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はじめての能楽体験記②

前回からの続きです

Youtubeで学ぶ能楽

としま文化財団講座の「観劇が楽しみになる!能楽講座」では毎週金曜日夜にYoutubeで定期的に講座が配信されました。毎回20分程度の初心者にとても分かりやすい内容で、お話は出演者である観世善正さんが能を、野村万蔵さんが狂言を解説していました。

そもそも能とはというところから始まり、狂言の説明とそれらの違い、衣装や能面、舞台についての説明がありました。
また、公演される演目「萩大名」と「大般若」についての背景やあらすじについての説明もありました。

毎週1回の配信ということで公演まで興味を切らさずにキープでき、まただんだん公演が近づいているという実感も得ることができました。これはコロナの状況の怪我の功名というべき点かもしれませんが、是非コロナ後も続けたらよいのではないかと思いました。

参考までに1回目の講座の動画リンクを張っておきます。

講座で学んだこと

講座では基本的なことを中心に広く学べました。主だったことは次なようなことです。

■能楽=能+狂言
 能と狂言は別の芸能。だが、能と狂言は1つの公演でセットで上演される。

■能は面(おもて)という仮面をつけ、人物のレクイエム的・追悼的なお話が多い 謡や舞踊が演じられる

■狂言は面は付けない会話劇。おもに喜劇で庶民的であり社会風刺も含む

■能も狂言も主役のことを「シテ」という シテの相手役は「ワキ」という
 現代の演劇でも脇役という言葉がありますが、これが語源のようです

■舞台はメインの正方形の舞台を「本舞台」といい背景としての「鏡板」がある。

■本舞台に屋根があるのは昔は能楽が屋外で演じられていた名残。明治期に屋内に舞台が設置されるようになった

その他参考資料

Youtubeの講座でいろいろなことを学べましたが、もう少し知りたいなと思うこともあっていくつかウエブサイトなどを参考に見ました。

その中でも一番わかりやすくかつ情報が多かったのは日本芸術文化振興会のサイト「能楽への誘い」でした。

もしご興味ありましたら以下のリンクから是非見てみてください。

いよいよ公演当日

そうこうしてゆるく関心をもちながら、それでいて関心を切らすことなく公演当日となりました。

階上は池袋のBrillia HALL。能楽堂ではなく一般の公演用の舞台でした。入口からは能楽の雰囲気は感じられずまだ実感はわきませんでした。

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中に入ると舞台には迫力のある舞台が。この舞台では柱が途中までしかなく、屋根は設置されていませんでした。
座席は10列目でなかなかよいポジション。公演は撮影禁止でしたが、始まる前に1枚だけ座席からの様子を撮りました。

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公演開始

いよいよ時間となり公演開始となりました。序盤にセレモニーがあった後、能の演者の観世善正さんから演目の解説がありました。さらに今年から新たな試みとしてスクリプトがパンフレットで配布されたとの説明があり、それもご本人が書かれたとのことでした。youtubeからの流れとから、初心者にわかってもらおうという思いがひしひしと伝わってきます。

演目は以下の3本立てでした。なお、仕舞というのは能の一部を面・装束をつけず、紋服・袴のまま素で舞う略式上演形態のことであり、能のダイジェスト版とお考え下さいとの説明でした。

・仕舞「玉の段」
・狂言「萩大名」
・能「大般若」

仕舞 玉の段

この演目は能の演目「海女」の前半の見どころのダイジェスト版にあたります。この物語は竜宮城の龍神に唐の皇帝から送られた宝珠を海人(海女)が海に潜り竜宮城へ取り返しに行くという話です。その話のうち、海人が竜宮城で首尾よく宝珠を盗み取り、陸に引き上げられる場面が「玉の段」ということになります。

正直な感想を言うと内容がわからず、退屈に感じてしまいました(ファンの方申し訳ありません。。)。もともとの話が分からない上に、衣装も袴のみ、囃子もなく地謡のみでかなり地味な印象でした。ある意味何も知らないときに当初想定していた能のイメージでした。

しかしこれも自身の経験不足からくるものであり、深く知っている方からすると演目のエッセンスが詰まったダイジェスト版であり、これこそ能の醍醐味を味わえる演目形態とのことでした。

補足すると後からパンフレットを参照すると仕舞は初心者に最も醍醐味を伝えられる公演形態とありました(汗)。

狂言 萩大名

次は狂言の演目「萩大名」でした。シテであるとある藩の大名が太郎冠者を伴って清水寺近くの茶屋へ萩の花見へ出かけた時の話です。花見では歌を詠むことが恒例になっていますが、大名は風流事には疎く、歌が詠めません。止む無く太郎冠者がカンニングできるようにサポートを申し出るのですがどこかちぐはぐで…というお話。

狂言は会話口調で進められるので会話はおおよそはわかります。実際に狂言についてはサブスクリプションも提供されておらずでした。ところどころ「さても、さても」などの口調や擬音などもあり、テレビなどで耳にしたことのある言い回しも随所にありました。

そういわれると狂言師の方はテレビに出てることも多く、また、お笑いのすゑひろがりずだったりチョコレートプラネットが物まねしたりもしてますね。意外と狂言って身近なのかもしれないなと思いました。

