【100均ガジェット分解】(43)ダイソーの「アルコールチェッカー」
※本記事は月刊I/O 2022年10月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
ダイソーで息を吹き込んでアルコール濃度を測定する「アルコールチェッカー」が販売されていました。早速購入して分解してみます。
パッケージ・取説記載の仕様
「アルコールチェッカー」は「700円(税別)」とダイソー製品としては少し高価な商品です。
たまにある「訳アリ品がダイソーに来た」という商品かと思っていたのですが、本記事の執筆時点(2023年3月)でも継続して販売されています。
製造は中国、発売元は最近のダイソー商品で見かけるようになった大阪の「MAKER株式会社」(相変わらずホームページは存在しない)です。
同梱の取説によると、検査方式は「半導体ガスセンサー」、数秒間息を吹き込むとLCD画面に呼気中のアルコール濃度(BrAC: Breath Alcohol Concentration)を表示します。
取説の商品仕様
電源ボタンを押すと約15秒間の予熱ののちに測定が開始されます。10秒間のカウントダウン中に3~5秒センサーに向かって息を吹き込むと、測定結果が画面に表示されます。
本体の外観
本体正面には「POWER」ボタンと液晶画面、背面には電池ボックスがあります。本体上部に息を吹き込むためのスリットがあります。
本体の分解
本体の開封
背面の電池ボックスのふたを開けると、固定用のビスがありますので、これを外して本体を開封します。本体を開けると制御基板と液晶パネル、ブザー用の「円盤型圧電素子(ピエゾ素子)」があります。
制御基板を固定しているビスを外すと制御基板の下に液晶パネルがあります。液晶パネルはセグメント液晶、制御基板と液晶パネルの接続は「異方性導電ゴム」です。
制御基板と回路構成
制御基板
制御基板に実装されているのは、「半導体ガスセンサー」、制御用の「マイコン」、乾電池から安定した電源(2.5V)を生成する「LDO」、「POWERスイッチ」です。
液晶パネルへの接続は基板パターンによる電極が異方性導電ゴムと接触することで行っています。
回路構成
基板パターンから回路図を作成しました。
乾電池から「降圧型電圧レギュレータ(U2)」で2.5Vを生成して各回路の電源としています。
「マイコン(U1)」は2Pinに接続された「POWERスイッチ(K1)」が押されたのを検出すると「半導体ガスセンサー(SEN1)」のヒーターにつながれた2個の「トランジスタ(Q1,Q2)」をONにして予熱を開始します。
予熱が完了するとマイコンは「SEN1の内部抵抗」と外部の「抵抗(R7)」で分割された電圧と20PinのADコンバータ(AN2)で読み、呼気中のアルコール濃度を計算し「液晶パネル(LCD1)」に表示します。
各操作音やアルコール濃度が基準値(0.25mg/L)を超えたときの警告音は、圧電素子(Buzzer)に接続されたマイコンの3Pinの出力を変化させることで鳴らします。
基板上にはテスト用の端子と思われるものもあります。そのうちのPDAとPCKはマイコンのI2C端子に接続されています。
主要部品の仕様
半導体ガスセンサー(SEN1) メーカー・詳細不明 -> MQ303B
本製品の肝となる半導体ガスセンサーは調べたのですがメーカー・詳細はわかりませんでした。
半導体ガスセンサーは、内部の半導体素子表面に吸着した酸素量によって電気抵抗値が変化する特性を利用したセンサーで、内蔵のヒーターで加熱した状態で呼気を吹きかけると、呼気のアルコール成分に反応して吸着酸素が減少、電気抵抗値が低くなります。電気抵抗値が低いほど体内のアルコール濃度が高いと判定されます。
2023/03/30更新
twitterで郑州炜盛电子科技有限公司(https://www.winsensor.com/)の半導体アルコールセンサー「MQ303B」ではないかとの情報をいただきました。データシートは以下から入手できます。
https://cdn.myxypt.com/26ecc11e/22/05/4fd4fc16236a9e4825610c30b7ea2eab37e5e642.pdf
マイコン(U1) FT61E0A5
マイコンは辉芒微电子(深圳)股份有限公司(Fremont Micro Devices, https://www.fremontmicro.com/)の8bit RISCマイコン「FT61E0A5」です。データシートは以下から入手できます。
https://www.fremontmicro.com/cn/#/mcu/mcu8/1-2:~:text=ft61e0ax_64e0ax_ds_rev1p01_cn
パッケージや内蔵する機能で複数のバリエーションがあり、本製品ではADコンバータ(アナログ-デジタル変換)内蔵のものを使用しています。動作周波数は16MHz、内蔵ADCはサンプルレート800kHz/分解能12ビットです。
降圧型電圧レギュレータ(U2) HE9073
電源電圧安定用の降圧型電源レギュレータは赫尔微(深圳)半导体有限公司(HEERCMICR Semiconductor, http://www.he-mic.com/)のLDO「HE9073」です。データシートは以下より入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2008181810_HEERMICR-HE9073A18M5R_C723785.pdf
定格は出力2.5V/500mA(max)、最小入出力間電圧は100mV@100mAです。
PNPトランジスタ(Q1) SS8550
「Y2」のマーキングがついた部品はPNPトランジスタの「SS8550」で、複数のメーカーが製造している汎用品で、データシートは以下より入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2109141230_IDCHIP-SS8550_C2848042.pdf
NPNトランジスタ(Q2) SS8050
「Y1」のマーキングがついた部品はNPNトランジスタの「SS8050」です。こちらも複数のメーカーが製造している汎用品、データシートは以下より入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2109141230_IDCHIP-SS8050_C2848041.pdf
回路動作の確認
実際の回路の動作をオシロスコープで確認しました。
以下はパワーオンからのQ1(PNP)とQ2(NPN)のベース抵抗にかかる電圧の波形です。
パワーオンでQ1がON(ベース電圧がL)になり、半導体ガスセンサー(SEN1)の「H+」に電源電圧(2.5V)が印加されます。
Q2はSEN1の「H-」側に接続されており、内蔵ヒーターのON-OFFを繰り返しています。約17秒でON(ベース電圧がH)の期間の長さが変わり、予熱期間から測定期間に移行していることがわかります。
上の波形では時間軸のサンプル周期の関係でQ2のベース波形が正確に測定できていないので、各期間で拡大したのが以下になります。
予熱期間では、Q2のON期間の比率を大きくして、SEN1の内蔵ヒーターを急速に加熱して内部のセンサーの温度を上げていきます。
測定期間では、Q2のON期間の比率を小さくして、内部のセンサーの温度を維持しながら、呼気中のアルコール濃度をマイコンのADコンバータで測定しています。
まとめ
100円ショップで手軽に入手できることで、分解して動作を調べることがやりやすくなり、実際の回路動作を確認しながら半導体ガスセンサーの測定方法を調査・確認できたのは大きな収穫です。
余談ですが、筆者も飲酒して本機で測定をしてみましたが、それなりの数値(缶ビール1本で0.1mg/L)が表示されました。ただ、息を吹きかける条件によっても値がかなり変わりました。
取扱説明書にも記載がありますが、測定結果はあくまでも目安のひとつと考える必要があります。
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