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【100均ガジェット分解】(13)ダイソーの「両耳タイプBTイヤホン」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです

ダイソーからアルミボディで両耳タイプの「Bluetoothイヤホン」が500円(税別)という価格で登場しました。今回はこちらを分解します。

パッケージと製品の外観

「Bluetoothイヤホン」は有線のヘッドホンやマウスと同じスマートフォンの周辺機器コーナーで販売されています。

01_スマートフォンの周辺機器コーナーで販売

スマートフォンの周辺機器コーナーで販売

パッケージ表示では通信仕様は「Bluetooth 5.0対応」、内蔵の電池容量は50mAhで「連続使用時間2-3時間」となっています。
パッケージ裏面上部には「技適マーク」が表示されています。

02-2_製品パッケージの表示

製品パッケージの技適表示

02-1_製品パッケージの表示

製品パッケージ記載の仕様


本体の分解

■ 同梱物

パッケージの内容は「本体」「USBケーブル(充電専用)」「取扱い説明書(日本語+英語)」で構成されています。
本体のイヤホン部はアルミボディで左右をマグネットで固定できます。イヤホンのケーブルとの接続部にはL/R表示があります。

03_本体のイヤホン部

本体のイヤホン部

本体のコントローラ部には3個の操作ボタンとLED・充電用のマイクロUSBポートが配置されていて、背面には「技適マーク」の表示があります。
各操作ボタンには状態によって複数の機能が割り当てられています。

04_本体のコントローラ部

本体のコントローラ部

05_操作ボタンの機能例

操作ボタンの機能例

■ 本体のコントローラ部の分解

コントローラ部のケースはツメによって固定されているだけなので、精密ドライバを隙間に差し込んでこじることで簡単に開けることができます。
内部はメイン基板とLiPoバッテリーで構成されています。イヤホンとLiPoバッテリーはリード線でメイン基板に直接ハンダ付けされています。

06_コントローラ部を開封した状態

コントローラ部を開封した状態


回路構成と主要部品の仕様

■ LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは401120サイズ(4x11x20mm)で”3.7V 50mAh”の表示があります。LiPo本体に保護回路を内蔵しています。

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LiPoバッテリー

ちなみに同等品はAliexpress(中国の通販サイト)では執筆時点(2020年2月)ではUS$1.5~2.5で販売されています。
https://bit.ly/2Vf7uDq

■ メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。
表面に実装されているのはメインプロセッサとその周辺部品(水晶発振子、セラミックコンデンサ、BTアンテナ用のインダクタ)、プッシュスイッチ、コンデンサマイク、状態表示用のLED(RED/BLUE)となっています。
Bluetoothのアンテナは基板パターンで構成されています。

メインボード表面

メインボード(表面)


裏面に実装されているのは充電用のマイクロUSBコネクタのみで、イヤホンとLiPoバッテリーを接続するためのランドと、テスト用と思われるランドがあります。
基板の型番である「XL-001-AC6939B-V1.0」と製造日(20190329)の表示もあります。

メインボード裏面

メインボード(裏面)

■ 回路構成

基板パターンからメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。「NM」はパターンはあるが実装されていない部品です。

10_回路図

回路図

まず回路図を起こしながら何度も確認したのですが、本製品のオーディオ出力は「モノラル」となっています。回路からは同一出力(DACL/DACR)を左右のイヤホンに逆相で接続して疑似的なサラウンド効果を出そうとしているようも推測できるのですが、実際にペアリングをして音を聞いたところ全く効果がありませんでした。
キー入力(3個)はそれぞれ独立した入力端子に接続されています。電源やBluetoothのLink状態を示すRED/BLUEのLEDは1個のポートで排他制御しています。
Bluetooth用のアンテナパターンはジグザクの「ミアンダ」形状となっています。
メインプロセッサにはUSBの電源(VBUS)とLiPoバッテリが直接接続されており、LiPoの充放電制御もここで行っています。マイクもメインプロセッサに直結されていて、周辺部品も少なく非常にシンプルな構成になっています。

プリント基板の設計としては、基板が細長いこともありますが、全体的にGNDパターンが細く、回路ブロック(電源・デジタル・アナログ・RF)のGNDパターンの区分(分離)もきちんとできておらずノイズに対しての配慮があまりされていない印象をうけました。

