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【100均ガジェット分解】(12)ダイソーの「ポータブルBTスピーカー」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです

2019年末にダイソーからUSBメモリやSDカードからの再生をサポートした「ポータブルタイプBluetoothスピーカー」が500円(税別)で登場しました。早速購入して分解します。

パッケージと製品の外観

「ポータブルタイプBluetoothスピーカー」はヘッドホンやマウスと同じ電子機器コーナーで販売されています。

01_電子機器コーナーで販売

ダイソーでは電子機器コーナーで販売

パッケージ表示では通信仕様は「Bluetooth 5.0」、USBメモリ・microSDカードからの音楽再生もサポートしています。
LiPoバッテリーを内蔵し「連続再生2.5時間」となっています。
パッケージ裏面には「技適マーク」が表示されています。

02-1_製品パッケージの表示_SPEC

製品パッケージの表示(抜粋)

02-2_製品パッケージの表示_技適マーク

パッケージの技適マーク表示

本体の分解

■ 同梱物

パッケージの内容は「本体」「USBケーブル(充電専用)」「取り扱い説明書(日本語)」で構成されています。本体正面はネット状のカバーになっています。
本体背面には電源スイッチとコネクタが配置されており「技適マーク」の表示があります。操作ボタンは上面に4個配置されており、+/-ボタンには長押し・短押しで複数の機能が割り当てられています。

03-1_本体正面

スピーカー本体

03-2_本体背面

本体背面には技適マーク

04-1_本体上面の操作ボタン

04-2_本体上面の操作ボタンの機能

本体上面の操作ボタンと機能

■ 本体の分解

本体正面のカバーははめ込み式になっています。これを外すとケースを固定している4本のネジが見えますのでドライバーで外すとケースが開封できます。

05_スピーカーカバーを外した状態

スピーカーカバーを外した状態。四隅の穴がビスの位置

内部はメイン基板1枚・両面テープで固定されたLiPoバッテリー・スピーカーで構成されています。スピーカーは1個だけ(モノラル)です。

06_本体を開封

本体を開封

基板実装部品以外のスピーカー・バッテリのリード線は基板に直接ハンダ付けされています。

07_部品をケースから外した状態

部品をケースから外した状態

回路構成と主要部品の仕様

■ LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは503035サイズ(5x30x35mm)で”3.7V 500mAh”の表示があります。LiPo本体に保護回路を内蔵しています。

08_LiPoバッテリー

LiPoバッテリー

ちなみに同等品をAliexpress(中国の通販サイト)で検索すると執筆時点(2020年1月)ではUS$2.5~3.5で販売されていました。

https://bit.ly/2RPG3gu

■ メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面にはメインプロセッサ・パワーアンプ・充電制御IC・SDカードスロット・コンデンサマイクが実装されています。Bluetoothのアンテナは基板パターンで構成されています。基板上にはオーディオ1ch分の空きパターンがあります。

09_メインボード_表

メインボード(表面)

裏面には各種スイッチ・コネクタが実装されています。型番と思われる「HS-GM-X32_V4.0」と製造日(20190718)の表示もあります。

10_メインボード_裏

メインボード(裏面)

■ 回路構成

基板パターンからメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。

11_回路図

回路図

キー入力(4個)は抵抗分割された電圧をADCで検出、BluetoothのLink状態を示す青色のLEDはキー入力ピンを出力として使用するなど、20ピンという限られたピン数で必要な機能をうまく実装しています。
Bluetooth用のアンテナはいわゆる「板状逆Fアンテナ」となっています。

オーディオ出力は左右のミックスではなく片チャンネルのみです。ちなみに空きパターンは実装済のパワーアンプと全く同じ回路となっており、単純に部品を実装するだけではステレオ化はできない仕様です。

