私的ベスト・ミュージック10枚(2022年4月編) by 高橋アフィ

Some Things Take Time / Cisco Swank & Luke Titus

 シンガー/マルチ奏者のCisco Swankとドラマー/プロデューサーのLuke Titusのコラボ作。Luke Titusは自身のソロでは歌っているんですが、本作では多分歌ってません。
 「現場主義」は大体ライブハウスやクラブなど会場の話かなと思うんですが、本作のこのエッジーさは会場の熱量というよりは、インスタなどのSNSを現場としている音楽シーン特有のものなのかなと。1分以内に見せきる激しさというか。そうなると現場はSNSなのか?
 みたいなことを思いつつ、本作はそのショート動画的なテンションを上手いことALとして作品化したところが最大の面白さかなと思っています。演奏能力で押し切るのではなく、ミックスの細かな変化などプロデュース的な方面で解決しているのが良いですね。
 などという話をミュージックマガジンの輸入盤紹介に寄稿させてもらいました。毎月やってます、是非!

Drum Solo / Julian Sartorius & Matthew Herbert

 Colin Vallon Trioなどでも有名なドラマー/打楽器奏者Julian Sartoriusと、エレクトロのMatthew Herbertのコラボ作。二人なのにソロと名付けられている理由は、凄い雑に言えばJulian Sartoriusのソロ演奏をMatthew Herbertがライブでダブ処理しているような作り方だからのようです。オーバーダビングなしとのこと。
 元々ソロでもかなりテクスチャ寄りで色彩感豊かなJulian Sartoriusの演奏なんですが、その気持ち良さ/悪さを強調したようなMatthew Herbertのエフェクトが素晴らしいです。二人ともいわゆる「ドラム」からは到底想定できないような実験的な音を鳴らしつつ、打楽器の魔術性とカラフルさがむしろ前面に出てきているように思います。ダンスミュージック的な方向は全然狙っていないんですが、とはいえリズムのポップさで程よく快楽性があるのが良いです。

Live at Commend, NYC / Carlos Niño & Friends

 打楽器奏者Carlos Niñoのライブ作。Laraaji、Surya Botofasina、Will LoganなどCarlos Niñoのいつものニューエイジ/即興周辺のメンバーに加え、Buchlaと808とElectronic Drumsで参加するPhotayが面白いです。ライブの即興の中にエレクトロの質感が調和的に入ることで、打楽器の距離感が良い意味で強調されるというか立体感が出るんですよね。
 アンビエントなジャズ、あるいはメディテーション志向の即興という感じで、音がひたすら心地よい作品でした。

GOLD / Alabaster DePlume

 コンポーザー、サックス奏者Alabaster DePlumeの新作。どこか懐かしいエキゾチカなメロディに穏やかで柔らかい音像と全体的にチルアウトな雰囲気漂いつつ、なんか最終的にダウナーな印象受けるんですよね。自身に対してのケアっぽいというか。大人数が参加している開放感あるんですが、むしろ孤独感も強調されているような気がして、その内省的な世界観が良かったです。

The Parable of the Poet / Joel Ross

 ヴィブラフォン奏者Joel Rossの新作。ヴィブラフォンを前面に、というよりは多人数アンサンブルが中心のコンポーザーとしての側面が目立つ作品でした。と言いつつ、その繊細な音づかいはヴィブラフォンがあるからこそ成り立つもので、Joel Rossの奏者としての魅力もかつてないほど発揮されたALではないかと。
 多人数のカオスさと、音量がデカくなると音が消えてしまうヴィブラフォンの繊細さを両立させた結果、穏やかに混沌と(も)向き合うみたいな音で良かったです。

AIR / SAULT

 初めてきいた時全然しっくりこなかったんですが、やっとわかってきました作。今までのシグネイチャーサウンドとも言えるドラムもローファイ感もパンキッシュな雰囲気もなくなり、本作はあえていうなら「クラシック」的な作品になっています。なぜSAULTがこれを?と思ったんですが、やる意味ちゃんと考えましょうみたいなALでした。詳しくはピッチフォークのレビューを読んでください。
 別文脈だとソウルの源泉をたどり、(アンビエントR&Bとは別の)アンビエントを見つけたみたいな作品も思えました。その意味では、昨今のアンビエント/ニューエイジ・ブームに真っ向に向き合ったトレンディなALでもある?文脈踏まえずとも意外なほどDJ受け良いのかなとも思ったんですが、ここらへん実際どうなんでしょう?Infloの異様な音へのこだわりがハイファイに向かいつつ、そこまで超ハイファイという感じではないようにも思えるんですが、逆にクラブでちょうど良い塩梅なのかなという気持ちもする。

Solar Editions / Green-House

 USのアンビエント・アーティストのGreen-Houseの新作EP。ついに全力ニューエイジな3曲目が良かったです。リズムが入りつつもダンスミュージック化させない感じがたまりません。

Dance Ancestral / John Carroll Kirby

 来日公演も素晴らしかったJohn Carroll Kirbyの新作。今回は共同製作者としてYu Suが参加しています。ジャズ/フュージョンのえぐみを取り入れつつ、それすら小洒落た感じに聞かせるセンスが素晴らしいです。
 ライブ見て気が付いたんですが、かなり変な曲調かつジャズテイストありつつも基本ループで構成されているんですよね。そのループで聞かせるやり方がグルーヴィな作風につながっているように思いました。

HOP HOP / Tigris

 イスラエルのバンドTigrisがRaw Tapes入り!ライブだとイケイケっぽいんですが、音源だと良い意味でその迫力が抑えられ、ほっこり系グルーヴィな演奏が楽しいです。夏にこそ!みたいな作品ですね。
 ドラムレスのツインパーカッションという編成もあり、リズムの複雑さ/ふくよかさが良かったです。ノレるガチャガチャ感というか。

Omnium Gatherum / King Gizzard & The Lizard Wizard

 オーストラリアのサイケバンドKing Gizzard & The Lizard Wizardの新作。コロナ禍以降で初の非リモート作とのこと。先行曲かつALの1曲目が18分越えというのも笑いましたが、それ以降も1曲1曲でこれでもかと曲調が違って楽しいです。バンドとしてのタフさを感じるのと、サイケということで全部飲み込める強さが出ていて良いですね。


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