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災害時の対応 ~がん治療中の方へ~

東日本大震災からもうすぐ10年。日本は地震の多い国です。地震だけでなく、台風や大雪などの自然災害は、いつ起こるかわかりません。闘病しながらの生活で突然災害の被害にあった場合、どのような対処や準備ができるか、確認しておきましょう。

(文:ナース経験26年 カモミールナース)

災害・防災グッズ

日頃から準備しておくこと

災害が起きたときは、平常心を失いがちです。特に停電していたりするとなおさらですね。いつどのような災害が起きるかはわかりませんし、その規模や起こりうる被害も予測できません。心配しだすときりがありませんが、がんの治療を受けている方は、最低限次のような準備をしておくことをおすすめします。

① 情報・通信手段を確保する

ラジオ・携帯電話・パソコンなど、災害時にも情報を得られる準備をしておきます。
携帯電話のインターネットは、一般的に固定電話やパソコンよりも早く使用できます。 SNSからの情報は早いですが、デマやフェイクニュース、チェーンメールなども多いので注意が必要です。電話回線がつながりにくいときでも、LINEは比較的安定しているようです。

関連サイトリンク: NTTドコモ  ソフトバンク au 

② 避難先等の確認

災害時、「誰に、どうやって、何の連絡をとるか」を家族や担当の医師、看護師と相談して決めておきます。連絡先一覧と避難経路を見やすいところに貼っておくとよいでしょう。特に医療機器を使用していたり、ひとりで逃げられない状態のときは、お住まいの自治体に「避難行動要支援者」として登録してもらいましょう。

避難行動要支援者
総務省消防庁「避難行動要支援者(災害時要援護者)への対応」
緊急時にひとりで避難行動が取れない方の安全確保を図り、安否の確認、救出・救助、情報提供、避難誘導などを行うために、市町村で要介護や障害等の情報から名簿を作成しています。ただし、必ず助けに来てくれるというものではありません。災害時は「自助」、つまり自分の身は自分で守ることが原則になります。

③ 避難するときに持ち出すものを準備しておく
 (水や食料など、一般的な持ち出し物品は省略)

・飲んでいるお薬(貼り薬や冷蔵庫で保管している座薬も)
・お薬手帳(eお薬手帳はスマートフォンで管理できる お薬が入っている薬袋でも可) 参考: 日本薬剤師会「お薬手帳」
・病気に関する情報を書いたもの(下記の表を参考に。携帯電話に入れておくと尚よい)

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 ・スマートフォンでご自身の経過を管理できるアプリもあります。
 「Tomopiia」 日々のご自身を記録する機能(セルフモニタリング)

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・すぐに手に入らない特殊な衛生材料・医療機器・薬
・診察券、保険証類は定位置にしまい、すぐに持ち出せるようにしておく

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【酸素療法中の方】

普段から、酸素ボンベへの切り替え方を練習しておきましょう。
下記の表を参考に、酸素ボンベがどのくらい持つかなども確認しておきましょう。

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また、酸素ボンベに「同調酸素供給器」がついているかを確認します。「同調酸素供給器」を使用すると、息を吸う時にだけ酸素を使いますので、約3倍長持ちします。

なお、大規模災害の時は、医療機器メーカー側からも安否確認がはいります。なお、大規模災害時には地域に「酸素ステーション(HOTセンター)」が設置されるかもしれませんので、どこに設置されるかは、酸素取扱業社の情報・ラジオ・テレビなどでご確認ください。

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【オストメイト(ストーマがある方)】

下記の表を参考に、普段から10日~2週間分の緊急持ち出し用のセットを準備しておきましょう。

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災害時には水を使えないことが多くあり、水を使用しない皮膚洗浄剤を使って装具交換が出来るようにしておいてください。
ストーマ装具は、長期間保管できません。災害用にと多量にストックするのではなく、自宅が被災した時に備え、親類や知人宅に予備を置かせてもらいましょう。大きめのおむつパッドがあると、装具が足りないときや、漏れたときに助かります。患者会に入っていると、装具の入手方法などの情報が早くはいります。

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【ポート(中心静脈カテーテル)留置中の方】

抗がん剤投与のためだけのポートであれば、状況が落ち着くまでそのままにしておいて構いません。栄養の点滴に使用している場合は、予備の輸液剤・ロック用生理食塩水・アルコール消毒綿・ポンプがあれば一緒に持ち出しましょう。輸液は一旦止めて構いませんが、輸液内に医療用麻薬が入っている場合は、なるべく早く再開しましょう。薬の名前がわからない場合は、下記内容を基に医師・看護師・薬剤師に書いてもらいましょう。

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・ポンプが使えなくなった時の対応を医師・看護師とあらかじめ確認しておきます。
・相談できなかった場合に医療用麻薬をポンプで投与できなくなったら、「疼痛時」の薬剤を、指定された間隔をあけて使用しながら、医療機関を受診してください。

