システム統合への塩っぱい道のり
私は社内でのデータ交換システムを担当していた事があります。各社から集まるデータをデータベースにバッチプログラムで取り込むだけの単純なお仕事のはずなのですが、現実にはエラーが発生しデータが弾かれる。現地からデータを再送してもらったり、こちらで緊急処置として手作業でデータを修正したり。プロセスとシステムが揃ってないから起こるこういう集計上の問題に忙殺されている情シス仲間も多くいると思います。
データとプロセスのこの様な問題だけを考えたら、グローバルシングルインスタンスと言われる世界にたった1つの社内システムがあり、全社がそれを使う事が理想です。私もグローバルシングルインスタンスのERPを運用した経験がありますが、こういったデータ不整合の問題がないと経営の意思決定も格段に迅速になります。
事業が単一で有れば可能でしょう。しかし現実には様々な要因でそれが出来ないケースが多い。M&Aで会社を買収するケースでも、こちらのシステムに置き換えるよりも先方の現行システムを継続稼働した方が良いケースも出てきます。
複数事業所があり従業員が1,000人を超える規模の会社ですと、パターンとしては以下の3つに大別出来るのではないでしょうか。
①プロセスーデータの完全統合
グローバルシングルインスタンスと呼ばれるワンシステムで業務系・会計システムが完全統合されている。データ管理の観点からすれば理想形です。コーポレートガバナンスが強い会社、パッケージシステムによって業界特有のプロセスがサポートされている業界であればこの形態を目指すべきです。ただし、この形態で導入された全社システムは改変が大変で、臨機応変にローカル要件に対応できないため、この全社システムの周辺に大量のローカルシステムが鬱蒼と茂る森のような広がりで作られるリスクがあります。こういったガバナンスが効かないローカルシステムが広がると、何のための誰のためのワンシステムなんだろう、という疑問が現場から上がってくるのは自然な成り行きです。ワンシステムのスコープはコストと効率を考えると小さくなりがちで、ワンシステムそのものよりも、その外側の世界をどう整えていくかが課題になるでしょう。
②財務会計システムレベルでの統合
業務系システムは各ビジネスドメインの商流や、各リージョンや国の商習慣に合わせてある程度自由度を持たせるが、財務会計システムとそれと連携した経営管理システム(管理会計と連結決算のシステム)はグローバルシステムで統合。これが実施出来る前提として、勘定科目コードを始めとする各種コードがグローバルで統一されている前提が必要です。伝統的に経理部門、財務部門のグローバルガンバナンスが強い会社がこの形態を取る傾向にあります。しかし、顧客の期待とは裏腹にグローバル財務会計パッケージは何でもサポートしてくれるわけでなく、税金や固定資産管理のようなローカルの制度への対応が不十分で、それを補うために追加でPCで稼働するようなローカル財務会計システムを導入して、グローバルシステムからCSVファイルを引き抜いて、担当者が一つ一つのファイルをハンド対応でアップロードしたりしており、担当者から見たら「こんなグローバルシステムなんかやめて、最初からローカルシステムの方が良かったんじゃないか。」という声が上がるような塩っぱい感じになりがちです。
③経営管理システムレベルでの統合
財務会計システムは各国・地域という軸や、事業ドメインというレベルで自由度を持たせており、グループでの連結決算を行うために、月次で本社にある経営管理システムに本社が決めたフォーマットに整形して提出。実態は大半がExcelシートで運用。勘定科目コードがグローバルで統一されていない会社、グループガバナンスやシステムが未整備な会社、意思決定のサイクルが月次ベースで経営上困らない会社等、多くの日本のグローバルカンパニーはこの形態ではないでしょうか。日本の財務部門の担当者は、「Excelを早く送ってください!」という各国への尻叩きに毎月追われ、集めたExcelはデータが歯抜けだったり、先月のデータが間違って送付されたりするため、②の世界に早く移行したいと夢見ています。
最後に1968年メルヴィン・コンウェイの「コンウェイの法則」と言われる発言をご紹介します。
「システムは、それを開発した組織のコミュニケーション構造を反映する」
①~③のどのパターンかは、まさにこの法則に従っているのです。業務面でのガバナンスがない組織において、システムだけ統合しようとしてもうまく行きません。システムとはその組織の写し鏡であり、システム統合の成熟度は、組織コミュニケーションの成熟度そのものなのです。
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