私的ベスト・ミュージック10枚(2021年8月編) by 高橋アフィ

O​.​T​.​S. / Lionmilk Quartet

 The Breathing EffectやGeorgia Anne Muldrowのライブメンバーであり、ソロでも活動する(Mndsgnとの共作『FOREVER IN YOUR SUN』も名作ですね)鍵盤奏者Lionmilk、ツインキーボのカルテット編成ライブ音源。ソロ名義ではビートメイカー的な音源が多かったので、(もしかしたら)初のジャズサイドの演奏です。
 即興的なアンサンブルにジャズの素養を感じつつ、ツインキーボの混ざり具合や平然とカオスにも進んでいく演奏などサイケ感も強く、ジャズ箱というよりはクラブで観たい感じでした。ライブ録音の生々しさそのものなローファイな音質も演奏にぴったりで素晴らしい!
 現代ジャズ的な文脈でも面白いんですが、むしろ最近のStones Throwなどのヒップホップ×チル〜サイケの感覚をバンド化していると思うとより楽しいかもしれません。

hinged / maarja nuut

 エストニア出身のヴァイオリン奏者/シンガー。エレクトロ×フォークロアという感じで、音楽性としてはビョークとかの系譜とも言えるかも?しかしアンビエント/チル的な感覚の入り方が素晴らしく、クラブミュージックだけれど無理に踊らせないというか、より正確に言えば「フォークロアのリズムの感覚を残したままエレクトロになっている」カッコ良さがありました。例えば4つ打ちにして切り刻んじゃう荒さが無い。
 リズムが入ってもエモくならない良さですね。いつ聞いてもしっくりくる良さがありました。

Amethyst: New Sounds from Moon Glyph Records / V.A.

 ポートランドのレーベルMoon Glyph Recordsのコンピレーション。アンビエントと即興の間を進む実験音楽。別の言い方をするとリズムが入っていてもいなくてもサイケデリックでチル。ここから面白いアーティスト沢山知れたのも良かったです。
 多分レーベルとしてはエクスペリメンタル系なはずなんですが、現代だと肉体的に楽しめるというか「気持ち良い音楽」として聴けてしまうのが面白かったです(かつレーベルもその聴き方もOKな印象)。カセットテープでもリリースしているようで、モノが欲しいですね。

When There's Love Around / Kiefer

 バンド化したKiefer新作。フュージョン/スムースジャズの一歩手前まで近づきつつ、軽やかにチルで飛び去る音楽性が素晴らしかったです。ビートメイカー的な過去作に比べ、バンドゆえの音の柔らかさ/ノリのまろやかさがあり、それが複雑になった曲と相性抜群でした。生演奏良いなと思える音源で最高ですね。
 とはいえ以前バンド化した雰囲気よりかなりKieferのビートメイカー的な音像と近いとも言えて、彼の世界観を見事に再現出来るメンバーが揃った素晴らしでもあります。ライブ動画を見るとJacob Mannとのツインキーボのようで、エレピとシンセで音を溶かし合う感覚が蕩けるようなサウンドになっています。

still slipping vol. 1 / Joy Orbison

 Joy Orbisonの初の長編作でありミックステープ。様々な曲調が入った作品=ミックステープとのことで、曲調はハウスからガレージやダブステップ、トラップなどなど様々なんですが、それが不思議と統一感あって良かったです。むしろジャンルを縛った作品以上にパーソナルな側面を見ている感覚。
 アルバム(ではないんですが)としての作品性を感じさせるし、徐々に変わっていくビートが飽きさせない作品にもなっています。あえて通常のアルバムと違うところと言えば、一部分を通して作品全体を説明する≒「代表曲としてのシングル曲」という概念ではまとまらないところですかね。全体通して聞いて欲しいと強く思える作品でした。

Cryptozoo: Original Motion Picture Soundtrack / John Carroll Kirby 

 アンビエントアーティストかと思ったら、今年6月にビート強いアルバム『Septet』出して驚いたJohn Carroll Kirbyですが、今度はサントラでアルバムリリースです。こちらはアンビエントでもビートでも無く、あえていうならニューエイジ〜映画音楽的な情景描写の強い音楽になっています。
 メロディセンスが素晴らしく、ギリギリダサい/ダサくないの難しいラインの真上を狙っている感じがします。その危うさとコッテリ感、そしてそういう考えを無効化していく音色の気持ち良さで、ついつい何度も聴いてしまいました。エフェクティブではないけれどサイケデリックで、どこか変に思わせる楽器の使い方が滅茶苦茶上手いですね。

Repair Techniques / Sofie Birch & Johan Carøe

 アンビエントな作風のアーティストSofie Birchと、映画音楽家やプロデューサーとして活動するJohan Carøeのコラボ作。
 Sofie Birchはフィールドレコーディング素材の使い方が上手い印象で、どちらかと言えば空間と溶け合うような音の印象でした。が、このアルバムでは、多分Johan Carøeの作風だと思うんですが、エレクトロのエッジーな部分が出まくっており、ドライな音がそのまま鳴る面白さが良かったです。あえていうならOPN的とも言えるハイファイだけど箱庭っぽい世界観というか。アンビエント系な音像なのにメロディをはっきりと弾いていく、かつ邪魔にならないのが不思議なバランスでした。

Feelings Remixes / Brijean

 Sam GendelのRemixがあまりに良過ぎました…!ずっと地面に足がつかない浮遊感の気持ち良さと気持ち悪さ!
 BuscabullaのRemixも好きです。

HAVEN / OMSB

 滅茶苦茶良かった。

Mattering and Meaning / Dan Nicholls

 Y-OTISやスクエアプッシャーに参加しているロンドン拠点の鍵盤奏者。アコースティックピアノにエフェクトをかけまくったアンビエント作。
 アンビエントと言いつつ全体的にローファイな音響が面白く、ニューエイジやポストクラシカルに行かないようにしているような?ここはエレクトロな感覚ゆえなのか、ピアノの音を拡張していく流れで考えているのか、どういう意味なのか気になるところです。


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