私的ベスト・ミュージック10枚(2021年12月編) by 高橋アフィ

 年間ベストに最も入りづらい月こと12月の新譜です。2022年の年間ベストに入れて良いと思ってもどうしても忘れてしまいますよね。

Forfolks / Jeff Parker

 Jeff Parkerのギターソロ作。時期が違えば年間ベストに多数入っていた気もします。インタビューを見ると「オーヴァーダビングは一切していない。ライヴ・パフォーマンスをそのまま記録した」とのことで、やたら弾いているニュアンスが生々しい=音楽的なアルバムです。「爪弾くように鳴っている様が音楽そのもの」みたいな作品で、Jeff Parkerの良さが出ているという意味では過去一番わかりやすいと言えばわかりやすいかも。
 かつ、ジャンル何なのかがいつも以上に全然わからないのが面白く、シンプルな編成(というかギターのみの音楽)なのに聴いたことがない、そして同時に親しみのあるのが本当に凄いです。何かわかりやすくトリッキーなことをしているわけでもないんですが、だからこそ凄みが出ているというか。

Prayer For Peace / Zeitgeist Freedom Energy Exchange

 30/70 CollectiveのドラマーでもあるZiggy Zeitgeistのリーダーユニットの新作。今まではオーストラリアでの制作でしたが、本作はベルリンでのレコーディングかつメンバーも一新。またスタジオはJazzanovaのスタジオとのことです。
 オーストラリアのジャズ的なサイケなジャム感(≒ローファイ感)は減り、代わりに直球にクラブ系に近づいた印象です。サイケ感が減ると同時にスピリチュアル感が増えており、ここはトレードオフ的なものなのか、それとも同ベクトルだから補ったということなのか。
 生音だから出来るダンスビートがあるよねという内容でした。適度に遅めの4つ打ちなんてまさに。個人的にはもう少しクロスオーバー/フュージョン感出して欲しい気持ちありつつ、これはこれで。

Tales from the Old Dominion / DJ HARRISON

 Butcher Brownの鍵盤奏者DJ HARRISONのソロ作。今回はStones Throwからのリリースです。ビート作かと思いきや歌を中心とした曲が多く、過去作『Slyish』と繋がるようなファンク/R&Bものとも言えます。今までの特徴であった過剰なローファイが減ったんですが(それでもローファイではあるけれど)、それでも全く作品性が損なわれない、むしろスムースさがより出て良い、というのがDJ HARRISONの今の実力という気がします。
 ビート作ではないんですが、ビート作的にさらりと聞くのが良さそうなアルバムではあり、この軽やかさがButcher Brownとも通ずる良さですね。滑らかな良さというか、圧を出さないカッコよさというか?

Beat Tape II / Benny Sings

 こういうBenny Singsが好きです。ビートテープということでいつもよりラフな作風、というかヒップホップ感強いBenny Sings。
 COla BoyyやMockyやOddisee、Rae Khalil、The Koreatown Oddityなど多数のfeat.がアルバムの風通しを良くしています。いつもは「シンプルな良さ」という印象になりがちなアレンジも(それはそれで良いんだけど)、ヒップホップ的なローファイさで音が太い良さになっていて、過去一バランス良い気がします。

Rap? / Tierra Whack

 自身のプロジェクトのリリースとしては2018年のデビューアルバム『WhackWorld』以来、Tierra Whackの久々のEP。このあと『Pop?』『R&B?』と続いています。
 カムバック感を出さない、粗挽き感がよかったです。シンプルなトラックにラップが乗る、以上!みたいな。

Dopamin Känner Jag Direkt / JoFes SkillzMen

 最近滅茶苦茶音源リリースしているJoFes SkillzMen、その中から狂気度高めのEP。「トラックにラップが乗る」を超えてもう全部バラバラ、何聴いているんだろうと思わせてくれる事故空間が最高です。
 トラックの尖り具合はやはり注目したく、なんだかわからない超短いループを作り出す才能は本当に凄いと思います。1曲の中で繰り返させているはずなのに全然覚えられないアブストラクトさ。そんな中、タイトル曲だけ真っ当なレゲエなんですが、そうなると歌の不安定さが目立ってどちらにせよ不穏というのは天才的です。
 2022年に入ってからすでに2枚EP出しており、今年も要チェックですね。

Butterfly Don't Visit Caterpillar / Matt Martians

 The InternetのMatt Martians、2021年ソロアルバム第二弾(EP含めると3作目)。全体的にヘルシーではない雰囲気で妙な不穏さはあるんですが、とりあえず曲はカッコ良いです。ビートテープっぽくしそうな雰囲気なんですが、全部に歌を乗せているのが面白いですね。ちゃんと歌う曲として仕上げる、かといってトラックは歌いやすそうという感じではない、そのバランスがカッコ良いです。

Calm On / Nomok

 Raw Tapes周辺で活躍する鍵盤奏者Nomokのソロ作。Nitai Hershkovits、Rejoicer、Jenny Penkinなどが参加。
 ジャズ出身のプレイヤー(兼プロデューサー)が多いRaw Tapesのアーティストの中、珍しいほどシンセ寄りのタイプで、音色とフレーズで丹念に聴かせていく作風が良いです。違う言い方をすると歌心がある。
 アンビエント系でさらりと聴いて欲しい感じの浮遊感あるんですが、メロをはっきりと弾いていて、それが邪魔になっていないのが良いですね。ニューエイジ的な感性と一番近い気もします。

Damn the Flood / Adrian Knight

 bcでのリリースは10月なんですが、配信が12月だったので…!オレゴンのアーティストAdrian Knightのアンビエント作。6人編成での演奏です。
 ヴィブラフォンとシンセの重なりの上で楽器が出たり入ったりみたいな演奏で、時間がひたすらゆっくりしているのが良いです。人数が多いからこそ(?)な静的なアンサンブルで、それぞれが大きなフレーズ(というかドローン)を適度に重ねていくからこその超ミニマルな空間。一生終わらないんじゃないか、みたいな感覚バクるのが良いですね。

New Standards / Kenny G

  Kenny Gの新作。バラード特化作となっており、もはやアンビエントと言ってもいいんじゃないか、ねっとりと歌い上げるサックスが良いです。
 (多分狙ってはいないけれど)新しい音楽にはなっており、薄口で楽しむニューエイジを煮詰めたような、よくわからない次元に到達しているのが面白いです。サイケもチルもぶっ飛ばしてラグジュアリーに突き進む異形感というか。ジャズに分類していいものかは難しいところではあるんですが、それだけ独自の音楽を(結果的に)貫いて行っているのは、どこかで上手く説明できたらなと思っています。

お知らせ

インタビューされました。まさかのForever Luckyについて!Soudmain、imdkmさんありがとうございました!

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