【100均ガジェット分解】(30)ダイソーの「スイッチ付きUSBハブ」
※本記事は月刊I/O 2021年9月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。
ダイソーで「USB2.0」対応の「スイッチ付きUSBハブ」が販売されています。今回はこちらを分解します。
※2022年2月時点で店頭で見かけることが少なくなりましたので、興味がある場合は、見かけたら迷わず購入することをオススメします。
パッケージと製品の外観
パッケージの表示
ダイソーでは以前100円(税別)で「4ポートUSB Hub」(2019年9月号で分解)が販売されていましたが、FS(Full Speed)モード(12Mbps)動作で、USB2.0の最大速度であるHS(High Speed)モード(480Mbps)では動作しませんでした。
「スイッチ付きUSBハブ」はこの商品に置き換わる形で200円(税別)で販売されています。
パッケージ台紙の裏面には「USB2.0対応」と明記されています。接続できるUSB機器の消費電流は1ポート100mAまでの「Bus Powerハブ」です。「USBロゴマーク」はなくUSB認証を取得しているかは不明です。
(USB認証は必須でないので販売すること自体は違法ではありません。)
本体の分解
外装の開封
外装はプラスチックのはめ込みですので、精密ドライバー等を隙間に差し込んで簡単に開封できます。
成形品は上限に分割されていて、各ポートのスイッチ用LEDがある部分は外装とは別ピースの半透明の成形品になっています。
主要部品と回路構成
メインボード
メインボードは紙フェノールの片面基板です。
表面には4個のUSBコネクタとスイッチ、PCとの接続状態を示すLEDが実装されています。USBケーブルのリード線はコネクタを使用せず、直接ハンダ付けされています。
基板の型番「HS504-V2」はシルクで印刷されています。
メインボード裏面にはコントローラICと周辺部品(抵抗・コンデンサ)、各チャンネルのスイッチ状態を示すLEDが面実装されています。
USBコネクタのシェル(外側の金属)は4個とも周辺のGNDパターンへの半田付けがされていません。USBコネクタ挿抜時のストレスを考えると好ましくありません。
特徴的なのは黒い導電塗料で印刷された抵抗(以下、印刷抵抗)です。
回路番号が割り当てられているものもあり、テスターで実測した限りでは印刷形状で回路動作に応じた抵抗値のコントロールをしているようです。
使用されているUSBケーブル
基板に直接半田付けされているUSBケーブルはシールドなしのツイストペアケーブル(Unshielded Twist Pair、UTP)です。
USB2.0の”HSモード”(480Mbps)ではシールド付きのツイストペアケーブルケーブル(Shielded Twist Pair、STP)が要求されており、厳密にはUSB2.0の規格を満たせていません。
回路構成
基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。
各チャンネルのスイッチはUSBの電源(VBUS)をON/OFFしています。各スイッチの状態を示すLEDは印刷抵抗を通って各チャンネルのVBUSに接続されています。
印刷抵抗はLEDの電流制限用ですが実測値で150Ωと小さく、実機で確認するとLEDはかなり明るくなっています。
各チャンネルのUSBコネクタの電源(VBUS)ラインは入力(J1)のBVUSとスイッチを介して直結されており、電流制限機能がありません。パッケージには「1ポート100mAまで」と記載されていますが、間違って消費電流の大きなUSB機器を接続するとUSBホスト(回路図のUSB_A_Plug)から直接電流を引いてしまうので注意が必要です。
主要部品の仕様
次に主要部品について調べていきます。
コントローラIC HS8836A
コントローラICは深圳市华声讯达电子有限公司(HUASNX, http://www.huasnx.com )製のUSB HUBコントローラチップ「HS8836A」です。製品概要は以下にあります。
http://www.huasnx.com/product/usb20843.html
中国の通販サイトのAliExpressでの販売価格は1個約40円(US$3.87/10pcs)です。(2022年2月時点)
データシートは製品ページでは公開されていないのですが、以下の製品販売ページで確認することができます。
以下はHS8836Aのピン仕様と内部ブロック図です。
USB電源(VBUS5V)から内部電源(3.3V)を生成するLDOや動作クロック用のPLLも内蔵、周辺部品としては2個(REF端子の抵抗とDCP端子のコンデンサ)だけというシンプルな構成でUSBハブとして動作します。
実動作での確認
USBデバイス情報
本製品のUSB情報を、Windows PCに接続してマイクロソフトから配布されているUSB情報をツリー状で表示して確認できるツールである"USBView" (https://bit.ly/3wXxra0)で確認してみました。
Device DescriptorによるとUSBバージョン(bcdUSB)は2.0、デバイスクラス(bDeviceClass) は0x09(HUB)であり問題はありません。
機器の供給元情報であるidVendorは"0x214B (AMECO TECHNOLOGIES (SHENZHEN)”です。AMECOについて検索したのですが該当するメーカーが見つからないため、LinuxのUSB IDリストを http://www.linux-usb.org/usb.idsで確認したところ、Vender ID = 0x214Bは「Huasheng Electronics」となっていました。
これは中国でスマートフォンのアクセサリを製造している深圳市华盛通用技术有限公司(Shenzhen Huasheng General Technology Co., Ltd.、 http://www.szhstech.com/)であることがわかりました。
本製品はこの会社向けのICの流用、もしくはODM(Original Design Manufacturer, 委託者ブランド名設計・製造)であると推定できます。
サポート機能情報によると、プロトコルサポートはUSB1.1とUSB2.0となっていて、こちらも問題はありません。
問題は”Hub Power”が“Self Power” (USBハブ自身で電源を持っているタイプ)となっていることです。
回路図を見ればわかるのですが、本製品の動作は”Bus Power”(電源はUSBホスト側のVBUSから供給されるタイプ)です。
“Self Power”の場合、接続できるUSB機器の消費電流は1ポートあたり500mA(“Bus Power”では100mA)ですので、消費電流の大きいデバイスを接続した場合、デバイスが“Self Power Hub"と判断してVBUS(電源)から500mAを引き出そうします。
そのため、接続するUSBホスト(PC)によっては、過電流保護機能がうまく働かない可能性があり、注意が必要です。
”Connection Status”では、現時点での接続スピードが確認できます。“Current Config Value”は“Device Bus Speed: High”となっていますので、USB2.0の最大転送速度である”HSモード”でホスト(PC)と接続されていることが確認できました。
ベンチマーク結果
次にこのUSB HubにUSBメモリを接続してベンチマークをした結果を以下に示します。
ベンチマークにはWindowsでは定番の"CrystalDiskMark"を使用しました。
https://crystalmark.info/ja/software/crystaldiskmark/
ベンチマークの結果は最大32.75MB/s(262Mbps)となりました。USBの転送オーバーヘッドを考えると、USB2.0の最大速度であるHSモード(480Mbps)で動作していることで間違いはないようです。
まとめ
本製品ですが、コントローラICにHS8836Aを採用し、200円(税別)という価格でHSモードをサポートしたことは大きな進歩だと思います。
ただし、普通の使用条件では正常に動作しているように見えますが、分解して細かく確認していくとUSB規格に違反している箇所がいくつか見つかりました。
今回の分解でわかったこれらのリスクを理解したうえで、製品仕様である「接続できるUSB機器の消費電流は1ポート100mAまで」をきちんと守って使うように注意してください。
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