ストーリーも事前の説明があったこともあり明快で、とぼけた大名のしぐさが面白く客席からも笑いがこぼれていました。楽しく見ることができました。

なお、シテの野村萬さんは人間国宝であり、御年90歳!とてもそんなことを感じさせない声量、動きでした。ただただ驚くばかり。ご子息の野村万蔵さん、お孫さんの野村万之丞さんと3世代で出演されていたのも印象的でした。

能 大般若

そして最後のメインイベントである「大般若」に。この演目は三蔵法師が天竺へ大般若波羅蜜多経を求めて旅する途中、謎の男に出会うところから始まります。

謎の男の正体は深沙大王であり、これまで三蔵法師の命を七度奪ったと告げます。それでも経典を求めて再びやってきた三蔵法師に深沙大王は感服し、経典を与えることを約束するという話です。

深沙大王といえば水神であり、三蔵法師を助けた守護神とされています。この記事を書くにあたり調べると深大寺は深沙大王を守護神としていることがHPに書かれていました。

これらの記載を見ると深沙大王が三蔵法師の命を奪ったというのは意外な感じでしたが、別途高野山HPを見るとその旨の記載がありました。

そして三蔵法師を助けることを約束した深沙大王は、天女と竜神を使わせて三蔵法師を手助けして川を渡り、山を越えるのを手伝います。その後最後に深沙大王が登場し、三蔵法師に経典を与え、三蔵法師は再び川を渡って物語は終わります。

能って意外に派手

この演目をみて終始思ったのは思ったより派手ということでした。当初静かで動きのないものを想像していましたが、まず衣装がとにかくきらびやかでカラフルで派手というのが最初の印象です。まず衣装の色は金、銀、オレンジで髪は赤、白もあり。さらには竜神たちは頭の上に龍の飾り物をつけています。(写真はとしま文化財団より引用)。

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音楽についても生で聞いてみると太鼓(小鼓、大鼓、太鼓)の音は澄んだ音で大きく迫力があります。開演時に太鼓の音から始まりますが、静寂を裂くような緊張感を演出していました。クライマックスの時は笛と合わせて3種類の太鼓が連携してリズムを奏で、盛り上がりを演出していました。
(画像は舞台のものではなく「能楽への誘い」から引用)

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地謡(舞台の脇で6人の男性担当する謡、台詞)も実際に生で聞くとお腹の底から出た声で低く響き、声量もあり迫力があります。演者は台詞を担当し、地謡は情景や心理描写を担当しています。正直初心者の私には言っていることはたまに単語単位でわかるくらいでしたが、ただただ迫力に圧倒されました。

舞台の芸術性

演目全体の感想としては深沙大王以下の竜神たちの姿、しぐさ、舞がまるで絵画を見ているようで見入ってしまいました。なにかの文献には動く彫刻を鑑賞するような感覚という記載を見ましたがまさにその通りだと思います。今回の演目では三蔵法師のみが直面(ひためん、つまり素顔)でしたが、その他の演者である竜神たちはすべて面をつけていました。その能面により、現実離れした感覚が演出されているのだと感じました。

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一番のクライマックスは上記の写真(これもとしま文化財団より引用)にあります舞の場面でした。2組の竜神と飛天が息を合わせて舞う姿は素晴らしかったです。能面をかぶっていては足元が見えないことは客席からみても明らかでしたが、立ち位置やしぐさのタイミングを合わせている点は見事というほかありません。

そして最後は深沙大王が飛天、竜神と一緒に、最後に河を割って三蔵法師の道のりを拓くという演出がありました。モーセの十戒を思わせるような壮大な演出でした。

なお、台詞や謡については正直聞いただけではわからず、前述のスクリプトを手元でちらちら見ながら鑑賞していました。ただ細かい内容よりは上記の舞台上の演技を見て楽しみました。実際Youtube講座でも最初は台詞等はわからなくても舞台を楽しんでいただければという趣旨のことをおっしゃっていました。

全体の感想

以上が初めての能楽体験でした。コロナ禍の影響ということで休憩時間が設けられず2時間15分の公演でしたが結構時間が早く感じられました。当初は寝てしまうのでは、退屈するのではと思っていましたが全くそんなことはありませんでした。

後日コテンラジオの三蔵法師の会を聞きなおしましたが、当然七度死んで…という話はありませんでした。ただそれほどまでに大変な行程であったこと、三蔵法師の志が並大抵のものではなかったことを表現するために物語上の演出となったのだと推測します。これを踏まえてから再び聞き直したコテンラジオ三蔵法師の会も楽しめました。

該当回は公式HPからたどれます

あるいは私が作ったつたないアプリも、もしかしたら便利かもしれません(サムネイルがない。。汗)。

まとめ

というわけで以上が初めての能楽体験記でした。なにより感じたのはテレビや動画でみるのと生で舞台を鑑賞するのは全く違うということでした。「大般若」はYoutubeにも挙げられているものがありますが、全く感じるものはことなります(というか動画では1時間見きれません。。)。

もしご興味持った方は初心者向けの発信、講座、公演が各所の能楽堂で行われているようですので是非現地で参加してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は来年の国立能楽堂の初心者講座行ってみようかと思います。

それでは長文でしたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。



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