※メーカーや品番、機種によっても異なる可能性がありますので、詳しくは各メーカーにお問い合わせ下さい
※2021年2月現在の情報であり、更新・変更になっている可能性があることをご了承下さい

カフティポンプ
キャリカポンプ
デルテックポンプ
テルモ小型シリンジポンプ(TE361)

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被災後の治療や薬の処方について

①治療の見通しの確認
・抗がん剤による治療は、冑がん・肺がん・大腸がんなどの大抵のがんの場合、1~2週間程度遅れても、病状が進行することはありません。災害直後には、まず自分の生活を整えることを優先してください。ただし、「白血病など血液に関係した腫瘍・胚細胞腫瘍・その他の特殊な腫瘍」は、治療を継続して行う必要があります。医療機関などに必ず相談してください。下記の患者さんは、できれば前もって、医師に確認しておくとよいでしょう。

・2週間くらい前に静脈からの抗がん治療を受けた患者さんや、「白血球が少ないので注意してください」と言われている患者さんでは、感染症に注意が必要です。受診できないときや、発熱した場合の対処法を医師に確認しておきましょう。

・大規模災害時は、病院ではがんの診療ができなくなる場合もあります。普段受診している病院に連絡が取れない時は、地域のがん診療連携拠点病院のがん相談室に連絡してください。地域で治療が受けられない時、全国のどの施設でどのような治療が可能かは、ラジオやテレビなどのほか、国立がん研究センターや対がん協会、臨床腫瘍学会のホームページに掲載されます。自宅避難をされていることを避難所や役所に伝えておくと、その後の情報が入りやすくなります。

②薬の確認
・飲み薬の抗がん剤は、手元に薬があって服用方法が分かっている場合で、体調が普段と
変わりなければ服用を続けてください。
・大規模災害時、病院や診療所に受診できない時は、処方箋や薬がなくても、保険薬局に お薬手帳や薬袋を持参すれば薬を受け取ることができます。また、保険証の提示や現金の支払いをしなくても、医療機関を受診したり、薬を受け取ったりできます。
薬は、数日経てば 流通し始めます。(いずれも東日本大震災の場合)
・医療用麻薬を使用している場合は、 麻薬の取り扱いができる病院・薬局で受け取ることができます。普段利用している薬局が機能していない場合でも、近隣の病院・薬局で対応してもらえます。万が一同じ薬が入手できなくても、代わりになる方法がありますので、医師または薬剤師に相談してください。避難する際は、可能な限りすべて持ち出してください。

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避難場所での注意点

① ガレキ、ヘドロの処理作業はしない
抗がん治療中は、感染への抵抗力が低下しています。ガレキ撤去、ヘドロ除去、家屋の清掃などはせずに、体調を整えることを優先してください。

② 感染を予防する
・マスクの着用、うがい手洗い、体温の測定を行います。
・できるだけ密を避け、周囲の人との距離をとりましょう。パーテーションも有効です。
※水が不足している時
うがいは、一度に多くの水を含んで吐き出すよりも、「少臺ずつ口に含んでは吐き出す」をくり返す方が効果的です。手洗いは、使用できればアルコール消毒液を使用します。
歯磨きは、チューブ入りの歯磨き剤は使わず、歯ブラシを少量の水で濡らして磨きます。
入れ歯は使い捨ておしぼりでふきます。針金は、歯ブラシや綿棒で清掃します。
歯ブラシがない時は、タオルやティッシュペーパーで歯の表面を拭き取ります。

③ 脱水・血栓を予防する
・十分に水分をとります。食事がとれない時も水分は十分とるようにします。
→トイレに行く回数を減らすために飲水を控える方が多いのですが、(血液がねばねばになり、つまりやすくなるので)脱水・膀胱炎・血栓症になりやすくなります。
・血栓症の予防のために、足が動くようなストレッチや軽い運動を行います。

避難場所などで集団生活をしている場合、がん治療中であることを避難所の保健師に伝えておくことで、衛生状態に配盧してくれます。

災害に備えておくことはたくさんあり、すぐにはできません。体調のよいときに、少しずつ準備しておきましょう。準備することで、受けている治療や使用している薬を確認でき、医師や薬剤師とよりよいコミュニケーションをとる機会になるといいですね。

※資料:大規模災害に対する備え-普段から出来ることと災害時の対応
(がん治療・在宅医療・緩和ケアを受けている患者さんとご家族へ)

 https://ganjoho.jp/data/public/support/brochure/saigai_booklet.pdf

筆者ご紹介 カモミールナースさん
合計臨床経験26年 総合病院混合内科で7年、在宅分野は介護予防事業む含め20年目。訪問看護では、慢性疾患ケア全般、終末期ケアをはじめ難病や小児ケアにも携わる。
カモミールには炎症を抑えたり、気持ちを安定させるなどの薬効がある、古くから薬草としても利用されています。花言葉は「逆境に耐える」「苦難の中の力」「親交」。逆境や苦難の中でこそ生まれてくる力を発揮できるよう、周りを支えられる存在になれればと日々奮闘中!

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