麻雀のルールはよくわからないが、ボードゲームなんだから盛り上がる瞬間は必ずあるだろう。その瞬間にヤツに来てもらえば彼らに聞こえることもない。我ながらナイスアイデアだ。そう思い待ってはみたものの麻雀は静かに行われている。麻雀って結構静かなゲームなんだと新たな見聞を広めつつ、私にはもうヤツを抑える力が残っていなかった。

そして、ついにヤツが来てしまった。
かなりの大きな音を立てて。
おそらくリビングにも聞こえただろう。
床下の忍者にも聞こえただろう。
屋根裏部屋の上忍にも聞こえただろう。
初対面で、こんな音を聞かせるなんて、こんな恥ずかしいことはない。このあとどんな顔をしてリビングにいる彼らの前を通ればいいんだ。

ただ、どこかスッキリとした気持ちもあった。
やっぱりヤツに会うとスッキリする。
なんだかんだゆるふわパーマも似合ってた。

トイレを流し、扉を開ける。
お腹減ったなぁ、飯でも行こう。

次に会う時ヤツはどんな素顔を見せてくれるんだろう。
ゆるふわパーマもいいけど、ストレートのロングも見てみたいな。
そう思いつつ私は激辛料理店へと向かった。

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