何でもシステム化すれば良いとは限らない

情シスの仕事は、現場の人の話す「あそこが痛い」「ここが辛い」というまとまりの無い話しの中から、既に世の中にあるテクノロジーで解決できる塊を型抜きでくり抜いて、そこにテクノロジーを注入し、既存プロセスに流れる神経系統との複雑な断面を器用な手捌きで縫合手術する、プロセス外科医の様なお仕事です。

ここで重要な問題が「何を問題にするか」という視点です。「スコーピング」と呼ばれる、取り組みの輪郭をどの様に形どるかに情シスのセンスが問われます。現場の人を幸せにしたい一心で、現場の人の辛い話し全てを問題とすると、結果として現場を更なる不幸に陥れる事になるでしょう。制約条件である資源としての時間、人(実行能力と数)、お金とのバランスはもちろんの事、大きな制約条件となるベンダーから提供される「テクノロジーの持つ制約」について深く理解する必要があります。

企業情シスの陥り易い罠、それは「テクノロジーの持つ制約」の無視です。

情シスのお仕事のボトムラインとして、「テクノロジーの持つ制約」を深く理解し、現場課題との高度なすり合わせを行い、現場のやり方を改められるもの、現場のやり方を改めるべきでないものに振り分けて、今回導入するテクノロジーでダルマ落としのようにキレイに置き換えられる業務範囲をシステム化のスコープとして、そこで解決できる問題を今回のプロジェクトで扱う問題と定める必要があります。

スコープからこぼれ落ちた問題はいったんは放置となります。別のプロジェクトで別のテクノロジーで解決するか、いったんは現状維持とするかは、痛みの大きさ、取り得る解決策との適合度合、投下される資本の絶対額、回収期間を総合的に勘案しての判断となります。

多くのユーザーから要望される課題については製品開発したベンダー側から拡張機能として解決策が提供される可能性もあります。この時に、足らざる部分を自分達でゴリゴリとコードを書いてしまっているとベンダーからの解決策が導入できなくなってしまいます。しかも定期的に行われるシステムのアップデートが出来ない、アップデートにお金と時間がかかる、といった問題も起こります。短期的に問題を解決したつもりが、長期的には自らが問題を作り出してしまっています。

ベンダーとして顧客にサービスを提供する側にも同じ事が言えます。パッケージ化されたサービスに足らざる部分があれば、そこにSIerとしての儲けの種があると小躍りしながら常駐エンジニア派遣で人月商売を太らせる。本番移行後は保守の請負ビジネスで吸血コウモリのようにチュパチュパとお金を吸い取る。こんな事をやっていてはいつかは顧客に捨てられます。

情シスはプロセス外科医として、手にしたテクノロジーの持つ制約を深く理解し、それをプロセスのどこにどの様な形で注入するのか、腕が問われるのです。お金も時間もあらゆる制約事項を無視すれば、なんだってシステム化出来てしまうわけです。情シスとしての腕の良し悪しは、テクノロジーの持つ制約を深く理解し、どこをプロジェクトのスコープから切り落とすかに表れます。「そこは今まで通り手作業を続けましょう。」と言える勇気が、時としては必要なのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?