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『#Eぐみに会いに行く。』vol.8 【後編】 Aくん&にっくん&神田inニューヨーク

高校時代の同級生へのインタビュー企画#Eぐみに会いに行く。Vol.8となる今回は、Aくんに会うためニューヨークへ。Eぐみの同級生・にっくんも合流し、一緒にお話を伺っています。前編では、かつてEぐみにあった学級文庫が話題に上りました。後編では、学生時代の勉強にも触れながら話が進みます。
※もはや会話の流れに無関係のものばかりですが、引き続き現地の写真と共にお楽しみ下さい。

『#Eぐみに会いに行く。』
vol.8

【登場人物】

Aくん
ニューヨークの弁護士事務所に勤務。冷静に振る舞っているように見えるが、実は今回のにっくんと神田の訪問をとても喜んでいる。大学では物理学を専攻していた。

にっくん
中古ジュエリーを扱う会社に勤務。前回記事(vol.7)のインタビュイー。Aくんへのインタビュー計画を知り、神田と同じタイミングでニューヨークへ行くことにしたが、初めは冗談かと思われていた。大学では心理カウンセリングを学んだ。

神田(かんちゃん)
2023年にインタビュー企画#Eぐみに会いに行く。を立ち上げる。Aくんにインタビューをするためニューヨーク行きを計画したものの、久々の海外旅行に怯えていたが、にっくんも行くことになったので内心ほっとしている。

繋がって、活きてくる。

Aくん:なんかこうやって当時を振り返ってみると、意識的に踏みはずすための練習って、実は学校でずっとやってきたのかもなぁって思ったよ。そもそも、学校の勉強って、新しい“言葉の使い方”を学んで世界を色々な方法で認識できるようにするためのものなんだろうね。

神田:どういうこと?

Aくん:例えば、小さいときに1、2、3……という数え方を習うことで、全く違う種類の物を同じように数えられるようになるよね。「リンゴ3つ」と「消しゴム2つ」みたいに。それは、リンゴと消しゴムのような種類が違う物を「数」という眼鏡を通して見られるようになったからなんだけど、それまではそういう風に抽象化して世界を見ることができなかったはずなんだよ。「マイナスの数」とか「虚数」とかも、そういう言葉を教わるまでは、そんな世界の認識の仕方があるということすら知らないじゃん?

神田:言われてみればそうかも。

Aくん:担任の先生の授業でもやったと思うけど、そんな風に、人は言葉によって世界を認識している。だから、現状の言葉だけでは世界は広がっていかない。だとすると、現状から踏みはずしてみるっていうのは、自分の言葉やそれに作られた思考の外側に意識的に飛び込んでいくことなわけで、うちらはそれを学校の勉強を通してやってきてるんだよね。

にっくん:なるほど。そうやって、新しい言葉を学びながら、世界が広がっていくんだね。

Aくん:そう考えると、学校でやってきたことって、直接的とは言えないことも多いかもしれないけど、やっぱり役に立ってると思うんだよね。物事を色んな風に認識できるようになると、繋がりが見えてきて、それまでやってきたことが他の場面でも活きてきたりするんじゃないかな。

にっくん:うん。そういう繋がりが見出せると、全部の知識や経験があとになって活きてくるよね。実際に、思わぬところで「あ、ここであれが活きてくるんだ!」って感じることがあるし。

神田:やっぱり、とにかく色々やってみるのがいいよね。

グランド・セントラル駅

「階層」と「文脈」を意識すること。

Aくん:繋がりという話で思い出したんだけど、最近、うちの子と漢字ドリルをやってた時に、「木」とか「山」とか、なんか左右対称な字が結構あるなぁって思ったの。

にっくん:そう言われてみれば、確かに。何でだろうね。

Aくん:今からするのはそれほど真面目な話じゃなくて、物理との繋がりでものを見るっていう、ひとつの遊びだと思って聞いてほしいんだけど。これ、漢字にも重力がはたらいているからなんじゃないかなって思ったんだよね。重力って、モノに対して上下方向に力をかけてるけど、左右方向に対してはかけてないでしょ。だから、自然物の形状はざっくり言えば左右に対称性がある。それを横から観察して抽象的な象形文字を作れば、おのずと左右対称な形が多くなるのではないか……という、極めて荒い推測なんだけど(笑)。

