休業期間の経験2020

2020年4月、アパレル販売員として働き始めて7年がすぎた。
今の会社に入社してから、朝から夜まで接客販売や日々の業務をこなし、勤務後は上司や同僚との食事会や飲み会に行き、それがない日は帰宅してからもミーティングの準備やら翌日の準備に時間を割いた。「時間内でできないんだから、時間外でやるしかないでしょ。仕事なんだから」という風潮で、私自身も時間外での仕事は当たり前のように考えていた。
そんな生活を送っていたので、世の中でどんなことが流行っているのか、どんな事件が起こっていて、どんな風に動いているのか、ほとんど知らなかったし、知らなくても問題はなかった。もちろん、お客様と会話するために今の流行や話題になっていることなど、知っておいた方が良いこともあるとは思うが、時間が取れないことを言い訳に知ろうとはしなかった。むしろ、ニュースを見ることでうっかり殺人事件や虐待など、残酷なニュースが目に入り心を痛めるくらいなら知らない方が良いと考えていた。

そんな中、コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出され、会社が休業となり、仕事のことを考えなくても良い時間ができた。
その頃私は、コロナについて大々的に報道されていたことしか知らなかった。毎日テレビで報道される”本日の感染者数”や”飲食店が営業できず経営困難”などなど…。それ故、「大変なことになっているけど、この先どうなっていくのだろうか、給料は保証されるんだろうか」という思いの中、漠然とした先への不安と共に、どこか遠い場所で起きている出来事だというような感覚があった。それはおそらく私の住んでいる県では感染者数が少なく身近に感じられなかったことと、コロナはインフルエンザと同じようなもの、という情報を聞いたからだろう。

休業になってから、毎日テレビやネットでコロナの情報を見てはいたが、結局のところコロナってどんなもので、これからどうなっていくのか、さっぱりわからないな、と思い、コロナについて調べはじめた。最初は、どんなものでどんな症状で、どんな治療法があるのかなど、コロナそのものについて調べていたが、だんだんと、コロナそのものではなくそれに付随する他の情報を見るようになった。他国の状況であったり、各国の対応や方針の違い、私のいる業界(ファッション業界)の未来についてであったり、コロナによって今後世界はこう変わる、といった話だ。ただ、それぞれの小さな情報を手に入れていただけであり、そこから自分がどうしたら良いのかや、学びを得たわけではなかった。ただただ情報を得ただけだった。
そして、色々な情報を見ていく中で、「自分は世の中のことを何も知らない」ということにやっと気づいた。国の制度も知らなければ世界のことも全く知らない、過去のパンデミックについても何も知らない、歴史も知らない。
学生の頃からロクに勉強もせず、大人になってからもなんとなく生きてきただけだ。それ故、情報を得たところで何も活かすことができないばかりか、情報の上辺だけしか見ていないことに気づいた。

以降、私は「世の中についてもっと知りたい」と考えるようになり、勉強し始めた。とはいえ、何から始めたら良いのかわからず、とりあえず興味を持ったことを片っ端から調べるようになり、本も以前は2ヶ月で1冊ペースだったものが、休業中は1週間に1冊のペースで読むようになった(難しくて断念したものもあるが、、)。休業中はとにかく世の中のことを知るために時間を使った。SDGsや働き方について、近代史や時代の流れ、宗教、思想など、あらゆることに興味を持って知ろうとした。とはいえまだまだ勉強中だ。
最初のうちは、ただ知識を得ることが楽しかった。正直、今までなぜ知ろうとしなかったんだろうか、とすら思えた。勉強して学んだことから「今の私の仕事は将来なくなるかもしれない、もっと接客力をあげないといけない」と考えるようになり接客の勉強をし始めたりもした(私は販売員だが、接客が非常にヘタなのだ)。顧客の心を掴む接客ができれば良いが、ただの販売員はいずれいらなくなるだろうと考えたからだ。勉強していなければそんな風に考えることはなかっただろう。自分がそんな風に考えて行動を起こしたのは初めてかもしれない。だからこそ、学ぶことが楽しいと思えたのだろう。

そんな状態の中、緊急事態宣言が解除され仕事が再開した。
休業前の勤務体系に戻り、1ヶ月ほどたった頃、私は違和感を感じていた。
「以前のように朝から夜まで働き、帰宅しても仕事をして、休みの日も仕事をして、これは果たして当たり前なのか」と考えるようになった。休業期間に色々学んだからこそ見えてきた、今の職場の状況のおかしさに気づいた。
それと同時に、「私は一体何をしているのか、何のために働いているのか、勤務時間外の時間を使ってでも私はここで働きたいのか、そもそも自分のしたいことは何なのか」と考えるようになった。
そもそも、お客様から笑顔で「ありがとう」と言われたことが嬉しくて接客業を選んだ。しかし今の私は、「ありがとう」と言われることではなく、「ありがとう」と言ってくれた人が幸せな時間を過ごしてくれることを願っている。だとしたらこの会社や接客業にこだわる必要はないのではないか。
考えた末、仕事再開から3ヶ月後の8月、私は退職を申し出た。とはいえ、実際に退職するのは来年の3月だ。それまでの間は普通に出勤する。しかし、もう帰宅後や休みの日に仕事をする必要はない。その分、自分のしたいことと学びたいことに使える時間が増えた。

今も空き時間は本を読んだり、世の中のことを知るために学ぶようにしている。最近はニュースを見ても、新聞に目を通しても、理解できることが増えた。もちろん、言葉の意味を調べないと話がわからないことや、歴史や政治を知らないとわからないこともたくさんある。しかもわかろうとすればするほど、わからないことが出てくる。なのでこれからもいろんなことを正しく知り、学んでいきたいと思う。その先に私が何を思うのか、何がしたいのか、今はまだわからないけれど。

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