私的ベスト・ミュージック10枚(2021年10月編) by 高橋アフィ

Talk Memory / BADBADNOTGOOD

 BADBADNOTGOODの新作。前作から5年の間隔があり、メンバーからキーボードMatthew Tavaresが抜け3人組になっています。
 即興的な演奏の荒々しさと音源としての完成度を両立した傑作ではないでしょうか。「高度な演奏技術で実現した」というよりも、前のめりに倒れ込む名ライブテイクのような、熱量高過ぎて崩壊一歩手前まで進むヒリヒリしたエネルギーが感じられて素晴らしいです。そこにArthur Verocaiのストリングスが加わることで、即興的なようでもあり、端正に作られたようでもある独特な質感になっているかと思います。
 録音のエピソードなど読んで、勝手に基本軸は一発録音のような形を想像していたんですが、クレジットを見るとライブサポートのキーボードは参加してない模様。ライブっぽいし、インタープレイもあるんだけど、意外に決まっている…?もうちょっと聴き込まなければ。
 そして素晴らしいのは音の良さですね!BBNGは毎回音が良い印象なんですが、今回のラッセル・エレヴァードの起用は、アルバム作品性とも相まって素晴らしいです。ラッセル・エレヴァードのイメージとしては、それこそ『Voodoo』などを想定する「録音のマジックを知っているエンジニア」という印象でした。どろっとした演奏の瞬間を捉える録音というか。その天才的な録音の感覚を逆に「演奏の魅力を音源で再現できる」→「ライブ的な熱量を捉えるエンジニア」として目を付けたのも面白いなと思いました。
 カバーを演奏していた初期BBNGのエネルギーを音源にまとめあげたような印象もあって、感慨深さもありますね…!

Kosmos / The World

 今年はベーシストPetter Eldhではないでしょうか!Fabian Kallerdahl、Anton Ege、Petter Eldhによるスウェーデンのトリオの11年振りの新作。ゲストにOtis Sandsjöが参加。
 ビートミュージックを生演奏化したら一層バグっちゃった系であり、エレクトロな方向を目指しているようで全然違う方向に全力疾走してくような作風がカッコ良いです。前作も聴いてみたところ、そこでは割とスタンダードな「エレクトロのニュアンスを入れたジャズ」をやっていたので、本作の攻めっぷりが欧州シーンとして独自に発展していった11年間の成果な気がします。
 ビートが強めにも関わらず絶妙にダンスミュージック的に聴かせないバランス、かと言って頭でっかちというわけではなく低音もしっかり聴かせるし音響はダンスミュージック感ある、のが面白いです。グルーヴ系に進んでいったジャズがある一方、グルーヴ系のニュアンスを取り入れながら作曲の複雑さは残したジャズというか?プログレッシブな側面がポップになったとも言えるし、リズムはノレるのに細かくえぐみが溢れているとも。アンサンブルの良さと作り込みの良さを共に取り入れた欲張り感が最高ですね。

One Theme & Subsequent Improvisation / Sam Wilkes

 Sam Gendelとの共作も2021年7月に出したSam Wilkes、約3年ぶりのソロAL。ベーシストとしてはKNOWERなどに参加するファンク系な印象なんですが、Sam Gendelの共作と同じくソロ名義ではベースを使ったアンビエント/エキスペリメンタル作になっています。
 ツインドラム、ツインキーボにベースというのが基本編成で、ドラムにGreg Paul、キーボにJacob Mannなどが参加。ビートが入りながら雰囲気はアンビエントのは従来の路線からの延長ではありますが、今までの激ローファイ方向から少し変わった気がします(とはいえハイファイではないけれど)。ツインドラムなのにチルというのが面白く、ガシャガシャと鳴るシンバルの響きの陶酔感が素晴らしいです。ここらへんは影の主役Carlos Niñoの影響かと思います。
 曲単位で聴くよりはアルバムで通して聴くのが良さそうで、テーマが浮かび上がっては溶けていく感じが気持ち良いです。

Less Thinking More Dancing / Bentley & Horatio Luna

 シドニーのドラマーBentleyと元30/70 collectiveのベーシストHoratio Lunaのコラボ作。キーボードにDaniel Plinerが参加したトリオ編成での演奏です。
 渋めグルーヴ系ジャムセッションという感じで、オーストラリアのジャズシーンらしい、クラブミュージックだけどエレクトロ感というよりは生音重視な雰囲気がカッコ良いです。盛り上げ過ぎず、盛り下げ過ぎず、かといってだらっとせず、程よいテンションで続けられるのが彼らの凄さで、良い意味で会話しながら聴きたい余裕がカッコよさだと思います。

