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カイロ

屋外で手っ取り早く暖をとりたいとき、私にとって頼りになるのは、ペットボトルの温かいお茶か、使い捨てカイロだ。購入時からの「立ち上がり」の速さで考えるとお茶だけれど、温かさの持続性で考えれば、やはりカイロの方が勝るだろう。

10年以上前、充電式のカイロを使っていたことがある。その名の通り、充電して使う携帯式のカイロで、スイッチをONにすると温かくなるというものだ。手のひらサイズの白くコロンとした平たい形状が可愛らしく、ほぼ一目惚れで買った記憶がある。

「繰り返し使える」というのは、エコの観点からも良さそうだと思った。私はそのカイロを手に入れたことがとても嬉くて、いつでもコートのポケット入れてた。周りには持っている友人がいなかったので、割と自慢げに見せびらかしていた野田が、毎日使っているうちに私はあることに気づいてしまった。使い捨てカイロの方が使いやすい、ということだ。

現在も充電式カイロは販売されいるので、今は性能が上がっていると思うけれど、当時の商品はなかなか温度が上がらず、温かくなるのは本体の片側側面の一部分だけだった。いくらポケットの中で握りしめても、なかなか指先まで温まらない。冬になると指先の冷たさが深刻になる私にとっては、指を360度包むことのできる使い捨てカイロの方が、暖をとるにはもってこいだった。

見た目が可愛くエコではあるが今ひとつ効果が得られないアイテムと、エコとは呼び難いオーソドックスなアイテム。せっかく気に入って買ったということもあり、私は当分の間、辛抱して前者を使っていた。「お洒落は我慢」、と自分自身に言い聞かせた。しかし、ポケットの中で誰の目に触れることもないカイロに、お洒落も何もあるのだろうか……。結局、寒さに耐えかねた私は、充電式カイロを使い続けることを断念し、使い捨てカイロに戻ることにした。

振り返ってみると、私の人生の中では、こんな風にちょっとカッコつけたり背伸びをしたりして買ったものがある。私はそれらの不便さを薄々感じながら、どうにか使い続けようと努力してきた。そのどれもが、今はどこに仕舞ったのかすら分からない。実家の押し入れの奥に眠っているものもあれば、ゴミの日に出してしまったものもあるだろう。結局私が辿り着くところは、親しみやすく使いやすく、お洒落とは程遠い世界なのだ。


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