私的ベスト・ミュージック10枚(2021年9月編) by 高橋アフィ

Space 1​.​8 / Nala Sinephro

 UKジャズシーンで活躍するミュージシャン/作曲家Nala Sinephroのデビュー作。リリースは〈Warp〉。作曲、制作、演奏、エンジニアリング、録音、ミキシングを担当しているとのことで、プレイヤー的な人物というよりはプロデュサーと思うとわかりやすいのかも(演奏動画もなかなか見つからず)?モジュラーシンセやペダルハープを演奏しているとのことです。
 エレクトロの実験性/快楽性からアプローチしたスピリチュアル・ジャズという印象で、浮遊感と同時にディープな演奏が素晴らしかったです。アメリカとは異なるUKジャズ独自の文脈性というか、UKだからこそアプローチできたであろう面白い部分が見事に花開いた作品に思えました。演奏を中心に置きながら気がつけば全体の質感に耳がいってしまう感じは、LAシーンとも近い気もしますが、それよりさらにプレイヤーがどんどん匿名化していくような雰囲気が良かったです。

MÁSCARAS / Mas Aya

 トロントのプロデューサー/打楽器奏者Brandon ValdiviaによるソロプロジェクトMas Ayaのデビュー作。全体的にはアンビエントな印象なんですが、そこにトライバル/ベースミュージックが混ざる独自の音楽性がカッコ良かったです。ハードな方向に行きそうで、ずっと浮遊感保っているのが素晴らしいですね。リズムの力技で押し切らないというか。
 一曲目はJuke / Footworkという感じなんですが、それ以降はディープなリズムでよりアンビエントに近くなって行きます。質感を付け加えるパートとしての打楽器の使い方はCarlos NiñoなどLAシーンと近いかなと思ったんですが、調べたらBrandon Valdiviaはフリー/インプロ系のプレイヤーでもあるんですね。その感覚をアンビエントやビートミュージックと繋げているところがLAシーンとの共通点であり、今面白い動きなのかもしれない…?

Projekt Drums vol. 1 / Petter Eldh

 ベルリンシーンで活躍するベーシストPetter Eldhのドラマーたちとコラボした作品。解体しまくったリズムが滅茶苦茶カッコ良いです。この複雑さがありながら、管楽器などのアレンジでスムースに聴かせていくのが凄まじく、リズムだけでは聴かせない音楽性の深さが素晴らしいですね。
 ドラマーごとに個性が出ているのも面白かったです。多分作曲としては即興要素はあまり無いかなと思うんですが、当て書きなんでしょうか…?あるいは演奏してもらってからホーンフレーズ作っているとか?Petter Eldhの底知れなさがわかるアルバムでもありました。
 そういえばドラマー中心の作品でありながらドラムソロが無いのも特徴ですね。そこも本作の不思議なポップさにつながっているし、ジャズだけれどジャズじゃない方向に開けている良さになっているかなと思いました。個性を活かしつつも、個人プレイでは無くあくまで作品性の上で考えるセンスというか。

Sometimes I Might Be Introvert / Little Simz

 Infloが最高です。ヒップホップにおけるサンプリングを再解釈したような、生演奏だからこそ出来る面白さを追求したサウンドが素晴らしいですね。録音/演奏ゆえのノイジーな部分を生かした音作りは、生々しいけれどまだ誰も(音楽としては)聴いたことが無い所を攻めていて面白かったです。結果曲ごとに音響変わる実験作にもなっています。
 そしてそのトラックの攻め方をまとめ上げるLittle Simzのラップが凄いのは言うまでも無く。ここまで壮大なトラックだと上滑っちゃうこともありそうなんですが、まったくスケール感で負けてなかったです。
 多分アルバムとしてはサンプリング未使用だと思うんですが、サンプリングしたかのような名フレーズがちらほら出てくる作りも意味分からなくて良かったです。どういう風に曲作っているんだろ…。

Quarantine Sessions / Tom Misch

 Quarantine期の雰囲気を色濃く反映させたTom Mischの宅録カバー作。ビートが前面に出ない、家で緩やかに流したくなるアルバムでした。
 ほぼギターのみ、(多分一発録りの)ルーパーを駆使して作成されており、チルなムードが漂いながらもギターの可能性を広げているところも良かったですね。

SUNDAYS / Nate Mercereau

 シンセギタリストNate Mercereauの新作。Carlos Niño、Josh Johnson、Jamire Williamsが参加しています。
 シンセの圧をアンビエントやメディテーション的な感覚に繋げているのが素晴らしいです。音色の強さでいうとハイパーポップ的でもあるような力強さすらあるんですが、そのビビッドな色彩感を持ってよりディープな世界へ繋げていっています。
 そしてシンセのミチっとしたサウンドに空間的な広がりをつけるCarlos NiñoとJamire Williamsの演奏!打楽器でありながらほぼビートは刻まず、響きを聴かせる演奏をしています。「シンバルの音色ってこんな凄いんだ…!」と思わせる鳴らし方で、耳が拡張されていくような感覚になりますね。

Going Going Gone / Mild High Club

 LA拠点の鬼才アレクサンダー・ブレティンによるサイケデリック・ポップ・プロジェクトMild High Clubの3rd AL。もっとヘロヘロだったと思うんですが、気がつけば一流のポップ・マエストロっぷり!AOR的な気持ち良さに溢れています。
 楽曲の丹念な作り込みとローファイな宅録感の組み合わせ、はじめは違和感あったんですが、聴いているうちにむしろこれこそが良さだなとなりました。vaporwaveの裏ルートというか、AORを適当なスピーカーでサイケに聴いた時の感覚なのかなと。出力としてはAORフォロワー感あるんですが、シティポップやvaporwaveで目指すAORのキラッと感よりは、サイケなものとしてAORを聞いた時に完璧であることを狙っている気がしました。それゆえの宅録的な音響の、つまりチルでローファイな音の良さですね。
 とはいえ、やはり曲の完成度は異様なほど高く、そのぐにゃっとしたバランスも面白さです。

Kinfolk 2: See the Birds / Nate Smith

 こういう風に刻みまくるNate Smithが聴きたかったんですよ…!曲もコンテポラリーをビート系に進化させた感じで、今までのNate Smithらしさもあって良い感じです。

Angel Villa / CHS

 韓国のサーフ系サイケバンドCHSの新EP。ほぼJフュージョンとも言えそうですが、底抜けに明るいのが良かったです。サイケの入れ方がカッコよく、ちょうど波の揺れ方と近いというか、浜辺でゆったりな雰囲気とすぐ繋がる感じが良いですね。

LOGIC / LEX

 ラップ常に上手過ぎ、トラックどれも良過ぎでした。しっかり日本語だけれど/だからこそ(?)、革新的なラップが素晴らしかったです。声のエフェクト感が滅茶苦茶気持ち良く、プロデュースやミックスのKMも凄まじいですね。


告知

TAMTAM、12/16@新宿MARZで企画ライブします!
都内年内最後のライブになるのでぜひとも!!!

ソロデビュー作出しました!多分カセットで聴くのが一番音良いです!


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