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「組織デザイン」とはなにか?──21世紀の企業に不可欠な、「分業」と「調整」の設計術

組織崩壊、組織の成長痛、●●人の壁……スタートアップをはじめとする、急速な事業成長に挑む企業から、こうした言葉を耳にすることは珍しくなくなりました。

事業成長=企業として順風満帆」というわけではないと認識している経営者やビジネスパーソンは、増えてきているのではないでしょうか。そして、こうした組織課題の解決策として、スタートアップなら例えば「1on1」や「カルチャー醸成」、そして「採用広報」などが広まっています。

しかし、組織課題の抜本的な解決策は、未だ十分には普及していないようにも思えます。

こと事業面に目を向けると、かなりナレッジが共有されるようになっている印象があります。「イノベーション」という言葉がビジネスシーンで飛び交うようになって、それなりの年月が経ちました。スタートアップから大企業まで、こぞって新規事業の創出に取り組むようになり、事業創出や推進のためのナレッジもある程度蓄積されてきたように思えます。

一方で、組織面においては、こうしたナレッジが十分に形成・流通していないように思えるのです。

そこで本記事であらためて解説したいのが、「組織デザイン」という営みについて。21世紀のいま、「組織デザイン」は企業が成長・存続していく上で最重要ファクターの一つだと僕は考えています。

なぜいま「組織デザイン」に向き合うべきなのか?
そもそも「組織デザイン」とは何なのか?

僕・ミナベトモミは、文科省認定研究機関として、経営多角化の理論開発・経営層育成・組織コンサルティングを行っているMIMIGURI 代表取締役Co-CEOを務めています。これまでスタートアップからメガベンチャーまで、多くの成長企業の組織コンサルティングを行う中で、組織のあり方にまつわる実践を積み重ねてきました。

本記事ではそんな僕の視点から、「組織デザイン」という世界に足を踏み入れる第一歩として、その意味するところと秘めている可能性を解説します。


組織デザインとは、「分業」と「調整」を設計すること

そもそも、「組織デザイン」とは何でしょうか?

組織デザインについて書かれた数少ない本、かつ刊行から20年近く経ったいまでも全くその価値が衰えない名著である、沼上幹『組織デザイン』では以下のように定義されています。非常に骨太な定義で、僕自身組織コンサルティングを行う中で何度も立ち返っている言葉なので、まずは一語一語味わって読んでみてください。

「組織を設計する」という作業は、分業を設計し、人々の活動が時間的・空間的に調整されたものになるような工夫を施すことであり、そのようにして出来上がった分業と調整手段のパターンが組織デザインである。

沼上幹『組織デザイン』(日本経済新聞出版, 2004),p17

これを僕なりに解釈すると、要するに組織デザインとは、①分業と②調整を設計し、両者を組み合わせながら組織を作っていく方法論なのだと考えています。

休日のキャンプでのカレー作りから会社経営まで、一定数の人数が集まると自然に、効率性や成果を求めて役割分担をするようになりますよね(その余裕すらない、創業直後の数人規模の会社を除きます)。こうした役割分担、組織図で言えば事業部や部門といったボックスを定義することが、「①分業」を設計するということです。

ただ、分業しただけでは不十分です。それぞれの役割の中だけで個別最適化がなされてしまい、組織全体としてはうまくいかないことも珍しくありません。全体として効率的に成果を出していくためには、役割分担した人どうしでの連絡や連動の手段、またやり取りのルールを定めること、すなわち「②調整」の設計もセットで行うことが不可欠なのです。


“阿吽の呼吸”は万能ではない

分業と調整を設計し、両者を組み合わせながら組織を作っていく方法論としての、組織デザイン。これは言い換えると、人数が増えても協力できる仕組みを作る、ということだとも言えます。

少人数の組織であれば、分業や調整を設計せずに、“阿吽の呼吸”で物事を進めることも可能でしょう。

例えば10人〜20人規模の会社なら、何か問題が起きても、全員で車座になって話し合ったり、飲みながらワイワイ話したりすれば事足りるケースが少なくありません。「いま重要なトピックスはこれだよね」とお互いに確認しながら、全員でワチャワチャとボールを持ち合って、阿吽の呼吸で解決していくことは十分可能です。

しかし、例えば組織規模が30人を超えてくると、阿吽の呼吸で物事を進めることは難しくなってきます

そもそも全員で集まって話し合うことの難易度が上がり、経営陣とメンバーの距離も遠くなってくる。すると、自分が何をすべきかがわからなくなり、一つのボールに過剰な人数が関わって身動きが取れなくなってしまったり、お見合いして誰もボールを持たなくなってしまったりといった事態に陥りがちです。

そうしたカオスを脱するために、何らかの取り決めや役割分担を設けることで、集団がゴールに向かって問題に取り組んでいけるようにする営みが、組織デザインなのだと思っています。


必ず生じる、事業と組織の乖離

この組織デザインという営みは、企業が事業成長を目指す以上、必ず必要になるものだと僕は考えています。

事業というものは、成長スピードが非常に速いです。適切に設計され、適切な資源投資が行われれば、数ヶ月から半年くらいの期間で急速に事業が成長することも珍しくありません。そして、事業成長に伴って、組織も拡大せざるを得ないことが大半です。

しかし、成人発達理論のような知見を引くまでもなく、人間の成長というのはもっとゆるやかに進んでいきます。人というのは、数年から数十年かけて、少しずつステップアップしていくものですよね。個々人でさえそうなのですから、人の集まりである組織の成長については尚更です。

結果として、事業の成長速度と、人や組織の成長速度に乖離が生じます。今まで阿吽の呼吸で回っていた組織が、急に規模が倍増して勝手がわからなくなったり、ナレッジが分散してしまったりというのはよく聞く話です。

