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虹色ドリーミング(第40回)

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

「配信や中継は終了しました。ここからは未公開です」
「ここから先は、卒業ライブのDVDやブルーレイにも収録されません」
「これから歌う曲はCDにもデジタル音源にもなりません。配信もされません」
「今日ここにいる私たちと12000人のみなさんの記憶にだけ残る曲です」
「この日この時この場所で歌うために作られた、たった一度だけ歌われる曲です」
「そんな曲があってもいいと思います。私たちが歩んできて確かにここに立ったという証の曲」
「虹はいつか消えますが、記憶には残ります。どうか語り継いでください。あの日見たよと
「聴いてください。ファイナルナンバー『虹色ドリーミング』」

≪ドリーミング 七つの夢が一つになったから デコボコだって乗り越えられたの≫
≪ドリーミング みんなの夢が重なり合った時 それは星より大きくふくらむ≫
≪どんな夢でも君のおかげで 狙い撃てた魔法 ドリーミング≫
≪夢は虹色 どんな色にだって 光り彩りあざやかに輝く≫
≪今日の景色をどうか思い出して 君がこれから歩く道しるべ≫
≪迷い探し歩き疲れたら 見上げてごらん 虹色ドリーミング≫

≪ドリーミング 君の光が私を導く 鏡に映る銀河の恋人≫
≪ドリーミング 恋にさまよう魂が叫んで 君の声と共鳴していく≫
≪見つけ出してねたくさんの中 私のことを奇跡 ドリーミング≫
≪恋も虹色届いてこの想い 恋し憧れ抱きしめあいたい≫
≪今日の気持ちを絶対忘れない 君と再び出会えるその日まで≫
≪涙流し恋に疲れたら 思い描いて 虹色ドリーミング≫

≪君の愛が私を照らして 輝いていた ウィーワードリーミング≫
≪愛は虹色 愛し愛されて 光放って高く羽ばたく≫
≪今日も明日もこれからだって 君と私はずっ。といっしょよ≫
≪愛の心を見失ったら 見つめ直して 虹色ドリーミング≫
≪一つの虹が七つになっても 光り輝く 虹色ドリーミング≫

 ステージからはけた瞬間に杏花ちゃんが泣き出した。
 それが伝染するように、全員の心の水門が決壊した。
「やだよぉ。まだアリーナもドームも球場もホールも、出てないとこいっぱいあるじゃん。紅白だって出たいよぉ」
「…………」
「……そうだね」
「…………」
「……虹はいつか消えちゃうの」
『そう。虹は期間限定なの。だから綺麗だし貴重な体験なの』
「この七人の道が一つになった時、たまたま虹みたいに見えたんだよ。この七人だからそう見えた」 「七人とドリーマーが集まったからここまで来られたんだよね」
「そんなの分かってるよぉ、この七人じゃなきゃダメだったんだって」
「アイドルでいえばやっぱり神7?」
「えー、私あそこまで輝いてないと思う」
「あと、ウルトラセブン?」
「ミオタン、ウルトラセブンは一人だよ」
「えー、誰それ」
 みんないつの間にか笑顔になっている。
「もういっしょのステージには立たないかも知れないけど。私たちいつまでも友達だよね?」
「親友じゃない?」
「いや、永遠の仲間」
「結婚式絶対呼んでね。誰が一番早いかな?」
「そりゃ年齢的にいってミオタンじゃない?お相手もいるみたいだし」
「ええ?バレてたの?」
「そりゃ物販であれだけイチャイチャしてたら誰だって分かるよ」
「毎年チョコケーキでお祝いする七夕もあったしねぇ」
「あたしは一番最後かな。子供は欲しいけど」
「子供が産まれたらママ友になろうね」
 コンコン……。
「そろそろ撤収するぞー」
「はーい」
「ねえ。七人で写真撮ろうよ」
「私のが一番画質がいいし、盛れるから私ので撮ろう。はーい撮るよー。えっ?そのポーズでいいの?いくよ。はい、リナチー」
 武道館を出ると道路が濡れていた。雨は止んだみたい。
 夜の冷たい空気が「もうすぐ冬が来ますよ」と教えてくれる。
 九段下の駅で東西線組と都営新宿線組に別れた。  最寄り駅で一人になってふと思った。これからはこの道を一人で歩かなきゃならないんだなって。  寒い。、明日から少し厚着をしよう。

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