にっくん:なるほど。そういう見方はできるかもね。

Aくん:まぁ、それが真実かどうかはさておき、「自然物を表す漢字は左右対称かも」っていう仮説を立てて子どもと話してみるのは面白いよ。漢字をよく観察するようになるし、自然物でも左右対称じゃない字があることに気付いて、なぜそういう形になるのかを一緒に調べると理解も深まる。……かんちゃん、何だか納得してなさそうだね(笑)。

地下鉄の「77丁目駅」

神田:実は私、さっきAくんに「左右対称だ」って言われた時、そもそも「左右対称じゃないじゃん」って思いながら聞いてたの。だって、漢字ってハネとかハライがあるでしょ? キレイに字を書こうとしたら、それも無視できない部分じゃない?

Aくん:そういうことか(笑)、確かにね。変な話に聞こえるかもしれないけど、物理的には、こういうときにハネとかハライみたいなものは無視できそうだなって思ってるの。例えば、このコップを投げたら放物線を描くでしょ? 

神田:うん。それは物理の授業でも習ったけど……。

Aくん:こういうときに、物理学者はコップを「点」と見れば十分なんだよね。対象物の振る舞いを考えるために出来るだけシンプルに、本質的な部分だけを抽出するっていうのが物理学の基本的な発想なんだよ。

神田:へぇ〜!

にっくん:面白いね。

Aくん:で、ハネとかハライとかも、漢字の成り立ちを考える上では・・・・・・・・・・・・・・無視できそうだから、そういうのを取っ払った字を想定して話してたの。

神田:そういうことかぁ。

Aくん:ちょっと雑に説明したから、いちおう誤解を避けるために言うと、無視するのか、それとも意味のある特徴と見るのかっていうのは、何を議論したいのかによるよね。どの階層や文脈で対象を見るかの違いとも言えるかもしれない。

神田:階層や文脈?

Aくん:うん。例えば、同じ物理でも、ミクロな世界を認識したいのかマクロな世界を認識したいのかによって、対象物の捉え方が変わる。これが「階層」の違い。コップの例で言えば、もしコップを構成してる分子の運動まで知りたいなら、コップを「点」と見ることはできないでしょ?

にっくん:なるほど。

夜のブライアント・パーク

Aくん:で、「文脈」っていうのは、まぁ、対象物をどういう体系の中で見ているかだね。

神田:いわゆる「文脈を読め」っていうときの文脈?

Aくん:うん。切り口とも言えるかもね。よくある例として、「なぜ服を着るの?」って質問されたときに、「服を着ないと寒いから」と答える人は、服を、体を保温するための機能と見ている。でも、「オシャレのため」とか「恥ずかしさを隠すため」とか、他にも色々な答え方ができるじゃん? 

にっくん:哲学的な文脈であれば、「衣服は私に私の身体を認識させてくれるものだ」という見方もできるよね。

Aくん:そうそう、それはうちらが高校生の時に習った鷲田清一さんの身体論的な見方だね(笑)!……ちょっと脱線したけど、さっきので言えば、かんちゃんは、いわば書道的な文脈で漢字の形を見てて、その場合は、かんちゃんの指摘どおり、トメ、ハネ、ハライにこそ意味があるとも言えるね。

神田:もしもさっきAくんが、私とは違う文脈で漢字を見てるってことを説明をしてくれなかったら、「Aくん、変なこと言うなぁ」って思ったまま終わってたかも(笑)。

にっくん:人によって捉え方が違うってこと自体は日常的にもたくさんあるよね。

Aくん:うん。俺もこっちに来てすぐのころは「何で話が噛み合わないんだ~」って感じることが結構あってね(笑)。そういうときは、言語の壁はもちろんあるけど、それ以前に、実は自分がこれまで無意識に前提としてきた物事の捉え方自体が異なるってことも多いんだよね。それが面白い点でもあるんだけど(笑)。

ブルックリン地区にある高架下のウォールアート

何よりもまず経験すること。さぁ、旅に出よう!