Intra​-​I / Theon Cross

 チューバ奏者Theon Crossの2年振りの新作。前作はMoses Boydが全面的に参加し生音アフロ系という感じでしたが、今回はエレクトロなリズムが中心です。
 正直聴きはじめは、リズムがプリセット感ある音色に聞こえたこともあってエレクトロとチューバの相性が謎だったんですが、何度か聴くうちに納得しました。なんというか、グライムもUKエレクトロも「シンプルな音の方が悪くて強い」概念ある気がするんですよね。デジタルのキラッとしている音へのハードさというか?個人的にはサンプラー通っているような太い音の方が良いと思うんですが、この作品はあえて素朴な音色を爆音で鳴らす感じがしています。
 そう思うとこのチープにも聞こえたエレクトロがしっくりきて、Theon Crossとしての最もハードなアルバムになっているような気がしました。ジャズ的な「音の良さ」は入っていない、完全にクラブミュージックのハードコアさで作られたアルバムであり、だからこそベースラインが力強く鳴っています。

Tread / Ross From Friends

 アーティストとしてのキャリアの充実、あるいはパンデミック禍の影響出るかなと思っていたRoss From Friendsの新譜ですが、前作以上に完全にフロアのための音楽で最高です。匿名的というか、あくまで主役は踊っている人だし、箱だという思いを(勝手に)感じました。
 一つ『Family Portrait』からの大きな違いとしては、「A Brand New Start」や「Morning Sun In A Dusty Room」のような楽曲が入っているところかと。アルバムがDJプレイのような緩急ついているんですよね。クラブミュージックとしての強さと、アルバムとしての作品性を上手く両立させていて良かったです。

zero / cktrl

 ロンドン拠点のマルチインストゥルメンタリストcktrl。管楽器奏者ですが、UKジャズというよりはDuval TImothyなどエクスペリメンタル/レフトフィールドで活躍しているアーティストです。約1年振りのEP。
 Carlos NiñoやSam GendelなどのLAシーンとは別の形で、即興/実験音楽からアンビエント的とも言える音色を探究している気がしています。今回はボーカル曲は中心でR&Bやソウルよりの曲なんですが、だからこそ浮遊感と哀愁を帯びた音色の素晴らしさが光っていました。

In Spring / Tara Clerkin Trio

 昨年リリースのデビュー作が各所で話題となったTara Clerkin Trioの新作。音としては滅茶苦茶アヴァンギャルドなのに不思議とポップにも聴こえる作風が天才的で、不穏で呪術的なループがカッコ良いです。絶妙に解析し辛い魅力が面白く、ついつい何度も聴いてしまいます。

Prolonged And Sustained / Lord Tang

 エクスペリメンタル・ロック・バンドEvangelistaメンバーLord TangのEP。ゴリゴリのエクスペリメンタルなはずなんですが、どこか可愛らしい雰囲気が良く結構聴いています。こういう実験的な作品を音響的な側面を軸として、ざっくり言えば「チルで気持ち良い」とか、普通に聞けるようになったのが最近なのかなと思っていますが、どうでしょうか?
 RemixにDisruptの別名義Zonedogが参加。

Colourgrade / Tirzah

 という流れの、実験性を音響的な側面を軸としてポップに聴く、わかりやすい例としてTirzahの2018年の作品『Devotion』が挙げられていると思います。実験精神とポップさが問題なく足並みを揃えたというか。そこから見るとTara Clerkin Trioも少しわかりやすくなるはず。
 そこから3年、Tirzahはどうなったかというと、ele-kingのレビューで野田努さんが言っている感想がまさにでした(以下引用)。

 それでまあ、数ヶ月前に先行リリースされた“Tectonic”を聴いたわけだが、これが正直なところぼくには最初ぴんと来なかった。『Devotion』とはずいぶんかけ離れているというか、ミニマル・ビートと語りに近い彼女のヴォーカルとのコンビネーションによる“Tectonic”は、前作がロマンティックな夜風ならこちらはマンホール下の艶めかしい廃棄物ように思われたのだ。身勝手な話だと思うが、それはぼくが彼女の音楽に望んでいたものではななかった。

 わかるー!あれ?前作のポップと実験音楽のギリギリの狭間を縫っていくような、かつそれが高次元で別の音楽になるような作風はどこに…?正直かなり戸惑いつつ、ついに『Colourgrade』を聴きました。
 結論としては、ここも引用してしまいますが、「自分の感性がティルザ&ミカチューの冒険心についていけなかっただけのことだった」のがわかる激名作です。
 ライブ動画を観てもらうのが一番良いので、是非ともまずは観てください。個人的には、音が鳴る瞬間の根源的な魔力を捉えている印象で、声が響く瞬間の凄さとかもっと単純にスピーカーから音が出る感動とかが凄まじい純度で結晶化しているように感じました。滅茶苦茶でかいケーブルノイズ(多分)の音が笑っちゃうくらい感動的です。
 シングルの時点だとわからないと思ったのに、アルバム聞いたら良いと思わせるのも凄いですよね…。確実に最前線です。


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