仕返し
小学生の時に、突然、籐(ラタン)でカゴを作りたくなった。たしか、NHKの手芸番組か何かを見たのがきっかけだったと思う。当時私は「鍵っ子」で、学校から帰ると毎日のようにテレビの手芸番組を見ていた。特に縫い物をするのが好きで、番組内で紹介されたものを見よう見まねで作ったこともある。
籐のカゴは、交差させた籐を骨組みに置いて、その中心から円を描くように編み込んでいけば作れるらしかった。籐は熱を加えることで、曲げやすくなるという。
「私もやってみたい!」
やりたくなったものはすぐに手をつけないと気が済まない私は、母に籐をおねだりした。場所は覚えていないのだけれど、行ったこともない店に母と一緒に材料を探しに行った。
小さな細長い店内に、自然クラフト系の材料が並んでいたのをなんとなく覚えている。母が店主らしきおじさんに、私が籐でカゴを作りたがっているという相談をすると、おじさんは材料を用意してくれた。
「小学生の子には無理だと思いますけどね」
おじさんが言った。その瞬間、私の中にあったカゴを作る気力はゼロになった。母は会計を済ませ、私を連れて店を出た。
その後、家に持ち帰った籐に、私は手を触れることもなく何年もが経った。「お前には無理だ」と言われても、負けん気で頑張る子供もいるだろう。しかし、私はそうすることが癪だった。それではおじさんのマイナスな言葉が私にプラスの効果をもたらしているようではないか。「お前は無理だ」と言われたせいで、本当に無理になってしまった方が、私のことを見くびったおじさんへの仕返しになると思った。もしもおじさんがそんなことを言わなければ、私はカゴを作り切ることができた。おじさんの一言が、才能ある小学生の芽を摘んだのだ。私はカゴを作らないことで、おじさんへの仕返しをした。
買ってきた籐がいくら放置されようとも、母は意に介していない様子だった。(決して私に気を使っていたわけではない。そういう性格なのだ。)だから私は当時の自分の心中を言語化したことはない。しかしなぜか今日、急にそのころのことを思い出し、ここに書いている。悔しかったことはよく思い出すんだよな。人を傷つけたことは覚えていないのに。我ながら面倒臭い性格だ。
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