かたくなな掃除機(2)
長年使っていたせいで、吸引力がほぼゼロになったにも関わらず、いくら言っても掃除機を買い替えようとしない母。理由はその、「紙パック」だった。
母曰く、買いだめしたせいで、未使用の紙パックが押し入れの中にまだまだ残っているのだという。
「この紙パックは今は廃盤になっちゃってるの。前に買おうとしたとき、もうどこにも売ってなくてね、わざわざ一駅先まで行って、注文して取り寄せてもらったんだもん」
要は、廃盤になる直前に苦労して探し回り、取り寄せまでして買った紙パックがまだたくさん残っているから、それを使い切るまでは掃除機を買い替えたくない、というわけだ。母の気持ちも分かるような、分からないような……。もはや意地というか、執着みたいなもののために、彼女はこの掃除機を使っているわけである。
いつも頭が固い母。こちらの論で説得しようとしても、独自の理屈にしがみついて、なかなか話が進まない。説き伏せるのも面倒なので、このまま気が済むようにせておくのが良いかとも思ったものの、今回の紙パックの話は非常に厄介なこもに感じられた。
なぜなら、掃除機を買い替えるためには、紙パックをさっさと消費する必要があるからだ。しかし、あんな絶望的な吸引力の低さでは、紙パックがゴミで一杯になるまでにどのくらいの時間がかかるか分からない。もしや数ヶ月では済まないのではないか。それより何より、もはやあの掃除機をかけることを「掃除」と呼んでいいのだろうか……。いや、このままではやはり、いけない。
結局、母が父の仕事場に行く時間が長くなり、私が実家にほぼ一人暮らしのような状態になったタイミングで、私は掃除機をコードレスのものに買い替えた。古くなった掃除機を粗大ゴミに出す旨を電話で伝えると、母はとても不服そうな声で承諾した。
新しい掃除機にスイッチを入れると、頼もしい音を立ててぐんぐん床の埃を吸い取ってくれた。
「そうそう、これが掃除機だよな」
私は久々に、掃除をしている気分になった。
古い掃除機を、マンションのゴミ集積所に運ぶ。くすんだ紫と青でカラーリングされた丸い胴体が、なんとも「平成初期」っぽい。そこに粗大ごみシールが貼られている様は、哀愁を感じさせた。
「捨てられない理由」というのは人それぞれだが、母には独自の理由で捨てられないものがまだまだたくさんあるのだろう。そう思いながら、私は集積所の扉を閉めた。
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