私的ベスト・ミュージック10枚(2021年11月編) by 高橋アフィ

Intimidated / KAYTRANADA

 KAYTRANADAによるH.E.R.、Thundercat、Mach-Hommyを招いたEP。いつも通りのKAYTRANADAとも言えるんですが、圧倒的なトラックの完成度が素晴らしかったです。音の強さやポップさは確保しつつ、どことなくアンダーグラウンド感というか、ストイックな印象も与える印象なのが凄いしずるい。

 Mach-Hommy参加曲の「$payforhaiti」、ラップとハウスの関係としてKAYTRANADAの独自性が出ているかと思います。Goldlink「Meditation」時も思ったのですが、ヒップハウスの文脈に乗っからない、「強いビート×ラップ」ではなく「ラップを引き立たせるビート」というか、ラップトラックとしてのハウスを探求している感じが面白いですね。

An Evening With Silk Sonic / Silk Sonic

 Bruno MarsとAnderson .Paakと強過ぎSIlk SonicのデビューAL。大型コラボゆえの企画ものっぽいノリになるかと思いきや、どんどん作品作って欲しい最高のユニットでした。
 DOMi & JD Beckが作曲で参加しているんですが(「Skate」)、楽器は演奏していないようで、どういう感じで参加したんですかね。「ネタ出しセッションに参加した」みたいなことでクレジットされているのだとしたら、この方式もっと広まって欲しいと思いました(実際わからないところですが)。
 ヴィンテージ感と現代的なローファイさの混ぜ方が上手く、この音作りはAnderson .Paakシグネイチャーという感じがします。こだわりまくってネタ感すらあるけれど、本人たちは超真面目でリスペクトの気持ちが溢れている、というバランスがものすごく絶妙。Daft Pankでさえ行けなかった(行かなかった)直球感あるんですよね。この感覚もAnderson .Paakの強みの気がします。陽キャ感というか、ポジティブに好きと思っている(いそうな)強さというか。Bootsy Collinsの参加含めて、どこからも文句を言わせない完璧さがすごかったです。

Deciphering the Message / Makaya McCraven

 Makaya McCravenによるブルーノートの名曲名テイクのリミックス/リワーク作。
 質感がちょっと今っぽくないのが面白かったです。現代風にアップデートしたというよりは、(多分)サンプリング元の質感にギリギリ合わせたゆえのちょっといなため、というか90sな(?)音像というか。どこまでが追加演奏かわからない曖昧さもそうですが、この音の感じが妙な白昼夢感出している気もしました。

6 Visits / Apifera

 RejoicerやNitai Hershkovitsが参加するApiferaの新EP。RejoicerもNitai Hershkovitsも同じ月にソロのフルアルバムリリースしており、そもそもApiferaも既にアルバムリリースしていたし、どういう制作ペースなんでしょうか。
 説明見るとデビューAL『Overstand』の関連セッションっぽいです。フレーズが絡み合うことで曲が浮かび上がってくる演奏が気持ち良い。そのフレーズの一つとして聴こえるAmir Breslerのドラムが素晴らしく、シンセの浮遊感に負けない軽やかさが凄いですね。ビートはしっかり刻んでいるものの、ダンスミュージック的な文脈のドラムとはまた違った、音色と質感と聴かせる雰囲気がカッコ良いです。

Imajin / Imajin

 Nitai Hershkovitsの新プロジェクトImajinのデビューAL。Raw Tapesからのリリースです。
 オーガニックサウンド(ピアノ、クラリネット、パーカッション)とエレクトリックサウンド(シンセ、ドラムプログラミング)のミックスがテーマのようで、多分これはNitai Herchkovitsがこのインタビューで言っていた「ノン・ピアニスト」の話の延長線上の気がします。ジャズピアニストである身体性に対し、プレイヤー的なニュアンスとは離れた演奏とどう向き合うか。
 良い意味でこのぶつかりが見えないのが本作の良さで、メロディの良さとチルアウトな感覚で見事融合しています。卓越した演奏技術が技巧的な方ではなく、エレクトリックなビートの空間/余白を生むことになっているのも面白いです。

