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【100均ガジェット分解】(19)セリアの「乾電池USBチャージャー」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです

今回の分解はロングセラーのセリア「乾電池USBチャージャー」です。以前ダイソーで売られていた同様の商品との比較もしてみます。

​ ■パッケージと製品の外観

セリアの「乾電池USBチャージャー」は携帯電話(いわゆるガラケー)全盛期時代からずっと100円(税別)で販売されているロングセラー商品です。

01_パッケージの外観

パッケージの外観

パッケージ表示によると、発売元は「片山利器株式会社」 (http://www.katayama-riki.co.jp/)、型番は「BBJ01」です。
「使用上の注意」には「携帯電話やゲーム機、MP3プレーヤなどを充電」の記載があり、iPhoneやスマートフォンの充電には使用できないと記載されています。使用できる乾電池はアルカリ乾電池とニッケル水素電池で「マンガン乾電池は使用できません。」との記載があります。

02_パッケージの使用上の注意表示_抜粋

パッケージの使用上の注意表示(抜粋)

​ ■本体の分解

本体の開封

本体の電池ボックス部分の蓋を外すと、メインボードは電池ボックスの横のケースでおおわれている部分にあります。
ケースの固定は接着剤なので、小型のマイナスドライバを隙間に差し込んでひねると開封できます。
電池ボックスの電極とメインボードはリード線で接続されています。

開封した本体

開封した本体

​ ■回路構成と主要部品の仕様

メインボード

メインボードは紙フェノールの片面基板です。基板表面にはUSB-Aコネクタと昇圧用インダクタと整流ダイオード、出力電圧充電用の電解コンデンサが実装されています。型番や製造日の表示はありません。

メイン基板表面

メインボード(表面)

基板裏面(パターン面)に実装されている部品は全て面実装です。
裏面の半導体部品は昇圧コンバータICのみです。USBのデータライン(D+/D-)にはVBUS-GNDを抵抗分割する形で抵抗が接続されています。
電池ボックス・電解コンデンサのGNDとUSB出力のGNDはUSB-Aコネクタの金属シェルを経由しての接続となっています。

メイン基板裏面

メインボード(裏面)

回路構成

基板からメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。

06_回路図

回路図

回路としては基本的な昇圧チョッパ回路です。
単3乾電池x2本(約3V)からパワーインダクタ(L1)経由で昇圧コンバータIC(U1)に入力されます。U1のLx端子は内部でGND間とスイッチング動作を行い、ON時にL1に蓄えられたエネルギーがOFF時に整流ダイオード(D1)を通って出力側に流れることで昇圧動作を行います。U1のVO端子は出力電圧検出で、出力が一定電圧(5V)になるようにON/OFFのDuty比を調整します。
USBのD+/D-端子には、出力電圧(5V)を抵抗分割して接続されています。抵抗分割比はいわゆる「Apple Charger(1A)」となっています。
参考までに、抵抗分割によるUSB充電器の判別仕様を以下に示します。

抵抗分割によるUSB充電器の判別仕様

抵抗分割によるUSB充電器の判別仕様

(引用元: MAXIM社MAX14578Eデータシート https://bit.ly/2QfRM7G)

主要部品の仕様

次に主要部品について調べていきます。

・昇圧コンバータIC BL8530(互換品)

09_昇圧コンバータIC

昇圧コンバータIC

表面のマーキングが不鮮明で読み取ることができませんでしたが、機能とパッケージ(SOT-89-3)およびピン配置より上海贝岭股份有限公司(SHANGHAI BELLING Co.,ltd. https://www.belling.com.cn/) の「BL8530」の互換品であることがわかりました。「BL8530」のデータシートは以下から入手できます。

https://bit.ly/3hn4ihp

主な仕様は以下の通りです。
• 入力電圧範囲: 0.8~出力電圧
• 出力電圧: 4.9~5.1V (5Vタイプ)
• スイッチング周波数: 300~400kHz
• 効率: 85% (Typ.)
• 推奨インダクタ値: 10~100uH
「BL8530」のAliexpressでの販売価格は10個でUS$0.3程度です。

