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今日、オヤシラズを抜いた。

(※この記事はいつもより長いです。抜歯についてひたすら書いているので、苦手な方は読まないで下さい。)

今日、オヤシラズを抜いた。

もともと上下左右で合計4本あった私のオヤシラズ。随分前に上の2本は抜いてしまっていて、今回は下の2本を抜くことになっている。今日は、その内の1本、左下の歯を抜く日だった。

「歯を抜かれるって、どんな感覚だっけ?」

以前抜いてもらってから何年も経っているので、記憶がおぼろげだ。まあ、麻酔もするし、たいして痛くはないだろう。抜く時のミシミシという感じの不快感だけををうっすらと思い出しながら、私は病院へ向かった。

緊張しながら診察台に腰掛ける。注射の麻酔をする前に、歯茎にワタで麻酔を塗られた。ああ、そうそう。針を刺す前にこうやって歯茎の表面に麻酔を塗るんだった。この段階で、「実は怖くてしょうがない」と感じていることに気づいてしまったのだが、自分自身を観察すること徹することで、平静を装おうと決めた。

「緊張してますか? 鼻で呼吸してくださいね。肩の力を抜いて〜」

先生が言う。一応、言われた通りにしてみる。……いや、これ、やっぱり、めっちゃ怖いわ。

先ほどの麻酔が効いたのを見計らって、今度は注射針を使って歯茎の奥まで麻酔を注入する。チクッと3箇所に、順々に針で麻酔が注入される。うん……怖い……けど、この手順もなんとなく覚えている。何年も前に抜歯してもらった時もこうだったよな。

3分ほどして、先生が麻酔が効いたかを確認するために歯の周りを金属の器具で触った。あれ? 麻酔をしたのに、なんだか、痛い? 気がする……

「麻酔が効いていても、触られた時の違和感は無くならないですよ」。先生が言う。私が感じた痛みは気のせいだったのだろうか。先生は、本当に痛かったら麻酔を追加する、とも言ってくれた。

麻酔を追加ーーなぜか私にはその言葉がちょっと怖く思えた。さっき触られた時は確かに痛い気がしたのだが、それは器具の振動が周りの歯に響いて、知覚過敏的に痛く感じたのかもしれない……。でも本当に麻酔が効いていなかったら、この先の工程は確実に”地獄”になる。そう思いつつも、これ以上麻酔を身体に入れるのがこわくなったのと、さっさと終わらせて欲しいという気持ちに駆られ、私はこのまま抜いてもらうようお願いした。

この先は、具体的に何がされているのかは分からなかったのだけれど、おそらく先端の尖ったものやスパナみたいなもの……とにかくあらゆる器具が登場して、総力戦みたいに私のオヤシラズを攻めてきた。

ーー痛い。痛いけれど、これは恐怖から来るような気もする。だってさっき麻酔はかけたもん。本当はもう少し追加した方が良かったかもしれないけど……。先生は、相変わらずガリガリミシミシと歯と戦っている。

気づけば、自分自身を冷静に観察しようという気持ちはもうどこかに行ってしまった。私は中学生の時にいやいや乗せられた日本最長ジェットコースターを思い出した。座席に括り付けられた私は、ただただ「早く終わってくれ……」と祈っていた。

その後、先生の持つ”スパナ”のミシミシがクレッシェンドして、鈍く、歯が抜けた。

すぐに止血のための丸いワタが当てられる。私は額と腕に、霧吹きでかけたような汗が浮いているのを感じた。抜けた歯には表面に出ていた部分よりも長い根っこがあった。歯茎との境目と思われる部分が、黒っぽくなっている。知らないうちに、随分広い面積が虫歯になっていたようだ。やはり、抜いて良かったのだ。さっきの恐怖と引き換えに、自分の健康が維持できる。とにかくそう自分自身に言い聞かせようと思った。


体力も使ったが気力も使った。今夜はお腹が減っても好きなものが食べられない。お粥とゼリーをスーパーで買い、太陽が照りつける中、私はとぼとぼと自転車を押して帰った。

(……2週間後には右下の抜歯も控えています。)

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