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藤原不比等「強姦罪は斬首刑!殺人と同じ量刑に」安倍晋三「強姦罪は廃止!強制性交等罪は強盗と同じ量刑に」

 よく「野党は何でも反対」と言われていますが、実際には国会で成立する法律の殆どは全会一致で可決しています。
 その中でも、故・安倍晋三首相の時代に自民党から共産党までの全会一致で成立し、しかも『朝日新聞』からフェミニストまで多くの左翼が大絶賛した法律がありました。
 それは何か。当時の『しんぶん赤旗』から引用してみましょう。

改正刑法が成立
全会一致 性犯罪厳罰化図る

 性犯罪に関する規定を110年ぶりに改め、厳罰化を図る改正刑法が16日の参院本会議で、全会一致で可決・成立しました。

 改正法は、強姦(ごうかん)罪を強制性交等罪と改めて被害者の性別を問わないこととし、法定刑を「5年以上」に引き上げ。告訴がなくても起訴できる非親告罪とします。また、暴行・脅迫を要しない保護者など監護者による罪を新設。衆院で「3年をめどに見直し」との修正が盛り込まれました。

しんぶん赤旗2017年6月17日(土)「改正刑法が成立/全会一致 性犯罪厳罰化図る」
(一部抜粋)

 おお、なんか見出しだけ見ると素晴らしい法改正ですね。
 なんと、あの安倍さんが、性犯罪厳罰化をしていたというのです。そりゃ、政治家の皆様も全員賛成しますわな。
 ・・・って、アホかいな!
 これを称賛する人、みんな底なしのアホやと思いますよ。
 ちょっとツッコんでみましょう。先ずは、『赤旗』にも書いてあるこの部分。

改正法は、強姦(ごうかん)罪を強制性交等罪と改めて被害者の性別を問わないこととし

 これはどういうことか。
 言うまでも無いことですが、強姦とは身体男性が身体女性に無理やり性行為を行う最も悪質な性暴力です。
 しかし、実はそれに対して「被害者が女性の場合だけ罰せられるのはオカシイ!男性差別だぁぁぁぁぁ!」と叫ぶアホがいたのです。
 なお、女性から男性への逆レイプも従来から強制猥褻罪で罰せられていました。無論、強制猥褻罪の厳罰化も重要な課題ですが、それは強姦罪とは別の問題です。
 強姦罪は被害者女性を妊娠させようとする未必の故意があります。もしも妊娠した場合、多くの場合は堕胎されるでしょうし、そうでなくても父親が犯罪者であること自体が一種の虐待ですから、強姦犯には堕胎や児童虐待の未必の故意もある訳で、他の性暴力よりも著しく悪質性が高いと言えます。
 それを他の性暴力と同等に扱うことは、望まない妊娠をさせること自体を罰しないと言っているも同様で、事実現行の刑法には望まない妊娠をさせたからといってそれを理由に罰する規定は一切存在しません。
 が、実は安倍政権の下で「強姦罪は男性差別だ!」という主張は堂々と国会決議になってしまったのです。

「強姦罪」女性以外も対象 「男性・性的マイノリティへの差別禁止」を附帯決議で明示
抜本的な改正法が成立した。

性犯罪の内容を抜本的に変更する改正刑法が6月16日、参院本会議で可決、成立した。強姦罪の定義を変え、女性以外も対象とする「強制性交等罪」に改めることや、法定刑の下限を3年から5年に引き上げることなどが柱。

これまでの強姦罪は被害者が「女性」に限定されていた。今回の改正で、女性以外も「強姦の被害者」に含まれることになった。

大改正に伴い、附帯決議では、9つの点への配慮が盛り込まれた。そのうちのひとつがこれだ。

《強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことをふまえ、被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを、関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること。》

渡辺一樹「「強姦罪」女性以外も対象 「男性・性的マイノリティへの差別禁止」を附帯決議で明示」

 この附帯決議の問題点は性的マイノリティの差別とマジョリティである男性への差別を同列に扱っていることです。
 また、性的マイノリティへの性暴力はヘイトクライムの類型で扱われるべきであり、本当に性暴力における性的マイノリティ差別を廃止したいのであれば、ヘイトクライムに対する法整備を行うべきでしょう。
 女性に対する性犯罪は、本来ならば「望まない妊娠をしない権利」も保護法益とするべきであるのに、安倍政権の法改正ではその観点が一切欠如していました。
 理由は、恐らくは堕胎で稼ぎたい医師会の意向でしょう。望まない妊娠が増えた方が中絶をする女性が増えて医療利権複合体の利益になるからです。
 そうであれば、プロチョイス(生命軽視派)である左翼がこの法改正を絶賛した理由も説明が付くのです。
 しかし、それにも増して重要なことはこの法改正、実際には全然厳罰化になっていないということです。
 強制性交等罪の条文を引用してみましょう。

