私的ベスト・ミュージック10枚(2022年3月編) by 高橋アフィ

Koma West / Koma Saxo with Sofia Jernberg

 Petter Eldh率いる3管+ベース+ドラムのKoma SaxoにボーカリストSofia Jernbergが参加したアルバム。Sofia Jernbergはエクスペリメンタル/即興演奏シーンで活躍していることもあり、いわゆるボーカリストコラボものみたいなバランスになっておらず、新たな単旋律の楽器が追加されたようなアンサンブルになっています。
 今までは、時には管楽器の音が重なり時には旋律が複数化する、コードレス編成を活かした演奏が中心だったのですが、今回はKit Downesなどのゲストも多数参加、さらにPetter Eldhはサンプラーを使用し、5人編成縛られない豪華な音像に。しかし根幹の音楽性はむしろ変わっておらず、即興演奏/フリージャズ由来のソリッドで乾いた音色/リズムの魅力が、現代のビート/クラブミュージック的な観点でリアルタイムで編集されているような演奏が素晴らしかったです。

Stand Strong / Reginald Omas Mamode IV

 ロンドンのビートメイカー/シンガーReginald Omas Mamode IVの4th AL。ハウス的な快楽性に進んでいた過去作から、ビートダウンの先鋭性を再び取り戻しにきたかのような、重心を極限まで下げたミニマルでドロドロなグルーヴ感が素晴らしかったです。
 ドラムの音色がどの曲もカッコ良く、そういえばビートダウン←ネオソウルってまた一つのローファイ文脈でもあるよなと思い出しました。解像度の低い方のローファイではなく、ノイズごと取り出してしまう方のローファイで、打楽器の普通だったら削る部分というか、部屋の鳴りが入ってしまう感じというか……、なんか今だと回り回ってハイファイにも思えますね。整理ついていない感じがローファイ性です。
 音色のフェチズムに特化した音像で、だからこそのミニマルなんですよね。ギターを入れたらかき消えるような響きを活かすための楽曲というか。

Getaway / orion sun

 フィラデルフィアのシンガーorion sun。こちらもノイジーな方のローファイですね。チル/アンビエント的な方面から宅録的/内省的な世界観に進んだR&Bという感じで良かったです。

10 Miles to Tilden / Moon Mullins

 ニューヨークで活動するマルチ奏者Sean MullinsによるソロプロジェクトMoon Mullins。チルアウト/エキゾチカ/アンビエント/ムード音楽/ラウンジ/イージーリスニングという感じで、現行のチル感覚と音楽ディガーっぷりが融合しているのが良いですね。そういう意味ではThe Sweet Enoughsとかも近い気がします。
 ムード音楽のサイケデリックな音楽として捉え直すという感じではあるんですが、音圧感やローファイさなど、良い意味で当時では(多分)ありえない音になっているのが面白いですね。更新する感覚というより「ありえたかもしれない過去」という方向で、「エキゾチカ」的なサイケ感を獲得しているようにも思えます。
 ここらへん、昔のソウルに近づけることで現行的な響きを獲得するインディーズソウルとも近いと言えるし、(シティポップではなく?)エディットした上で楽しむvaporwaveとかとも近い気がするんですが、まだ全然考えまとまっていない。

Over Fields And Mountains / Branko Mataja

 と、書いておきながら全然凄い音源あるんだなというBranko Matajaのリイシュー版。ユーゴスラビア出身で北米を拠点に活躍したエレキギター奏者で、1973年作と個人的に来客に配られたとされる80年半ばの作品という2枚のアルバムからの楽曲が収録されています。
 ナチュラルサイケという感じで、えぐいけれど全体像はまろやかな感じが良かったです。エフェクトも強いけれど、多分元の演奏も十二分に凄く、そのバランスがナチュラルさに聞こえるんですかね?弦楽器のキラキラ感が気持ち良いです。

House of Arches / Amir Bresler

 Raw Tapes作で多く活躍するドラマー(Buttering Trioの新譜にも参加していますね)Amir Breslerのソロ作。機械と人力の間みたいなドラムを志向しているように思えた前作に対し、今回はハネ感など基本的には生々しいグルーヴを重視しつつ、だからこそAmir Breslerの非人間的なほどの精密で繊細な音使いが活きたアルバムになっています。
 アフロビートのミニマルな気持ちよさを色々な音楽にあてはめていくような演奏が面白く、Rejoicer参加曲のサイケジャズロックになりそうでならない感じとかキャラクターが出ていて良かったです。
 ASMR的な音色の気持ちよさでも永遠聴けますね。

Nuke Watch / Nuke Watch

 実験的エレクトロユニットNuke Watchの新作。現在はBeat Detectivesと同じ2人っぽい?
 音をみんなで自由に鳴らしています、という感じが良かったです。無理やり解説すると、レイヤーが複数ある印象で、そのバラバラな場所の感覚が揃ったときの気持ちよさを目指しているみたいなやり方?自由奔放でありつつも、自由奔放であるために演奏側としてかなり気を遣うタイプのようにも聞こえて、だらだらに見えて実は刻々と変化しているところが音楽としての強度につながっている印象です。
 何度聞いても全貌が掴みきれないのが良く愛聴しているんですが、情報もあまり無いので書けることもあまりない。

The Age of Aquarius / YĪN YĪN

 オランダの"Maybe somewhere between Netherlands and South-East Asia, on an imaginary tropical island."なバンド。Khruangbin的な雰囲気もあるんですが、もうちょっとイタロ・ディスコ入っているというか、イケイケでいなたい極彩色感がカッコ良いです。
 フェスで観たいバンド感ありつつ、同時にDJユースなリズムの硬質さがあるのが面白いですね。Altin Gunも最近そんな感じで、ここがライブ需要の変化なのか、ストリーミングなどなど幅広い場で聞けるようにするためなのかは気になるところです。

Tinted Shades / Fatima & Joe Armon-Jones

 シンガーのFatimaとEzra Collectiveの鍵盤奏者Joe Armon-Jonesのコラボ作。楽器はシンベなど含めて基本Joe Armon-Jonesが担当、他にblack midiのドラマーのMorgan Simpson、UKジャズの中心的ドラマーのMoses Boydが参加しています。
 なんとなく今まではグラスパー的R&BのUK解釈か、硬質なUKソウルという印象が多かったんですが、本作はゴリゴリのUKジャズに力技でボーカルを乗せた印象。ずっと鍵盤がソロみたいなんですよね。良い意味でR&B感の薄さが良かったです。
 今回3曲入りなんですが、続編作る予定あるんでしょうか。AL作って欲しい。

Satanic Slumber Party / Tropical Fuck Storm + King Gizzard & The Lizard Wizard

 オーストラリアの2大サイケバンドのコラボEP。パワーで起きた問題をパワーで解決していく、圧倒的な強さが最高でした。
 ジャンルとしてはかなり煮詰まっている方のサイケなはずなんですが、不思議なほどポップな響きなのが面白いですね。ここもパワフルというシンプルな強さゆえかもしれません。


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