【100均ガジェット分解】(10)ダイソーの「4WAYキッチンタイマー」
※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです。
100円ショップのガジェット分解、今回はダイソーで人気の200円商品「4WAYキッチンタイマー」を分解します。
パッケージと製品の外観
「4WAYキッチンタイマー」は正面から見ると正方形をしていて、本体を90°回転させることにより4つの機能(時計・アラーム・タイマー・温度)を切り替えて表示できます。
90°回転することで表示切替
パッケージ裏面の表記は「日本語」「英語」「ブラジル語(ポルトガル語)」の3か国語、「MADE IN CHINA」でブラジルでも販売されているようです。
パッケージ裏面の表示
本体の分解
■ 本体の分解
本体前面に両面テープで固定された透明パネルの隙間にピック等を差し込んでゆっくりはがすと本体を固定しているビスが見えます。これを外すと本体を開封できます。
前面パネルをはがした状態
本体を開封すると電池ボックスからリード線で接続されたプリント基板が取り出せます。背面側には「設定用プッシュスイッチ」「角度検出スイッチ」「ブザー」が実装されています。
プリント基板を取り出した状態
プリント基板は1枚構成です。前面側には表示用の液晶パネルが接続されています。
前面側に接続された液晶パネル
回路構成
■ メインボード
メインボードは紙フェノールの片面基板です。液晶パネルを外すと「樹脂モールドされたコントローラ」「角度検出スイッチ」「室温検出用サーミスタ」が実装されています。
メインボード(前面側)
■ 回路構成
現物よりメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。
回路図
液晶パネルはパラレル34ピンで直接コントローラに接続されています。角度検出スイッチ・設定スイッチは電源 or GNDの2値でのデジタル入力です。コントローラの電源入力には単4乾電池2本が直接接続されており、LDO(電源用レギュレータ)を内蔵していると推定できます。室温検出用サーミスタ・ブザーも直接コントローラに接続されています。また、コントローラからは4ピンの「デバッグ端子」が引き出されています。
主要部品の確認
次に本製品の主要部品について確認していきます。
● 液晶パネル
液晶パネルは34本の信号でコントローラと接続されています。パネルと基板の間は「異方性導電ゴム」で接続されています。
液晶パネルと基板の接続
「異方性導電ゴム」は垂直方向のみ通電・水平方向は絶縁という特性を持っています。接続構造が単純なため組み立てコストとサイズ削減のために使われます。以下は接続面の拡大写真です。「導電性ゴム」と「絶縁ゴム」が交互に並んでいて水平方向には絶縁する構造となっています。垂直方向の導電部の抵抗値は実測で約1~2kΩですので低速のデジタル信号の接続であれば使用できます。
異方性導電ゴムの接続面の拡大写真
液晶パネルは表示部分とガラス面の透明電極のみでコントローラ等は実装されていいないことから、信号線の組み合わせで固定された表示部分を切り替える「セグメント液晶」です。「4方向の表示」という仕様から本製品のような機能の為に専用設計されたパネルのようです。パネルの電極部分に「JH10932」という表示があったのですが、検索しても該当する部品の仕様書は発見できませんでした。
透明電極部分の拡大写真
型番表示部分の拡大写真
● 角度検出スイッチ
「角度検出スイッチ」は両面ガラスエポキシ基板をメインボードに画面に対して45°の角度で半田付けする構成で実現しています。
角度検出スイッチの基板部分
基板の内側の断面にはプリントパターンが印刷され、そこを金属のボールで短絡する事によるコントローラの入力ポート(回路図の「KEY1」「KEY2」)のHigh/Lowの組み合わせで画面の回転角度を検出します。
金属ボールの位置で回転角度を検出
● コントローラ
コントローラは樹脂モールドされたベアチップ実装です。基板には「HX1188」という基板の型番と「180717」という製造年月日のシルクの表示があります。これを手掛かりにWeb上で検索をしたのですが、結論としては今回はメーカーや仕様の特定には至りませんでした。
基板上のシルク表示
ピン数や実装されている基板のパターンより14ピン x 4辺 = 56ピンの専用コントローラであると推定しました。基板パターンより接続先を特定して作成したのが前述の回路図になります。34ピンのLCDパネルや単4乾電池2本・室温検出用サーミスタ・アラーム用のブザーの他に32.756kHzの「水晶振動子」といくつかの抵抗・コンデンサが接続されています。「水晶振動子」の発振周波数の32.768kHzは、デジタル時計でよく使われる「16bitカウンタの最上位bitが1になった時に1秒(32768は2進数で1000 0000 0000 0000)となる周波数」です。
コントローラ部の回路図(拡大)
シリコンチップの観察
今回もベアチップ実装なのでモールドをダイヤモンドヤスリとカッターで削ってチップ自体を顕微鏡で観察してみました。顕微鏡は今まで同様にAliexpressで3500円で購入した最大600倍の下記を使用しました。
●G600 600X USB 顕微鏡
使用したUSB顕微鏡
● コントローラ
樹脂モールドを削ってシリコンチップ(ダイ)を露出させたのが以下の写真です。チップサイズは実測で1.4mmx1.4mmです。
露出したシリコンチップ
これを顕微鏡で拡大したものが以下です。写真より、パターン形状によって複数のブロックに分かれているのがわかります。
シリコンチップの拡大写真
この写真を上記で作成した回路図に重ねて、パターンの結線からシリコンチップ上の大まかな回路ブロックの配置を推定したのが以下です。シリコンチップのパターンの違いによるブロック分けをしてみると、ワイヤーボンディングで配線されているシリコンパッドの近くでブロックが変わっており、各機能がパッドにあわせて配置されているようです。
大まかな回路ブロック(推定)
まとめ
今回は同じものを2台分解したのですが、メインボードの製造年月日によってパターンが修正されていました。以下の写真の右が「180717」左が「190520」です。新しい方では裏付けされていた抵抗がなくなり、デバッグ用端子のパターンも削除されています。
製造日でメインボードのパターンが異なる
「4WAYキッチンタイマー」はダイソー以外からも機能が近い商品(例えば他社はバックライト付き等の機能が追加)が販売されている人気商品ですので、最初のロットでの問題点は継続して改善検討されているとみてよいでしょう。数年前の100円ショップガジェットは在庫売り切りのものが多いというイメージがあったのですが、本製品をみると一定以上の人気があれば継続して改善の取り組みをしていることがわかりました。
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