(強制性交等)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 さて、これをマスコミは「厳罰化」と言っている訳ですが、一体どの程度の厳罰化なのか。どの罪と同じぐらい厳罰に処されているのでしょうか?
 実は、これと同じ量刑の罪は一つしかありません。それがこれです。

(強盗)
第236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。

 レイプ犯の量刑が強盗と同じぐらい、のどこが「厳罰化」なのでしょうか?
 無論、これまでの強姦罪の量刑が軽すぎた、という事情もあります。
 しかしながら、強制性交等罪の量刑は通貨偽造罪よりも軽いということは重要な問題であると考えます。

(通貨偽造及び行使等)
第148条 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

 そして、これまでの強姦罪の量刑が軽すぎたと言っても、古代においては強姦罪の量刑はもっと重かったのです。
 『養老律令』におおける量刑を見てみましょう。

「雑律」第26条(姦良人条)
凡そ良人を姦するは、徒二年半。その家人及び奴が主を姦するは絞。強は斬。
〔日野訳〕
良民に姦淫したら懲役二年半。家人や男性奴隷が主人に姦淫したら絞首刑。強姦したら斬首刑。

 律令の文章はしばしば主語が省略されるので、もう少しかみ砕いて要約するとこうなります。

・男性(全男性が対象)が良民(貴族・公民・雑色人)の女性と姦淫をした場合、懲役二年半。
・男性の家人や奴隷が主人である女性と姦淫したら絞首刑。
・男性(全男性が対象)が女性(全女性が対象)に強姦したら斬首刑。

 これでもややわかりにくいところがあると思うので、いくつか用語を解説します。
 まず、良人とは良民の別表記で簡単に言うと貴族から庶民に至る身分の人のことを指します。
 念の為に言うと、これを「高貴な女性」と解釈しないでください。雑色人はむしろ被差別民です。
 そしてここで言う姦淫はいわゆる和姦のことを指し、この条文の趣旨は同意があっても懲役二年半に処するということです。
 この条文の内容が良民女性だけを対象としているのは、良民女性を優遇しているというよりも、むしろ賎民女性の貞操を軽く扱っていると解釈するのが妥当でしょう。
 次に家人と奴ですが、家人はその家に代々仕える隷属民で奴は売買され得る男性奴隷のことです。彼らが主人である女性に姦淫をした場合、これまた同意があっても絞首刑です。
 なお、古代日本では戸籍の内容から女性にも奴隷主がいたことが判っています。奴隷制廃止は平安時代に行われました。
 ここまでは同意がある場合の性犯罪ですので、同意をした女性も罪に問われる等、現代の法体系にはそぐわない面もあります。
 重要なのは、最後の強姦罪の規定で、まず斬首刑は絞首刑よりも重い刑罰です。
 そこで、他にどういう罪に斬首刑が適用されるのかを見ると、古代律令国家が強姦罪をどれぐらい重く見ていたかがわかります。そこで斬首刑になっている例を挙げてみると、

・謀反
・大逆
・謀叛を実行
・謀殺を実行
・祖父母・外祖父母・父母・夫・夫の祖父母・夫の父母を謀殺
・強盗致死
・故殺

と言ったものがあります。なお「謀反」「謀叛」「謀殺」は二人以上で共謀する犯罪であり未遂を含む概念で、それが単独でも成立する「故殺」等とは区別されます。
 これを見ると判るように、律令国家においては強姦罪と強盗罪であれば強姦罪の方が重い量刑でした。
 これは『養老律令』を制定した藤原不比等の賢明な判断でしょう。
 強盗致死と強姦の量刑を同じにしたことは、安倍政権やその法案を全会一致で通した政治屋の皆様に藤原不比等の爪の垢を煎じて飲ませたくなる規定です。
 よく左翼の皆さんは「家父長制ガー!」と言って古代の日本を否定しますが(そもそも律令国家は家父長制では無かったというのが定説なのですが)、現代日本の安倍政権や左翼よりも遥かに性暴力に厳しいのが律令国家でした。或いは、今の日本が古代以上に性暴力に甘すぎるだけなのかもしれませんが。
 強姦と強盗の量刑を同じにすることが「厳罰化」というのは、正気が疑われる訳ですが、現代人は少しは古代の知恵に学ぶべきでしょう。

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。