神田:今回ニューヨークに来て思ったのは、やっぱり実際にその場に足を運んでみるのはすごく大事ってことだね。今はリモートで色々できるけど、直接自分の目で見たり、街を歩いたりするのって大切なことだと思うの。

Aくん:そうだね。この独特なにおいとか、音とか、人の様子とかね。ちょっと外を歩くだけでも、本だけで知識を得るのとは全然違うよね。

にっくん:うん。5分散歩するだけでも、すごい情報量だし。

神田:ほんと、「自分の中の世界が広がった!」って感じたよ。

にっくん:俺は今回、ニューヨークで宝石の展示会に行って来たんだけど。自分で直接やりとりをして繋がりを作るのは、すごく意味があることだって実感したな。

ニューヨークで開催されたジュエリーの展示会

神田:確かに、実際に行くと行かないとじゃ、得られる信用も変わりそう。

にっくん:そうなの! 日本の同業者の中にも海外とやり取りしている人はいるけど、実際に現地まで行ってるとは限らない。だから、「ニューヨークでは今、アンティークジュエリーが熱いんですよ!」っていう話を日本のお客さんにするにしても、実際に足を運んだかどうか、自分のフィルターを通したかどうかで説得力が違ってくる。そうやって得た信用が、他社との差別化にも繋がるんだよね。

Aくん:そうだね。これからは、ますます信用が重視される世の中になるだろうしね…。信用度を数値化するような仕組みも出来てきているし。

神田:数値化か……それはちょっと怖い気もするな。

カフェやブティックが立ち並ぶブルックリン区のダンボ。
中央に見えるのはマンハッタン橋。

にっくん:確かにシビアな話かもしれないけど、信用力を勝ち取っていけば、チャンスも広がる。「演出」って表現をすると途端にうさんくさくなるけど(笑)、顧客からの見られ方と見せ方を考えて、自分の特性をちゃんとアピールしていくことは大切だと思うな。今回、ニューヨークまで足を運んだことが信頼に繋れば、新しい販路が開けるかもしれないし。

Aくん:にっくんならそれ、ぜったいに出来ちゃうでしょ(笑)! やっぱり、頭で知るだけじゃなくて、“身体の経験”という裏付けがあるのは強いよね。2人がここに来てくれたみたいに、自分自身でいろんなことを見たり聞いたりするのって大事だね。

にっくん:そう、とにかく自分で経験することだね!

神田:それが一番だよ!

ブルックリンブリッジパークから望むマンハッタン橋

***

神田:今回はこの3人で話ができて本当によかったよ。ありがとう!

Aくん:こちらこそ、にっくんもかんちゃんも、わざわざ来てくれてありがとう。

にっくん:Aが日本に帰って来たら、またみんなで会いたいね。

Aくん:今回はちょっと真面目な話をしすぎたかもね(笑)。次回はくだらない話をしながら、東京でまたみんなでご飯を食べましょう。焼肉かお寿司、期待してます(笑)!!

にっくん・神田:ははははは!

(取材日:2023年10月28日)

ブルックリンブリッジパークの夕暮れ
ブルックリン橋
毎週日曜日に開催されるフリーマーケット「Grand Bazaar NYC」
ニューヨークのフリーマーケットでは「Brooklyn Flea」も有名です。
スーパーマーケットの「トレーダー・ジョーズ」
レジ横にあるエコバッグはお土産としても人気があります。
ブライアントパークのホリデーマーケット
訪れたのは10月下旬でしたが、すでにクリスマス感がありました。
気軽に生演奏を楽しめるジャズクラブ「ブルー・ノート」。
ロバート・グラスパーの演奏を聴きました。

***

2023年の初め、この#Eぐみに会いに行く。の企画を立てた当初は、まさか同じ年にニューヨークへ行くことになるとは思ってもいませんでした。友達に会いに海外に行くなんて、今までの私の人生からすれば夢みたいな話だったけれど、「もし本当にやってみたら面白いんじゃないか?」ーーそう思って実行に移したのが今回の旅でした。Aくんやにっくん、そしてたくさんの心強い仲間がいてくれたおかげで、実現することができました。ご協力いただいた皆さん、本当に有り難うございました。

きっと私たちの日常には「その気になればやれること」がたくさんあって、そしてそれは一見すると、夢みたいなことだったり、冗談みたいなことだったり、ばかばかしく思えることだったりするのだと思います。それでも、「もし本当にやってみたら面白いんじゃないか?」という気持ちで動いてみるだけで、ちょっと世界が変わるかもしれません。その気持ちを忘れずにいるためには、やっぱり心身ともに健康でいることが一番だと感じます。

2024年は大変な幕開けとなりましたが、どうか皆さん、心も身体も大切に、一緒に生き抜いていきましょう。

ライティング・神田朋子

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