■ 主要部品の仕様

本製品の主要ICについて調べていきます。

● メインプロセッサ AS19AP21243

12_AS19AP21243のパッケージ

AS19AP21243のパッケージ

"JL"のロゴより中国製のBluetoothやWiFiのチップセットでよく使われている珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology,http://www.zh-jieli.com/)製のLSIであることはわかりますが、パッケージのマーキングの「AS19AP21243」という型番は製造元の製品一覧には存在せず、情報も一般には公開されていません。
そこで同じメーカーで機能的に近い「AC6905A」とプリント基板の結線情報を元に回路図を起こしました。
参考にした「AC6905A」のデータシートは以下より入手可能です。

https://bit.ly/2kZzWcM

メインのアプリケーションプロセッサの主な機能としては以下です。
- Bluetooth V5.0サポート
- 2チャンネルのオーディオ出力(本製品では1チャンネルのみ使用)
- 1チャンネルのMIC入力
- キー入力用ADC(出力としても使用可)
- LDOを内蔵し必要な電源を生成(外部出力ピンあり)
- USBメモリ・SDカードからのデコード
- マイクロUSBからの充電時の保護機能(推測)

● 充電制御IC LPSBL9C1

13_LPSBL9C1のパッケージ

LPSBL9C1のパッケージ

パッケージに表示された「LPS BL9C1」という型番で検索したのですが、ヒットするものはなく製造元の特定はできませんでした。そのためプリント基板の結線情報と機能・形状(SOT-23)を元に調査した結果、Analog Drvices, Inc(https://www.analog.com/jp/index.html)の1セル・リチウムイオン・バッテリ用の定電流/定電圧リニア・チャージャ「LTC4054L-4.2」の互換品と判明しました。
「TC4054L-4.2」のデータシートは以下より入手可能です。

https://bit.ly/2uBuxgr

● オーディオパワーアンプ HAA8002B

14_HAA8002のパッケージ

HAA8002Bのパッケージ

「HAA8002B」は深圳市正芯科技有限公司(Shenzhen Zhengxin Technology, http://www.pluschiptech.com/enindex.htm)製の2.25W@4Ωまで出力可能なAB級オーディオパワーアンプです。概要は以下に公開されています。

https://bit.ly/2RoeyLR

「8002」という型番のオーディオパワーアンプは中国製のガジェットではよく使われており、複数の会社から互換品が発売されています。
「8002」のデータシートは以下より入手可能です。

https://bit.ly/2RI3jww

このデータシートですが、同じものが複数の会社の「8002」のものとして配布されていました。ある意味非常に効率が良いと感心しました。
(もちろん独自で準備している会社もあります)

Bluetooth接続の確認

■ スマートフォンでの確認

今回もAndroid版の”Bluetooth Scanner”というアプリを使用しました。

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Bluetooth Scanner

本機の電源をいれると”SR9910”という名前で検出されるのでペアリングしアプリで接続情報を確認すると、プロファイルは「Headset」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。

16_本機の接続情報

本機の接続情報

■ Windows PCでの確認

Windows10(64bit)搭載のPCとペアリングをすると「Bluetoothヘッドセット」として認識されます。入力デバイスとしても選択できるので通話用のマイクとしても使用できます。「AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)」もサポートしており、本機からPC本体の制御が可能です。

17_Windows10での接続プロトコル

Windows10での接続プロトコル

18_ヘッドセットとして認識

ヘッドセットとして認識

まとめ

メインボードのパターンレイアウト、回路構成ともに「LSIのサンプルアプリケーション」に近い設計となっています。
空きパターンの結線を見ると「ステレオとしての設計をミスした基板をモノラルとして販売」としている可能性も考えられますが、販売価格(税別500円)を実現するために割り切ったのであれば、顧客目線としても「あり」だと思います。

100均で買えるガジェットを分解していると、”ZhuHai JieLi”のように「中国以外ではほとんど知られていないが、中国では多くの製品に使われている部品メーカー」をたびたび見かけます。
また、今回の「LPS BL9C1」「HAA8002B」のように機能・パッケージが完全互換のものが複数の部品メーカーでつくられているのもよく見かけます。
いわゆる「セカンド・サードソース」が自然発生し競争することでコストが下がっていくという構図が見えてきます。

これらの競争の中から次のMediatekやQualcommのような会社が産まれてくるのかもしれません。

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