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【100均ガジェット分解】(53)ダイソーの「有線・無線両用ヘッドセット」

※本記事は月刊I/O 2023年8月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

今回は、ダイソーのBluetooth対応密閉型ヘッドホン「有線・無線両用ヘッドセット」を分解してみます。

製品仕様

「有線無線両用ヘッドセット」の店頭展示場所はスマートフォンのイヤホンコーナー、価格は1000円(税別)です。
型番は「FS-BTHD001」、製造元は中国東莞に工場をもちOEM/ODMに対応する「株式会社FSC(https://www.e-fsc.jp/)」です。

パッケージ裏面の製造元表示

取扱説明書によると、通信方式は「Bluetooth Ver5.3」、バッテリー容量は「200mAh」で連続再生時間は「約10時間」、待機時間は「約100時間」となっていて、通常使いには十分なバッテリー容量です。音声コーデックは標準のSBCに加えて、より高音質とされているAAC(Advanced Audio Coding)にも対応しています。

取扱説明書の製品仕様

操作は左側の本体下にある3個のボタンで行います。通話機能はBluetooth接続の時のみ有効で、「有線接続では使用できません。」という記載があります。

操作方法(取扱説明書より抜粋)

本体の外観

パッケージの内容は「本体」と「取扱説明書」と、充電専用USBケーブル(Micro-B)です。
本体はABS樹脂製、耳あて部分のクッションは本体と一体になっています。頭に当たる部分にもクッションがついていて、実際の装着感も他のヘッドセットと比べても特に安物という感じもないきちんとした作りになっています。
本体左側の耳あて部にある操作ボタンは3個、操作ボタンの下側には充電用のMicroUSBコネクタと有線接続用の3.5mmオーディオジャックがあり、その横にはLED用とマイク用の穴が空いています。

本体の外観
操作ボタン下側のコネクタ類

本体右側の耳当て部には「技適マーク」とモデル名・製造者が印刷されています。リチウムイオン電池のリサイクルマーク表示とPSEマークもきちんとあります。

本体の技適マーク

動作確認のためにスマートフォンとペアリングをして音楽を再生しましたが、ノイズもなく音質も素直で実使用でも問題なさそうです。

本体の開封

制御基板がある左側の耳あて部を開封します。
ケースはボスによる嵌め込みで固定されているので、薄い板状のものを隙間に差し込んでこじ開けます。

開封した本体

内部はメイン基板とLiPoバッテリー、スピーカー、マイクで構成されています。
メイン基板と各部品は直接ハンダ付けで接続,、右側のスピーカーは本体のアーム部分を通るリード線で接続されています。

内部を取り出した状態

主要部品

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の502030サイズ(厚さ5.0mm x 高さ20mm x 幅30mm)、容量は製品仕様どおりの”3.7V 200mAh”です。

LiPoバッテリー

メイン基板

メイン基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板で部品は全て片面に面実装、実装されている主要部品は以下です。

  • メインプロセッサとその周辺部品

    • 水晶振動子

    • セラミックコンデンサ

    • インダクタ

  • 3個のプッシュスイッチ

  • MicroUSBコネクタ

  • 3.5mmオーディオジャック(スイッチ付き)

  • 状態表示LED(RED/BLUE)

Bluetoothアンテナは基板パターンで基板の両面にスルーホール接続される形で配置されています。
基板表面には基板の型番「BT-8026-AB5616B-V1.0」と基板の製造日(2021.11.16)がシルクで表示されています。

メイン基板

スピーカー

スピーカーはドライバー直径40mm、マグネット直径15.8mm、マグネットを含む厚さ6.3mmの薄型タイプです。インピーダンスは32Ωで最大出力は20mWです。

スピーカー

マイク

マイクは直径4mm、厚さ1.7mmと非常に小型のコンデンサマイクです。インピーダンスは2.2kΩ、音圧感度は-42±3dBV/Pa(1パスカルの音圧入力時の出力電圧は約8mVrms)です。

マイク(1円玉はサイズ比較用)

回路図と回路動作

基板パターンからメイン基板の回路図を作成しました。

回路図

メインプロセッサ(U1)にはUSBからの電源(VBUS)とLiPoバッテリーが直接接続され、バッテリーの充放電制御はメインプロセッサが行っています。
U2は必要に応じてリチウムイオン充放電ICを実装するための予備パターンです。

