見出し画像

胡蝶蘭と障がい者

「人数が増えたので、作業のための道具を増やしてほしい」

「コロナが収まったので消毒やマスクはやめてもいいのではないか」


美しい胡蝶蘭が咲きほこる温室で、障がいのある方たちが、積極的に声を上げていました。
どうやら職場の改善会議の最中のようです。

その日、私はNPO法人AlonAlon(アロンアロン)の取材に来ていました。

千葉県富津市で知的障がいを持つ人たちが働くB型事業所・『オーキッドガーデン』を運営しているNPOさんです。

障がいのある方々の働く場、ということで、もっと指揮系統化された場を想像していましたが、その想像は早々に裏切られました。障がいのある方々は、自分たちの職場を良くしようと、積極的に手を上げ、意見を交わしていたのです。

今まで何度か障がいのある方の働く場を見てきましたが、障がいのある方がこんなに活き活きと働く職場をみたのは、初めてでした。

興味をもって活動をみていると、1人の障がいを持った若者が名刺を持ってあいさつにきてくださいました。とある企業の社員(総務部に所属)として、ここで胡蝶蘭を栽培している、とのことでした。

NPOの代表の那部さんは言います。

「障がいを持っていても、彼らはもう立派な社会人です。こうやって意見を言い合うことで自己肯定感も高まるし、はっとするような提案もしてくれますよ」

そんなアロンアロンのビジネスモデルを、簡単に紹介しましょう。

値崩れしない胡蝶蘭栽培で、障がい者の工賃・就労率を上げる


那部さんのお子さんは重度の知的障害を持っていました。
胡蝶蘭のビジネスを立ち上げたのは、ある気づきからでした。

「以前はベンチャービジネスをしていました。会社が成長していく節々で、山のように胡蝶蘭をいただいていたんです。年間、相当数の蘭が流通する文化が日本にはある。お祝い事だから値崩れもしない。この栽培を障がい者が担ったら良いのではないかと考えたのです」。

そして、2015年にAlonAlonを設立。

「障害者の低い工賃」「障害者の低い就労率」という社会課題を、ビジネスの力で解決しようと決意。胡蝶蘭栽培のためのB型作業所を立ち上げました。

とはいえ、胡蝶蘭は一般の人からは縁遠い花であるために、共感できるストーリーが必要でした。

そこで、こんな感じで人々に問いかけはじめたのです。

「身近な人のお祝いや記念日にお花を贈る方はいらっしゃいませんか。1万円の花を贈る予定のところを、ぜひ私たちの千円の苗を買ってください。我々がその10株をうちの温室にいれ、障がい者が栽培すると、その記念日の直前に10株の蘭になります」

その1株分は購入者へ返礼として戻される。残りの9株分は企業へ祝い花として販売し、B型作業所の工賃になる。これがバタフライサポーターという制度です。

買ってくださる方は次第に増えていきました。
すると、サポーターになった人が「どうせ買うのならば"ストーリー"のある花を買いましょう」と知り合いや、企業に勧めてくれるようにもなりました。共感の輪は広がり、現在4000社を超えているそうです。

話はまだ終わりません。
たくさん買ってくださる会社の方へ、「うちの農園をお貸ししますから、胡蝶蘭職人をあなたの会社の社員にしませんか」と提案していきます。

企業同士の付き合いの中で常に必要となる胡蝶蘭。それを買う経費を削減しながら、義務づけられている障がい者雇用も達成できる。つまり、花代の経費削減と障がい者雇用を同時に実現できるソリューションサービスです。

このような取り組みを続けていたところ、大規模栽培ができる胡蝶蘭農園をオーキッドガーデン内に独自で持ちたい、という企業も出てきました。

需要が高まり、結果、オーキッドガーデンで働く障がい者の工賃は5万8千円を達成しました。その半分以上が企業へ就職を果たしています。

障がい者が毎月工賃をもらって職業訓練を受け、いずれは企業に就職していく
そんな好循環が生み出すことができたのです。

テクノロジーを使って楽しさを倍増させる、農福連携


胡蝶蘭事業を軌道に乗せた那部さんは、2021年、新事業としてマンゴ―栽培に目を付けました。

「富裕層向けになるべく農薬を使わない付加価値の高いマンゴーを作ろうと考えました。市場で勝つために、テクノロジーを結集させた農園づくりに挑戦しました」

産業用ロボットを手掛ける企業と合弁会社を設立し、スマートアグリシステムのマンゴ―農園を作りました。現在、実証実験中。すべてがセンサーで制御された環境で、障がい者は収穫の作業に楽しんで取り組んでいるといいます。

「そもそも障がいのある方に低い工賃で大変な作業を強いるのは、農福連携とは言い難いと思っています。資金を投じて彼らの職場環境を整備し、働く意義と就労ステップも用意し、楽しさを倍増させる仕組みをつくるべきなのです。私たちが積極的にリスクを取れば、彼らは素晴らしい能力を発揮してくれるのです」

そして今、那部さんの眼前には農業と福祉が融合する地域コミュニティが見えています。
オーキッドガーデンの一部をコミュニティスペースにし、厨房やカフェ、野菜畑などを作るそうなのです。富津マンゴーのブランド化、六次産業化商品も企画中。

「このオーキッドガーデンをどんどん地域に開いていくことで、生き生きと働く障がい者の姿を見てもらい、彼らに対する偏見や垣根をなくしていきたいと願っています」
 

行政は、障がい者雇用の大枠の制度を用意しています。それはそれで、とても重要なことだと思います。ただ、その仕組みの中だけでは、自分を活かせない障がい者もたくさんいるのしょう。

積極的にリスクを取れば、彼らは素晴らしい能力を発揮してくれる

民間でこのような想いを持った人がたくさん出てくれば、障がいを持った方が、もっと多く働けるはず。そう感じた取材でした。


AlonAlonの入り口にある、大きな木


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?