■ 主要部品の仕様

本製品の主要部品について調べていきます。

● メインプロセッサ AC6939B

11_メインプロセッサのパッケージ

メインプロセッサのパッケージ

"JL"のロゴより中国製のBluetoothやWi-Fi搭載製品でよく使われている珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/ )製であることがわかります。
これまでの分解で見てきた「ZhuHai JieLi」のLSIと同様にパッケージのマーキングの「AC19E9W793-39B2」という型番は製造元の製品一覧には存在せず、データシートも一般には公開されていません。
Webで検索したところ、「TE1011」という製品で香港の会社が申請時に提出したと思われる回路図が公開されていました。
https://bit.ly/2SO43SC

本製品のメインボードのシルク表示および基板パターンより起こした回路図のピン配置とも一致していますので「AC6939B」という型番と特定してよいと思われます。
「AC6939B」も「ZhuHai JieLi」の製品一覧には存在していませんが、機能的に近い「AC6905A」のシリーズ製品だと思われます。「AC6905A」のデータシートは以下より入手可能です。
https://bit.ly/2kZzWcM

このメインプロセッサの主な機能は以下です。1チップでBluetoothのヘッドセットの機能を実現しています。
- Bluetooth V5.0サポート
- 2チャンネルのオーディオ出力(本製品ではL/Rを差動接続で使用)
- 1チャンネルのMIC入力
- LDOを内蔵し必要な電源を内部で生成
- LiPoバッテリー充放電制御機能内蔵

● 水晶発振子 24MHz JWT CFシリーズ

12_水晶発振子のパッケージ

水晶発振子のパッケージ

メインプロセッサ用の水晶発振子はパッケージの”JWT”のロゴと外形形状より中国の合肥晶威特电子有限责任公司(HEFEI Jingweite Electronics, http://www.hfjwt.cn/ )製で発信周波数が24MHzの「Quartz crystal resonator CFシリーズ」であることがわかりました。
製品ページは以下ですが、データシートはリンクが切れており入手できませんでした。
https://bit.ly/2HT1dW5

Bluetooth接続の確認

■ スマートフォンでの確認

今回もAndroid版の”Bluetooth Scanner”というアプリを使用しました。
本機の電源をいれると”EA9745”という名前で検出されるのでペアリングして接続情報を確認すると、プロファイルは「Headset」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。

BT接続情報

本機のBluetooth接続情報

■ Windows PCでの確認

Windows10(64bit)搭載のPCとペアリングをしてデバイスマネージャーで確認すると「Bluetoothヘッドセット」として認識されています。入力デバイスとしても選択できるので通話用のマイクとしても使用できます。
「AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)」もサポートしていますので、本機からPC本体の制御が可能です。

BT接続情報_Win10

Windows10での接続プロトコル

デバイスマネージャ

デバイスマネージャーではヘッドセットとして認識

まとめ

本商品の最大のポイント(弱点)は「モノラル」であるということです。確かに商品パッケージの説明のどこを見ても「ステレオ」という記載がありません
実は分解したのちにコントローラ部の基板を改造して「DACR」と「DACL」の信号を分離して別々に左右のイヤホンに接続して確認してみたのですが、やはり左右同じ音が「モノラル」で再生されました。
最初は設計ミスの可能性も疑ったのですが本製品で使用しているメインプロセッサの「AC6939B」は「モノラル」再生仕様ですので、最近のダイソーらしくない、いわゆる「中国製の怪しいB級商品」であるといってよいでしょう。

さらに調べたところ、Aliexpressで$10程度で販売されている「A6X」という完全左右分離型のワイヤレスイヤホンで「AC6939B/AB5356A」という組み合わせで使われていることがわかりました。
「A6X」はAliexpressでも多くのショップで販売しているかなりメジャーな商品です。
検索結果: https://bit.ly/2w0NUQJ

つまり「片耳用に使われているLSIにイヤホンを2個つけて”ステレオっぽい見た目”にした商品」の可能性も考えれられます。

「AC6939B」というLSI自体は1チップでBluetoothのヘッドセットの機能を実現しているコストパフォーマンスに優れたチップであるだけに、販売価格(税別500円)を実現するために割り切ったとしても、このような販売方法(パッケージ表示)も含めた「B級商品」に使われているのは非常に残念です。

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