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【100均ガジェット分解】(34)ダイソーの「ステレオ対応Bluetooth Speaker」

※本記事は月刊I/O 2022年1月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。

ダイソーには今までもモノラルの「ポータブルBluetooth Speaker」があったのですが、2021年夏頃から2台つなげることでステレオ対応(True Wireless Stereo)となる新しい「Bluetooth Speaker」が販売されています。今回はこれを分解してみます。

01_パッケージの外観
製品パッケージ

2台つなげてステレオ対応になる「Bluetooth Speaker」は、ダイソーブランドで販売されています。価格は1個1000円(税別)とダイソー商品の中では高めの設定です。

パッケージの外観

パッケージ表示の通信仕様は「Bluetooth Ver.5.0」、USBメモリとmicroSDカードからのMP3,WAVファイルの再生もサポートしています。
リチウムイオンバッテリー(1,200mAh)を内蔵し「連続再生14時間」となっています。

パッケージの製品仕様表示

本体の外観

パッケージの内容は「本体」「マイクロUSBケーブル(充電専用)」「取り扱い説明書(日本語)」「ストラップ」で構成されています。
本体正面は金属のネットでおおわれています。背面には充電用MicroUSB、再生用USB-A, MicroSD(TF)の各種コネクタが配置されています。
技適マークは本体底面にシールで貼り付けられています。

本体の外観
本体底面の技適マーク

操作ボタンは上面に4個配置されていて、左から「電源」「音量―/曲戻し」「音量+/曲送り」「再生/一時停止」となっています。

本体上面の操作ボタン

2台を使ってステレオで再生する時は、2台とも他のデバイスとのペアリングを解除した状態で、片側のスピーカー(マスター)の「再生/一時停止」ボタンを2クリックします。
逆側のスピーカー(スレーブ)との接続が成功すると、スレーブ側のLEDが点灯し、マスター側のLEDが点滅します。この状態でマスター側と接続先機器をペアリングします。

取説に記載のステレオ接続方法

ステレオ音源で実機動作を確認したところ、1個で接続した場合は左右の音声がミックスされてモノラルで再生、2個で接続した場合はマスター側がLチャンネル、スレーブ側がRチャンネルでステレオで再生されました。

本体の開封

本体正面の金属ネットは接着材で固定されていますので、隙間に精密ドライバー等を差し込んで外します。金属ネットを外すと本体ケースを固定している4本のネジが見えますのでドライバーで外すと開封できます。

金属ネットを外した状態。〇がビスの位置

内部は「メインボード」、クッションテープで固定された「リチウムイオンバッテリー」、「スピーカー」で構成されています。スピーカーは1個(モノラル)です。

本体を開封

スピーカー・バッテリーのリード線はメインボード上の白・赤に色分けされたコネクタで接続されています。

主要部品

スピーカー

スピーカーは非防磁型で直径40mmx厚さ20mm、定格は3Ω 5Wです。型番”40-Y1337”と製造年月日”MYD210329”の表示があります。

スピーカー

リチウムイオンバッテリー

リチウムイオンバッテリーは円筒形の金属ケースに入った”18650”タイプで定格は”1200mAh 3.7V”、製造年月”202105”の表示があります。
スポット溶接された金属タブに接続されたリード線が外部に引き出されています。

リチウムイオンバッテリー

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。
表面に実装されている主な部品はメインプロセッサ・水晶発振子(24MHz)・オーディオアンプ・各種コネクタです。Bluetoothのアンテナは基板パターンで構成された板状逆F型アンテナ(PIFA)です。

メインボード(表面)

 裏面に実装されている主な部品は操作スイッチ・充電制御IC・コンデンサマイク・オーディオアンプのチャージポンプ回路用電解コンデンサです。シルク印刷で型番「A32-28B-CS」と基板の製造日「2020.01.04」の表示があります。アンテナの裏側には製造年月(A2106)のスタンプが押されています。

メインボード(裏面)

回路構成

基板パターンより回路図を作成しました。

回路図

キー入力(4個)は抵抗分割された電圧をADCで検出しています。
メインプロセッサのオーディオ出力とオーディオアンプの接続は1ch(INN)のみ、スピーカーはオーディオアンプから作動で駆動しています。
各種コネクタの金属シェルのパターンは分離されていて、抵抗R19でGNDと接続されています。BluetoothのアンテナのGNDは未実装の抵抗R21で他のGNDとの接続を強化できるようになっています。

回路図の「No USE」で囲んだ部分は未実装のパターンで、充電制御IC(U3)を使用せずにダイオード経由でリチウムバッテリーを充電する回路構成になっています。(ただし、この未実装回路の構成は安全性に問題があるので、使用するべきではありません。)

主要な半導体デバイスの仕様

次に本製品で使用されている半導体デバイスについて調べていきます。

メインプロセッサ AC6928B

メインプロセッサ

メインプロセッサは低価格帯のBluetoothオーディオ機器では定番のメーカーである珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/)製のBluetooth内蔵マイクロプロセッサ「AC6928B」です。
データシートはデザインハウス(方案公司)である「深圳科普豪电子科技有限公司」のサイトから入手できます。

https://www.kepuhaodianzikeji.com/newsinfo/643922.html

「AC6928B」は160MHz動作の32-bit RISC CPU, DSP, USB OTGコントローラを内蔵したSoCで、過去分解したダイソーのモノラルタイプの「ポータブルBTスピーカー」(2020年3月号),「円筒型Bluetoothスピーカー」(2021年7月号)でも使われています。
本製品ではソフトウエアの変更のみでいわゆるTWS(True Wireless Stereo, 左右スピーカ間のケーブル接続がない)対応をしています。

充電制御IC XT4052

充電制御IC

充電制御ICは上海南麟电子股份有限公司(http://www.natlinear.com/)のリチウムイオンバッテリーチャージャーIC「XT4052」です。
データシートは以下より入手できます。

http://www.natlinear.com/uploadfiles/2014/XT/XT4052_E.pdf

充電電流はPROG端子の外付け抵抗で設定、本製品では2kΩ=500mAで使用しています。

XT4052のブロック図

オーディオアンプ CS5230E

オーディオアンプ

オーディオアンプは深圳市永阜康科技有限公司(Shenzhenshi Yongfukang Technology, http://www.szczkjgs.com/)の最大出力5.2W@4Ω出力AB/D級切換オーディオアンプ「CS5230E」です。
データシートは以下から入手できます。

http://www.szczkjgs.com/UploadFiles/fujian/3800/CS5230.pdf

電源電圧2.7-5.5V、D級動作時の周波数は300kHzです。

CS5230Eのブロック図

このICはCTRL端子の電圧で動作状態の変更ができます。本製品では3V(D級)で使用しています。

CTRL端子電圧と動作モード

まとめ

過去に分解したダイソーのBluetoothスピーカーからTWS対応をしたのみだと予想していたのですが、バッテリーの18650タイプへの変更やD級オーディオアンプの採用と、良い意味で予想を裏切られました。
基板配線の引き回しや太さ、GNDパターンの分離等きちんとした設計という印象です。
音質は若干低音が不足気味ですが、ノイズ感やバランスも悪くなく、通常使用で問題がないレベルだと感じました。


ステレオ対応(2個)で2,000円(税別)とダイソーにしては高価ですが、この価格でこの製品が実現できているのが、中国の「エコシステム」の強さを改めて感じさせられました。

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