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【100均ガジェット分解】(57)ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン DG036-01」

本記事は月刊I/O 2023年12月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

ダイソーから低遅延のゲームモードに対応した「完全ワイヤレスイヤホン」の新製品を発見しました。早速分解してみます。

パッケージの外観

パッケージと製品の外観

パッケージの表示

ダイソーの低遅延モード対応「完全ワイヤレスイヤホン(TWS)」は「ダイソーブランド」で価格は今までのTWSと同じく1000円(税別)です。

パッケージの仕様表示によると通信方式は「Bluetooth Ver5.1 Class2」、内蔵バッテリー容量はイヤホンが「40mAh」、充電ケースが「250mAh」です。音楽の連続再生時間は「約8時間」、充電ケースでイヤホンを約2回充電できます。マルチペアリングに対応していて登録可能端末数は「最大4台」です。

製品パッケージの仕様表示

パッケージ背面の特徴には「日本人技術者がチューニングした日本人向けの音質」との記載があります。

製品パッケージの特徴表示

低遅延のGame Modeへの切替はイヤホンのボタンを連続3回クリックすることで行います。

操作ボタンの機能(取説より抜粋)

音質はこれまでのダイソーのTWSと比較しても中音が強めの印象で、個人にの好みによって評価が分かれるところだと思います。

同梱物と本体の外観

パッケージの内容は「イヤホン(左右各1個)」「充電ケース」「取扱説明書(日本語)」です。充電ケースのコネクタは「USB Type-C」、充電ケーブルは付属していません。

イヤホンの外装はプラスチック製、イヤーピースはS・M・Lの3種類が付属しています。

イヤホンの外観

充電ケースのコネクタはTWSでは一般的な磁石でイヤホンと電極を接触させる構造です。「技適マーク表示」は充電ケース裏面にあります。

充電ケースの外観

技適番号から総務省の「電波利用ホームページ」の情報では証明を取得したのは、大阪のクロスブレイン(http://cross-brain.co.jp/)となっています。

技適取得情報(総務省電波利用ホームページより抜粋)

イヤホンの分解

イヤホンの開封

イヤホンはケースの隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封できます。内部はメインボード、LiPoバッテリー、スピーカー、充電電極及び磁石で構成されています。LiPoバッテリーはメインボードに両面テープで固定されています。

開封したイヤホン

イヤホンの構成部品

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは501012サイズ(幅12 x 高10 x 厚5.0mm)で容量40mAhです。保護回路は内蔵しておらず、タブ(電極)にリード線を直接ハンダ付けしています。

LiPoバッテリー(イヤホン)

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板(これまで分解した他のTWSのイヤホンは全て4層基板)、基板の型番「S807-AD6983D A0」がシルクで印刷されています。

表面にはメインプロセッサ・水晶発振子、裏面にプッシュスイッチ・コンデンサマイク・チップアンテナ・LED(B/R)が実装されています。チップアンテナはこれまで分解したTWSと比べても非常に小さく、GND側のパターンの引き回しで感度を稼いでいるようです。 

メインボード(イヤホン)

イヤホンの回路構成

基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。回路番号は基板に表示がないので、筆者が割り当てました。”NMT”は未実装部品(No MounT)です。

回路図(イヤホン)

メインプロセッサ(U1)には充電電源(+5V)とLiPoバッテリー(B+/B-)が直接接続されており、充電制御はメインプロセッサで行っています。

メインプロセッサの周辺部品はコンデンサとインダクタ(L2)及び水晶発振子(24MHz)のみ。必要な電源のうちVDDIO、VCOMはプロセッサ内部で、Bluetooth用電源はSW出力(5pin)をL2とC6/C7で平滑して生成してBT_AVDD(8pin)へ入力することで電力を削減しています。
DP/DMは内蔵フラッシュ書き込み用のピンでテストランドに接続されています。

未実装部品のほとんどはノイズ対策用の保険回路で、完成品を評価した結果実装しなかったものと思われます。

イヤホンの主要部品の仕様

メインプロセッサ AD6983D

メインプロセッサ

メインプロセッサは珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi, http://www.zh-jieli.com/)のBluetooth TWS用SoC「AD6983D」です。
データシートはデザインハウス(方案公司)の深圳市科普豪电子科技有限公司(KEPUHAO)から入手できます。

 https://www.kepuhaodianzikeji.com/newsinfo/909528.html

パッケージはQFN20、32bit CPU + DSP(最大160MHz動作)の構成で、DSPはAACコーデックやノイズキャンセル機能にも対応しています。I/OピンはMUXで複数機能を切り替えて割り当てられるので汎用マイコンとしても使用できます。

