事業会社SEの報酬とは何か

「ありがとう!」

この言葉をもらえると元気が出ます。何か価値ある行為に対して感謝の言葉が報酬として得られる。この事には何ら疑問はありません。ただし、この言葉をもらう事を目的としては行けません。それはSNS投稿へ「いいね」をたくさんもらいたいと思う「承認欲求」と同じです。

ビジネストランスフォーメーションを実行するという事は、既存の枠組みを大胆に改革する事です。そうなると、全ての人が賛成しない取組みも沢山出てきます。アイデアを口にした途端に、目の前の利用部門の方が顔を真っ赤にして怒りをあらわにし、真っ向から反対するような場面もあるでしょう。私の肌感覚ですが、みんながハッピーで「よくやってくれたね!」と喜ぶようなITプロジェクトは、改善レベルのプロジェクトです。とっくの昔にやっておかなければならなかった積年の残課題がようやく解決した、程度の案件です。たくさんの「ありがとう」がもらえて、幸せ気分に浸っていては行けないのです。

改革的なプロジェクトにおいては反対勢力が必ず出てきます。感覚的に20%の人が反対と言ってるならば、「おっ、これはなかなかいいぞ!」と思い、50%を超える人々が反対と言っている場合は、「俺、めっちゃヤバいことやってるやん!最高ー!」と狂喜乱舞します。

イノベイション(改革)のジャンプ幅と社内反対勢力の数は正比例します。

ですので、反対勢力が多ければ多いほど、イノベイティブな取組を自分が推進していると実感して、とても幸せな気分に浸れます。これが、まず最初の手付金としての報酬です。

プロジェクトを通して、こうした反対勢力の人と向き合わなければなりませんが、こうした意見の対立を越えるためには、対立しているポイントの一つ上位の概念を探し、意見の一致が出来るかどうか探ります。そこがずれていれば更に一つ上の概念に上がっていきます。例えば、「うちの部門のこれまでのやり方では・・」で思考停止している人とは、一つ上の概念で「私たちのお客様にとって価値あることって何でしょう?」という議論の枠組みを作り、その土俵の上で対話します。一つ一つ上の概念レベルで対立が解消されない場合は最上位、頂点にある概念にたどり着きます。それが会社の「経営理念」です。「ミッション」です。ミッションは企業の存在理由そのもので、社員にとっては疑いようのない価値基準です。もしそのレベルで意見が対立する場合は、その社員は会社の価値基準と異なる価値基準を持っていることになりますので、その人との意見の一致はもはや不可能であることが分かります。このような人とは和解でなく、別の方策で対処するしかありません。また、ミッションを実現するために、多くの企業では組織として、従業員として順守すべき価値観(Value)や行動規範を定めています。対立している相手の意見が依拠している論理がこうしたValueに適合しているのかを見極める必要もあります。

このようにして何とか対立を乗り越え、最終的に新しい「プロセス+IT」が「組織」に定着した結果もたらされる最大の報酬は何でしょうか。
私にとっての報酬は、導入前に現場の人が「〇〇が課題だ」と語っていた課題レベルと、導入後に現場の人が「△△が課題だ」と語っている課題レベルに各段の進化を感じること。現場での「組織実行能力」のギアが数段上がったことを実感する瞬間です。このような瞬間が私が最高に喜びを感じる瞬間であり、私だけがそれを感じ取れる最大の報酬です。「ありがとう」よりも、現場の「組織実行能力」の高まりを感じること、それこそが私が求める報酬です。現場の課題に終わりはありません。常に改革、改善すべき課題が山積みです。いくつもの挑戦と失敗を乗り越えて、「課題を聞いて喜びを感じ取れるレベル」に達すると、別の地平線が大きく目の前に開けていきます。

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