Live at New Forms / Asa Tone

 ジャカルタ出身のMelati Malayと、NY拠点のTristan ArpとKaaziによるプロジェクトAsa Tone。本作はバンクーバーの『New Forms Festival』のための作品で、コロナ禍で封鎖・隔離状況にある中製作された。バンドキャンプの説明によると、制作は「曲」の代わりにリアルタイムに生成されるループとフィールド・レコーディングのプールを個別に録音。Zoomを介してノンストップ30分の作品を構築・完成させたという。
 ミニマルなアンビエント作になるかと思いきや意外なほどビートが強く、チルでは終わらせない展開がカッコ良いです。アルペジエーター/スライサー的なリズムの反復に対し、気持ち良い音を重ねるのみではなく、アグレッシブな音を加えていきそれにより曲の世界観が展開していくのが面白いですね。
 アンビエント/ニューエイジのある種予定調和な方向から、どんどん踏み出していく音楽性が魅力でした。アルバム通して1曲という感じなので、通しで聞くのがおすすめです。

Meditations / GODTET

 マルチ奏者 / プロデューサーGodriguezが中心となって結成されたオーストラリアのバンドGODTETの新作。演奏の中に様々な民族音楽のサンプリングを混ぜるのが特徴的な、Hiatus Kaiyoteや30/70のコミュニティの中にいるバンドという印象だったのですが、この新作はタイトル通りのメディテーション作。ビート要素は後退し、かなりアンビエント寄りなアルバムになっています。
 LA的なメディテーション感と比べるとオーガニックというか「でかい野外」感があるのが面白かったです。あと低音の鳴らし方。ローを切りがちというか、低音はあまり鳴らさない印象のアンビエント系なんですが、本作は結構強めな低音が鳴っています。スケールアップしたメディテーションとも言えるし、より体感的になったとも言えるし、結果映画音楽にも近づいていっている気もします。

Pyramid Remix / Jaga Jazzist

 Jaga Jazzistの昨年出したアルバム『Pyramid』のリミックス版。本編を知らなくても機能する、単体でも聴けるアルバムになっていて良かったです。
 エレクトロプロデューサーによるリミックスは想像通り(かつちゃんと高クオリティ)なんですが、本作が面白いのはPetter EldhやPaul Bender、Ian Changの参加。特にPaul Benderが素晴らしく、The Sweet Enoughsでみせたエキゾチカ〜ニューエイジ的なニュアンスと、Hiatus Kaiyoteのビート感が混ざった名リミックスになっています。

Cherry Blossom Child / Teeth Agency

 今年3月に『You Don’t Have To Live In Pain』を出したTeeth Agencyによる今年2つ目のフルアルバムです。ターキッシュサイケ感が強めだった前作に対し、今作はフォークな音楽性がデロデロと溶けていくような作風。サイケなフォークという意味ではアシッドフォークに近いもするけど、もうちょっとダウナーな感じです。
 アルバムごとに作風は異なるんですが、どのアルバムもいわゆるエフェクト感だけでは無い方向で空間をねじ曲げようとしている気がして、特に本作はそのストイックさが良かったです。シンプルな音なのにデロデロのサイケデリック。

Circle of Celebration / NOUS with Laraaji and Arji OceAnanda

 Laraajiの新たな側面が出ています。NOUSは様々なミュージシャンが集まったプロジェクト的なもののようで、演奏はジャムバンド的な感じ。ただそこにLaraajiの歌が入ることで、ニューエイジ感というか、エモーショナルに盛り上げるだけではない、だらだらと聞いていたい不思議な音楽になっています。Larrajiの圧倒的フロント力…!

告知です。是非とも!!!




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