AD6983Dの主要機能(データシートより抜粋)
AD6983DのPin Description(データシートより抜粋)

充電ケースの分解

充電ケースの開封

充電ケースも隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封できます。内部には充電ボードとLiPoバッテリーがあります。LiPoバッテリーは充電ボードに直接ハンダ付けされ両面テープでケースに縦に固定されています。

開封した充電ケース

充電ケースの構成部品

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の502030サイズ(幅30 x 高20 x 厚5.0mm)で容量は250mAhです。

LiPoバッテリー(充電ケース)

充電ボード

充電ボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面は充電制御IC・昇圧用インダクタ・イヤホン充電用コンタクトピン・Type-Cコネクタ、裏面は充電状態表示の4個のLEDが実装されています。
充電制御ICの裏面は放熱のためにレジストを除去しパターンにハンダが盛られています。

充電ボード

充電ケースの回路構成

基板パターンから充電ケースの回路図を作成しました。回路番号は基板に表示がないので、筆者が割り当てました。

回路図(充電ケース)

USB Type-Cは6ピンの充電専用で電源(VBUS)・GNDとCC(Configuration Channel)ラインのみ接続、USBデバイスとして検出するためのCCラインのプルダウン抵抗はUSB規格通り5.1kΩが実装されています。充電制御IC(U1)はUSBからの電源(VBUS:5V)からのLiPoバッテリーへの充電と、LiPoバッテリーの電圧を5Vに昇圧し、L/Rの+/-端子を経由してイヤホンへ充電(充電ケースから見たら放電)を行います。充電状態表示のLEDは2個のピン出力の組合せで4個をON/OFFしています。ただ、抵抗が入っている位置が充電制御ICの標準回路と異なっており、各LEDに流れる電流値が均等になっていないのは気になりました。

充電ケースの主要部品の仕様

充電制御IC IP5413T

充電制御IC

充電制御ICは深圳英集芯科技股份有限公司(INJOINIC, http://www.injoinic.com/ )のTWS充電ケース用IC「IP5413T」です。

データシートは以下のページのLinkから入手できます。

 http://www.injoinic.com/product_detail/id/26.html

最大出力電流: 200mA、昇圧効率: 約95%、スリープ時電流: 10uAとけっこう高性能なICです。

IP5413Tの主要機能(データシートより抜粋)
IP5413Tの内部ブロック図(データシートより抜粋)

Bluetooth接続情報の確認

今回もAndroid版の「Bluetooth Scanner, Finder」というアプリで接続情報を確認しました。本製品は「DG036-01」という名前で検出され、プロファイルは「ヘッドセット」、サポートするコーデックは一般的な「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。ベンダーは「不明」となっていました。

Bluetoothの接続情報

遅延時間の実測結果

スマートフォンの内蔵マイクで遅延時間が測定できるアプリ「Superpowered Latency test(https://superpowered.com/latency)」で遅延時間を実測しました。

最初に基準として有線イヤホンで測定しました。遅延時間は44msですので、Bluetooth接続での遅延はこの値からの差分となります。

有線イヤホンでの遅延時間実測結果

まずは本製品のMusic Mode(通常モード)での測定結果です。遅延時間は291-44=247msとなりました。

Music Modeでの遅延時間実測結果

次はGame Mode(低遅延モード)での測定結果です。遅延時間は182-44=138ms、パッケージ記載のGame Modeの遅延時間「0.06s(60ms)」に対しては、ほぼ倍の結果でした。

Game Modeでの遅延時間実測結果

まとめ

本製品のSoC(ZhuHai JieLi「AD6983D」)は他の低価格TWSでも採用されていますが、ソフトウエアだけで低遅延対応しています。「日本人技術者がチューニングした日本人向けの音質」という表現とあわせて、ハードウエアのコストを上げずに他の低価格TWSとの差別化をしているのは評価できます。

「AD6983D」のデータシート上ではまだ使われていない機能がいくつもあるので、それらに対応した製品が出てくるのを期待して待ちたいと思います。

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