メインプロセッサの周辺部品はコンデンサと26MHzの水晶振動子、BT電源(VDDBT)平滑用のインダクタ(L1)です。コンデンサは内蔵のPMU(Power Management Unit)で生成した電源(VDDIO/VDDDAC/VDDBT)のフィルタ用で、各電源端子とGND間に接続されています。
VDDBTは5番ピン(LX)からのスイッチング出力をインダクタ(L1)とコンデンサ(C17,C18)で平滑して生成しています。

メインプロセッサの15番ピンにはNTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient Thermal sensitivity resistor)が接続されていて、周辺温度を監視しています。
MicroUSBコネクタのD+から14番ピンに接続されている「PDAIF」はオンボードでのプログラム書き込みに使用します。
キー入力(3個)は抵抗分割による電圧の変化を1個の入力端子(ADC)で検出、状態表示のRED/BLUEのLEDは1個の出力端子で排他制御しています。

スピーカーの各ラインにはノイズ対策でLとCのローパスフィルタが入っています。
有線接続用のオーディオジャックはU1のオーディオ出力端子(DACR/DACL/VCMBUF)に直接接続されていて、13番ピン(ADC6)で接続を検出したらU1が出力を停止(ハイインピーダンス)にして、有線入力に切り替えます。

プリント基板はGNDパターンや各電源の引き回しも問題なく、きちんと設計されている印象を受けました。

主要部品の仕様

メインプロセッサ AB5616B

メインプロセッサ

メインプロセッサは深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(bluetrum, http://www.bluetrum.com/)製のBluetoothオーディオ用SoCの「AB5616B」です。製品概要は以下にありますが、データシート等の詳細仕様は公開されていませんでした。

ピン配置については、同じプロセッサを使用した製品のFCC Reportが以下にありましたので、こちらを参考にしました。

パッケージはQFN20で、すべてのピンを無駄なく使用しています。
製品概要によると、CPUコアは「32bit RISC-V」でDSP(80MHz動作)を搭載し、プログラム用の2MBのフラッシュメモリを内蔵しています。Bluetoothはv5.4準拠となっています。

水晶振動子 26MHz汎用品

水晶振動子

水晶振動子はFA-238パッケージ(3.2 x 2.5 x 0.7mm)の汎用品が使用されています。同一パッケージの水晶振動子のデータシートは以下から入手できます。

https://akizukidenshi.com/download/ds/epson-toyocom/FA238-20MHz.pdf

Bluetooth接続情報の確認

Android版の「Bluetooth Scanner」というアプリを使用して接続情報を確認した結果です。
本製品は「FS-BTHD01」という名前で検出されます。
プロファイルは「ヘッドセット」でコーデックは製品仕様どおり「AAC, SBC」がサポートされています。

Bluetooth接続情報

技術基準適合証明の取得情報

総務省 電波利用ホームページの「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」で本体に記載の工事設計認証番号(210-227243)で検索した結果です。相互承認(MRA、Mutual Recognition Agreement)により、米国のTimco Engineering Inc. (https://timcoengr.com/)で適合性評価を実施し認証を取得しています。

https://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet?pageID=jg01_01&PC=217&TC=N&PK=1&FN=230111N217&SN=%94%46%8F%D8&LN=41&R1=*****&R2=*****

技術基準適合証明

検索結果に登録されている書類によると、認証テストは深圳の深圳信测标准技术服务股份有限公司(EMTEK (DONGGUAN) CO., LTD. http://www.emtek.com.cn/)で実施しています。

実際の製造は中国の东莞市永方电子科技有限公司(Dong guan Yong fang electronics technology co.,LTD. https://www.dgyongfang.com/)です。

まとめ

本製品で採用されているSoCのメーカーである深圳市中科蓝讯科技(bluetrum)は、RISC-V Internationalの「Strategic Member」(https://riscv.org/members/)であり、ほぼすべてのSoCのCPUコアにRISC-Vを使っています。
低価格のBluetoothオーディオ製品を分解すると、SoCには珠海市杰理科技(ZH-JieLi)が採用されていることがほとんどでほぼ「1強」状態に近い印象なのですが、最近はbluetrumを見かけることが増えてきています。
この価格帯のBluetooth Audioのここ数年の普及状況をみると今後も様々なメーカーが参入してきそうな気がするので注目をしていきたいと思います。

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