この乖離は、事業と人、組織のそもそもの性質の違いに起因するので、事業成長を目指す以上、避けられないものだと考えています。だからこそ、事象成長のスピードに振り落とされないよう、組織デザインという営みが不可欠になってくるのです。

もちろん事業計画を立てることで、事前に事業の成長速度を見越すことはある程度可能でしょう。しかし、事業成長というものは予測不能な要因に左右される面が大きく、その機会や速度は非常に読みづらい
例えば、パンデミックに伴うリモートワークの爆発的な普及を、誰が予想し得たでしょうか。また中小企業やスタートアップであれば、事業が伸び悩んでいるタイミングで、急に大企業からのアライアンス提案や大型受注が起こることもあるでしょう。

そうした予期せぬタイミングはどんな企業でも遭遇し得ますし、現状の人や組織のポテンシャルやケイパビリティとの乖離を前提にあえてチャレンジすることは、飛躍的な事業成長のためには時に必要になります。それゆえ、そうした突発的な事業機会が生じた際に、組織崩壊に至らないよう、都度都度分業と調整を設計する組織デザインが求められるのです。

必然的に生じる事業と組織の乖離を埋め、両者がコラボレーティブにともに成長していくために、組織デザインはきわめて重要なのです。


「効率化」と「再現性」だけを追い求めるのでは不十分

ここまで読んで、「要するに組織デザインって、事業が拡大しても組織の生産性を落とさないために、効率化したり再現性を高めたりするってこと?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん、組織デザインが、そうした「守り」の役割を担っていることは事実でしょう。実際、「経営管理」という概念の祖と言われる実業家アンリ・ファヨール(1841-1925)の管理過程論、そしてかの有名なピーター・ドラッカー(1909-2005)のマネジメント理論まで、経営学においては「効率化」「再現性を高めること」が重んじられてきました。

しかし、僕は組織デザインの意義は、それだけではないと考えています。事業成長に「追いつく」ためだけでなく、非連続的な事業成長を「生み出す」ためにも組織デザインは重要な役割を果たすものなのです。これは、組織デザインには「守り」のみならず「攻め」の側面もある、とも言い換えられるでしょう。

むしろ、効率化や再現性だけを追い求めるものと勘違いして組織デザインを行うと、余白がなくなり、人の成長や新規事業の創出が立ちゆかなくなってしまいます

例えば大企業によく見られるように、業務オペレーションから数十年スパンのキャリアラダーまで、ガチガチに定義してしまうケースを想定しましょう。これはたしかに、効率性や再現性の追究という観点では良い打ち手かもしれません。しかし、事業としては急速な外部環境の変化への対応力が弱まってしまったり、個々人の意思決定や試行錯誤の余地が少なくなって人の成長が鈍化してしまったりして、長期的な優位性を失うことにつながるリスクもはらんでいます。

ですから、効率性や再現性を求めつつも、事業や人の非連続的な成長を可能にする余白も求める──その塩梅をいかにして設計するのかこそ重要で、組織デザインの奥深さなのです。僕がMIMIGURIで組織コンサルティングを行っているのは、突き詰めればこの探究が底なしに面白いから、と言えるかもしれません。

その意味で、組織デザインは「両利きの経営」の実現に寄与するものでもあります。

両利きの経営とは、イノベーションのジレンマを乗り越えるためのカギとして、昨今注目を集めている経営理論。“両利き”という名の通り、既存事業を持続的に深めていく「知の深化(Exploitation)」だけでなく、実験と学習を繰り返して新規事業を開拓する「知の探索(Exploration)」の両輪を同時に回していくことで、継続的なイノベーションとサバイバルを実現していく考え方です。

この「知の深化」と「知の探索」の両立という考え方はまさに、上述した「効率性や再現性」と「余白」の両立、という組織デザインの要諦に直結するといえるでしょう。


現代企業にこそ、組織デザインを

さて、ここまで組織デザインの意味するところと重要性について解説してきましたが、最後に「今こそ組織デザインに向き合うべきタイミングである」という点を強調して締めくくりたいと思います。

21世紀の企業社会において、企業が向き合うべき課題は数多くありますが、僕が特にクリティカルだと思っているのが「事業多角化」と「人材多様性」です。

「事業多角化」とは、複数の事業を編み合わせる中で、企業体としての価値を生み出していく事業戦略のこと。言葉や概念そのものは昔からあるものだと思いますが、「VUCA」とも呼ばれるように外部環境の変化が激しい現在、単一事業で戦っていくことは非常にリスクが高い。そのため21世紀においては、事業多角化が不可欠な戦略になっていると思います。

そして多角的な事業が生み出される土壌は、似たような人ばかりで構成される同質的な組織では醸成されません。企業の中にいる多様な人々を尊重し、時には生涯学習やキャリア学習、リカレント教育などの支援までしながら育てていく──事業多角化の実現は、「人材多様性」の担保と車の両輪なのです。

つまり、「複数の事業を組み合わせながら価値にしていくこと」と「構成する人々の多様性を育んでいくこと」、両者をジョイントさせながら企業体を作り上げていく必要があるというのが、現代企業が直面しているテーマなのです。それぞれの問い単体でも難易度が高いのに、両者を掛け算した上で組織を作っていかなければならないというわけです。

だからこそ僕は、科学的に解明されている研究知と、事業現場の中で得た実践知を編み合わせながら、組織デザインの知見を形式化・ナレッジ化していくことが重要だと考えているのです。

本記事を皮切りに、このnoteや、MIMIGURIが運営するオンライン学習プログラム「CULTIBASE Lab」、オンライン対話型学習プログラム「CULTIBASE School」にて、組織デザインにまつわる知見をたくさん蓄積・発信していきますので、ぜひチェックいただけると嬉しいです。


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