・整流ダイオード 1N5819

10_整流ダイオード

整流ダイオード

昇圧動作時の逆流阻止に使われているダイオードは表面に「1N5819」というマーキングがあります。「1N5819」は耐圧40V/出力電流1Aの整流ダイオードで、同じ型番の互換品が複数の会社で作られていて、Aliexpressでの販売価格は50個でUS$0.3程度です。
データシートは米DIODES Incorporated (https://www.diodes.com/)のものが以下から入手できます。

https://bit.ly/2QhdckM

・パワーインダクタ 10uH(4mm x 6mm)

11_パワーインダクタ

パワーインダクタ

昇圧用のパワーインダクタはリード線が下から出ているラジアルリードタイプで、サイズは直径4mm x 高さ6mm、インダクタンスは実測で10uHです。Aliexpressでの販売価格は10個でUS$0.9程度です。
データシートは深圳市顺翔诺电子有限公司(Shenzhen Shun Xiang Nuo Electronics Co., Ltd. http://sxndz.com/) のものが以下から入手できます。

https://bit.ly/3lbNVH0

​■出力特性の確認

本機が実際にどれくらいの電流まで出力できるかを測定しました。電子負荷は今まで同様Aliexpressで2000円で購入したもの(定格10A/60W/1-30V https://bit.ly/3jyV9Da)を使用し、アルカリ電池とニッケル水素電池の両方で測定しました。

12_出力電流-電圧特性

出力電流-電圧特性

出力電圧はUSB充電規格(BC1.2)で動作が禁止されている領域(500mAまでは4.75V以上)をアルカリ電池では約300mA、ニッケル水素電池では約200mAで下回っています。
抵抗分割比で規定の「Apple Charger(1A)」も満たせていませんので、使用上の注意に記載どおりiPhoneやスマートフォンの充電には使用できないと判断してよさそうです。

​■ダイソーの同様商品との比較

すでに販売が終了してしまったのですが、ダイソーでも単3乾電池2本を使用する「電池式モバイルバッテリー」(以下、ダイソー版)が100円(税別)で2019年はじめまで販売されていました。当時購入したものが手元にありますので、セリアの商品と比較してみます。

13_ダイソー版のパッケージと製品の外観

ダイソー版のパッケージと製品の外観

メインボード

以下はセリアのメインボードと並べて比較してみた写真です。
ダイソー版のメインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。全ての部品が基板表面に実装されています。

14_ダイソー版とセリア版のメインボード

ダイソー版とセリア版のメインボード

主な部品の差は昇圧用のインダクタのサイズです(ダイソー版は直径6mm x 高さ8mmと一回り大きい)。
インダクタの価格はAliexpressでの販売価格ではどちらも10個でUS$0.9程度と差はありませんでした。昇圧コンバータICは「BL8530互換品」、整流ダイオードは「1N5819」の面実装タイプとセリア版と同等品を使用しています。

回路構成

基板からダイソー版のメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。

15_ダイソー版の回路図

ダイソー版の回路図

回路的にはセリア版と同じ構成です。差としては、USBのD+/D-端子が接続されていて、USB充電規格(BC1.2)の「Dedicated Charger」(最大供給電流1.5A)となっています。

出力特性

ダイソー版についてもアルカリ電池とニッケル水素電池の両方で出力特性を測定しました。

16_ダイソー出力電流-電圧特性

ダイソー版の出力電流-電圧特性

出力電圧はUSB充電規格(BC1.2)で動作が禁止されている領域(500mAまでは4.75V以上)をアルカリ電池・ニッケル水素電池ともにギリギリ引っかかっています。
ただ、出力電流は約500mAとセリア版の約300mAに比較して大きく取れており、機種にもよりますが、スマートホンの充電も何とか可能なレベルです。販売終了してしまったのが残念です。

■まとめ

スマートホンの充電はできませんが、比較的簡単に手に入る5Vの昇圧回路として電子工作に使えます。

余談ですが、セリアの「乾電池USBチャージャー」はネット上では2011年には販売されてたとの情報が見つかりました。すでに10年近く販売が続いているというのも驚きです。

発売元の「片山利器株式会社」は本業は刃物や工具の会社ですが100円ショップ向けのスマホ・USB機器も取り扱っていて、ホームページの”Items"を見るとよく見かける商品が多数あります。
元々「利器」とは「鋭利な刃物」という意味があり「文明の利器」から来ているそうです。そういう意味では100円ショップの商品を扱うのも何となく納得できる気がしました。

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